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しん、とした静寂が辺りを漂う。
もう3分くらいこの状態である。
声をかけた瞬間急に落下音や破裂音が響いたと思ったら、その後は沈黙。
反応からしてばっちり聞こえてるはずなので、もう1回呼びかけるのもなんかなぁ、と思いとりあえず扉の前で待機することにした。
そして追加2分ほど経ったあと、ようやく扉が軋みながら外側に開いた。3センチほど。
「………何の用だ」
どうやらその場で言えということらしい。
「お夕飯一緒に食べませんか」
もう直球である。仕方ない、こちらもこんだけ待たされたのだから社交辞令とか言ってる余裕ない。
「…………………………分かった」
たっぷり時間をかけたものの、戻ってきた返事は肯定だった。
「ありがとうございます!」
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るんるんでスキップしながら部屋に戻り、ドレスや髪飾りを吟味する。
なにしろ久しぶりの人との会話である。楽しみでないはずがない。
「……でも、また駄目だったら」
ふと鏡に映る自分の姿を見て、気分が陰る。
髪も目も塗り潰したように真っ黒だ。おまけに愛想笑いの1つもできない。
楽しい時は笑うけど、何もないのにニコニコ笑えない。そんなのは私じゃないからだ。
元々の性格に令嬢らしさなどかけらもないし、可愛らしい趣味など到底持ち合わせていない。
別にアレンと結婚したかった訳ではないが、今回のことで私には魅力がないのだと言われた気がしてならなかった。
1人でも充分生きていける自信はあるが、誰にも必要とされないのは辛い。
「よし、がんばろ」
鏡の中の自分に向かって、指でむにっと口角を上げて見せた。
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「美味しいですね」
「…ああ」
素直に時間ぴったりに来た陛下は、さっきからこっちを睨みながら食事をしている。
何でやねん。
でも、やっぱり綺麗な顔をしてる。光に反射する白銀の髪に、アメシスト色の瞳。
涼やかな顔立ちなのに、長い睫毛や薄い唇、何より蠱惑的な瞳の色が魅了して目を逸らせない。
「……何か話したいことがあるんじゃないのか」
見惚れていると、眉間に皺を寄せながら問いかけられる。
あ、そうだった。
「そうなんです、よく分かりましたね?」
「フン、当たり前だ」
陛下はそう言うと、ようやく私から視線を外した。
「実は、毎日お夕飯一緒に食べて欲しくて」
「…………は?」
当たり前とか言うから知ってるのかと思ったらすごい変な顔で聞き返された。
え?
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※ダイス視点
何なんだこの女は。
俺は目の前にいる女を睨み付けた。
第一、おかしいとは思っていた。
結婚したにも関わらずこいつは服も金も宝石も欲しがらない。更には放置しているにも関わらず無反応。
普通の女はこんな山奥に閉じ込められたら発狂しそうなものだが、そんなこともなく普通に暮らしている。
今日俺の部屋に来たときには 何か強請るのだろうと思っていたが、夕食に誘われ、その夕食でも当たり障りのない話しかしない。
痺れを切らして俺から問いかけると、夕食を毎日共にしてほしいと言われる。
……どういう魂胆なのか、まったくもって予想が出来ない。
「だめですか?」
きょとんと小首を傾げられる。くそ、本当に何なんだこいつは!
渋々頷くと、嬉しそうにお礼を言われた。
か、可愛いなんて思ってないぞ!
そのうち必ず本性を暴いてやるからな…!