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泣き虫お嬢様と呪われた超越者  作者: 覚山覚
第四部 消失する綿貫
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百五話 見つけた違和感

 ある日の午後、俺は孤児院に足を進めていた。

 最近はカンジの観光に付き合っていたので久し振りの訪問となるが、しかしその間も孤児院に意識を向けていなかったわけではない。


 孤児院の子供たちは俺の家族。大事な家族の事を考えない日などないし、それでなくとも孤児院には不安の種があるのだ。


 孤児院にある不安の種。

 それは杞憂で終わる可能性が高かったが、家族の安全に関わる問題なので俺は油断していなかった――だからこそ、その違和感に気が付いた。


 路上に駐車しているワゴン車。

 運転席と助手席には作業服を着た男。


 一見すると変哲もない設備業者の類に見えるが、運転席の男と目が合った直後に『後ろめたさ』が見えたのが妙に引っ掛かった。


 ワゴン車は路上に駐車しているので罪悪感を覚えたという可能性はあるが……俺が気になったのは、この車が駐まっている場所だ。


 この道路は孤児院に通じる道であり、孤児院に向かう為には避けては通れない道になっている。そう、孤児院に出入りする者を見張っているようにも見えたのだ。


「――おい、お前たち。こんな場所に駐車していたら通行の邪魔だ。この近辺には子供も多いから早々に立ち去るんだ」


 俺は正義感を発露してしまった近隣住民のように警告する。

 取り立てて騒ぐほどの事でもないのは承知しているが、相手を探る意味でも接触しておくべきだと判断したのだ。怪しいと感じたら接触するに越した事はない。


「あっ、すぐに動かしますので……」


 焦ったように窓を閉めながら謝罪する運転手。

 そこに見える感情に悪意はない。驚き、不安、恐怖といった感情が見えるだけだ。……恐怖を感じているのは見知らぬ男に高圧的に注意されたからだろう。


 これは俺の考え過ぎだったか。 


 一般人を怯えさせたので申し訳ない気持ちになってしまうが、これも家族の安全を守る為だと思えば仕方ない。とりあえず笑顔を作って安心させておくとしよう。

 しかし、そこで事態は思わぬ方向に転がる。


「――あーっ、ビャクさんだーーっ!」


 無邪気な声に振り返ると、制服姿の少女が嬉しそうな顔で立っていた。

 綿貫ミスミ。光人教団の幹部に監禁されていた少女であり、希少な物質干渉型の『転送』の能力者でもある。


 そして、このミスミこそが俺の不安の種だ。


 この国には超能力者たちが集まる組織が存在し、各組織が人材を求めて組織に所属しない野良の超能力者を探している。

 そんな連中にミスミの存在が露見すれば大変な事になるので、孤児院周辺の不審者に対して神経を尖らせていたのだ。


「ミスミは学園帰りのようだな。どうだ、学園にはもう慣れたか?」 

「えへへ、それがですねぇ……」


 俺はミスミと会話をしつつ、それと同時に他事へ思考が飛んでいた。その他事とは他でもない、ワゴン車に乗った男たちの反応だ。


 彼らには悪意が見えなかったので無関係な一般人と判断しかけていたが、ミスミが姿を見せてから予想外の反応を見せたのだ。


 傍目には興味が無さそうな態度。ミスミが車の前に立っているので、ワゴン車を動かせるまで待っているような様相だ。


 だが、俺の目は誤魔化せない。

 彼らの意識は間違いなくミスミに向いていた。巨乳の女子高生なので異性の目を引きやすくはあるが、俺の目に映ったのはそのような類のものではなかった。


 彼らに見えた感情は、驚き、緊張――そして、小さな罪悪感だ。


 この時点で彼らの素性に見当がつけられたが、まだ敵か味方かを判別するには情報が不足している。とりあえずミスミと会話をしながら探っていくべきだろう。


「……しかしよく見ると、その制服は『名探偵ポロリの事件簿』に出てくる制服と似ているな。実在する制服をパクったんだろうか?」

