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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第五部 飛翔するランバード
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百二二話 空の上のポロリ

 すやすやとソファで眠る子供たち。眠そうだったカリンが自然と瞼を閉じ、それに引き込まれるようにユキも夢の世界という形だ。


 ルカも離陸直後にはスヤーッとしているので、これで未成年組の全員が眠ってしまった事になる。……ルカは初めての海水浴を楽しみにしていたので昨夜はカリン以上に眠れなかったのだろう。ふかふかのソファも眠気を誘うので仕方ない。


 こうなれば俺や氷華などの年長組も騒ぐわけにはいかない。ここはリビングを出て座席で寛ぐべきだという事で、肩にラスを乗せたまま静かに立ち上がる。


 氷華にも『一緒に来るか?』と視線で問い掛けるが、こちらはお嬢様を見守りたいのか首を横に振った。逢い引きの誘いを受けたかのような警戒心が見えたのは気のせいだろう。気を取り直し、俺は割り当てられた豪奢な座席へと移動する。


「せっかくだから映画でも観るか?」

「カァッ」


 泣く子も黙るプライベートジェットには最新映画も完備されている。シアポール到着までの数時間に流行りの映画を観るというのも悪くない。


「相棒。例の映画の三作目があるぜ」


 しかし、そこでラスが触れてはならない物に触れてしまった。最近は駄作ばかりを観ていたので口直しに話題作を観るつもりだったが、目敏いラスは映画リストに忌まわしき存在がある事に気付いてしまったのだ。


「名探偵ポロリの事件簿か……。ミスミと三作目を観る約束はしていたが、副題を見るだけで嫌な予感しかしないな」


 名探偵ポロリの三作目。その副題は『一人殺せば殺人犯、百人殺せば英雄や!』という不穏なものだ。過去作で八十人くらい殺害しているので三作目で英雄になってしまう気がしてならない。というか殺し過ぎである。


「カァッッ、殺人犯として開き直ってるのは評価に値するぜ」


 なんとかして良いところを見つけようとする健気なラス。三作目を観る約束があるので頑張って視聴意欲を出そうとしているのだろう。

 この前向きな精神は評価に値する。


「それにしても、過去のラインナップには一作目しか存在していなかったはずだが……雨音が無駄に気を利かせてしまったか」


 以前に雨音が手配した旅館ではポロリの一作目しか存在していなかった。

 それが今回のラインナップでは三作目まで網羅されている。これは俺の視聴履歴を把握している雨音が気を利かせたと考えるべきだろう。


「雨音に視聴履歴を把握されているのはともかく、このシリーズを気に入っていると思われるのが嫌だな……。まぁ、この際だから観ておくか」

「カァッ」


 あまり気は進まないが、ミスミと約束したからには果たさねばならない。

 それにミスミの言によると三作目は趣向が違うという話だ。意外に楽しめるという可能性もあるので視聴前から諦めてはいけない。


『――そらあかんでポロリン。証拠を捏造するのは禁じ手やないか!』

『モロ子、あいつの顔をよう見てみい。あの顔は犯人の顔やで。とりあえずムショにブチ込んでやったらええんや!』


 くそっ、相変わらず酷い内容じゃないか……。

 八十人以上も殺害している大量殺人犯のセリフとは思えないし、名探偵という看板を背負いながら推理要素が欠片もないのは許し難い。三作目は今までと違うと聞いていたが、やはりポロリシリーズがまともな映画であるはずがなかった。


「これのどこが過去作とは別物なんだ……」

「カァーッ、勝負は下駄を履くまで分からねぇぜ? 作品の評価は最後まで観てから判断するのが筋ってもんよ」


 ラスはまだ映画を見限っていないようだ。

 映画の視聴を勝負扱いしている時点でラスの心情が察せられるが、確かにラスの言う通りではある。冒頭だけで全てを判断するのは早計というものだろう。


『――好きや、好きなんやポロリン!」


 おおっと、これは予想外の展開だ。

 この映画に恋愛要素が存在するとは思わなかったが、おそらくミスミの言っていた『趣向が違う』とはこれの事なのだろう。


 しかし、悲しいかな俳優たちは四十代。学生服を着たオッサンとオバちゃんの恋愛模様には微妙な気持ちにさせられるだけだった。


『……身体だけの関係でも、ええか?』


 くっっ、ドクズ……!

 これは主人公のセリフとして許されるのか……。珍しく真面目な顔をしていると思っていたら盛大に裏切られてしまった。

 俺はなんて愚かだったのだろう。信じなければ、裏切られなかったのに!


「何から何まで酷い作品だな……」

「…………」


 饒舌(じょうぜつ)だったラスは無言になっていた。

 この映画を擁護してしまった事を恥じるかのように膝の上で丸まっている。とりあえず優しく羽を撫でて慰めるばかりだ。

 だが、そこから物語は予想外の展開を見せた。


「…………これは、意外と悪くなかったな」


 映画の視聴を終え、俺は感嘆の息を吐いた。

 一作目から三作目の途中までは主人公の犯罪行為を見せられるだけの作品だったが、この三作目のラストには予想外のどんでん返しが待っていたのだ。


「カァッ、ポロリに殺された被害者の息子が完全犯罪か。まさか主人公のポロリが殺されるとは流石に予想できなかったぜ」


 そしてラスも元気を取り戻していた。

 少年法に守られた凶悪犯罪者が報いを受けたのでスカッとした事もあるだろうが、途中まで駄作濃厚だった作品が綺麗な形で終わった事が嬉しいようだ。


「一作目と二作目でヘイトを集めて三作目でスカッとさせるとはな。この無謀とも言える大胆な手法には恐れ入った」


 ある意味では三部作とも言える強気な構成。

 一作目で打ち切られていたらどうするつもりだったのか? と思わなくもないが、結果として溜めに溜めたストレスを解放出来たので爽快感はあった。


「どれ、せっかくだからミスミにメールを送ってやるとしよう。傑作とまでは言わないが、思っていたよりは悪くなかったとな」


 中々に斬新な展開だったが、殺人被害者の息子が復讐するという話は好みだった。法の手が届かない存在を処断する行為には親近感を覚えるのだ。


「カァッ、ストレス展開が長かったから作品全体の評価はそこそこってトコか」


 ラスの作品評価は俺に近い。作品の締め方が綺麗だと名作感を覚えてしまうが、途中までの展開が酷かった事を忘れてはいけないのだ。

 そして俺がメールを送った直後、ミスミから即座に返信が返ってきた。


『ポロリが死んじゃって悲しいですよね。――でもご安心を、次の四作目はポロリの子供が復讐する話ですよ!』


 ふ、ふむ……なるほどなるほど。

 ポロリの子供という設定は気になるが、次回作では正当な復讐を遂げたはずの被害者遺族が復讐の対象にされるらしい。復讐の連鎖かな?


 これは三作目で止めておくのが正解だ。ミスミには申し訳ないが、正しい復讐者が逆恨みで殺されてしまうのは見たくない。


 いや、それよりも。そんな展開を称賛してしまうミスミの精神性が心配だ。

 今後はさりげなく流行りの話題作を勧めて、現在の狂った嗜好から一般的な方向に導いてやるべきなのかも知れない。


明日も夜に投稿予定。

次回、百二三話〔マナーを知る男〕

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