「ふっふっふっ、流石はポロリ仲間のビャクさんですね。何を隠そう、これこそが私が学園を選んだ最大の理由なんですよ」


 俺が会話に混ぜたキーワードに、男たちは予想通りの反応を示した。彼らの素性には見当がついていたが、この反応によって推測は確信に変わった。


 この作業服を着た男たちは、俺の同業者――『探偵』の類だ、と。


 彼らの目的は綿貫ミスミ。

 何者かに依頼を受けて、このミスミの事を調査する為に張り込んでいたのだ。


 しかし、本当に難しいのはここからだ。

 彼らに悪意が見えれば叩きのめして尋問しているところだが、おそらくは依頼人から依頼を受けて調査しているだけの連中だ。

 そんな彼らの両手両足を折ってしまうのは正義の名探偵として抵抗がある。


 妹分が調査対象になっているという一事だけでも制裁理由にはなるが……しかし、依頼人の思惑が分からない内から敵対行動を取るわけにはいかない。

 ここはさりげなく情報収集に徹するべきだ。


「俺をポロリ仲間と呼ぶのは止めるんだ。というか、あの偏差値が高い学園をそんな理由で選んでいたのか……」


 理由、場所、それらの単語を会話に織り交ぜ、横目で対象の心を読んでいく。

 この状況下で探偵の話題はうってつけだ。会話の中に『依頼者』や『依頼内容』などの単語を入れても違和感がないので実にやりやすい。

 まさかあのゴミ映画がこんな形で役に立ってくれるとは思わなかった。


「――ところでミスミ、そこに立っていたら通行の邪魔だぞ。さっきからこの車はミスミが退くのを待っているんだからな」

「ええぇっ!? もーっ、それならそうと早く言ってくださいよ~」


 十分に情報を引き出したところで話を打ち切った。ミスミはふくれっ面で文句を言っているが、そもそも車の移動を要請していたのは俺なので何も問題は無い。


 男たちもミスミに「すみませ~んっ!」と頭を下げられて文句など言うはずもなかった。むしろ調査対象に謝罪されているので気まずそうだ。


「……おっと、そういえば用事を思い出した。また後日に来るだろうから、院長先生によろしく言っておいてくれ」


 孤児院で子供たちの顔が見たかったが、今はミスミの問題を優先しなくてはならない。今日のところは早急に退散だ。


 ちなみにこの件をミスミに話すつもりはない。

 無邪気な妹分には出来る限りストレスを与えたくないので、本人のあずかり知らぬところで密かに解決するつもりなのだ。


 前々からミスミの能力が狙われている事は伝えてあるので問題は無い。もしも俺の不在時にスカウトを受けたら、前向きな返事で保留するようにも伝えてある。


 超能力者集団の目的はミスミを仲間として引き入れる事にあるはずなので、その場でスカウトを断らなければ危害を加えられる可能性は低いのだ。


「ビャクさん、ちゃんとポロリの二作目を観ておいてくださいね!」


 俺が背を向けたところで、ミスミから意味不明の言葉が飛んできた。ポロリの二作目とは、まさか『名探偵ポロリの事件簿』の事を言っているのだろうか……?


 思い返せばミスミと何かを約束したような記憶はある。男たちの反応を読み取ることに傾注していたので話半分だったが、まさかあの映画の続編を観るという狂気の約束をしてしまったのか? というか、あのゴミ映画に続編があったのか?


 観たくない、あの映画の続編など観たくはないが……ミスミはニコニコ顔なので約束を反故にするわけにはいかない。ここは覚悟を決めて視聴せざるを得ない。


 まぁなにはともあれ、まずは直近の問題を片付けることが優先だ。

 今回の件がミスミの害となるかどうかは判然としないが、万が一の事態に備えて早急に動いておかねばならないだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、百六話〔疑わしい依頼人〕

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