1
「婚約破棄してくれないか」
そう言われ、王太子の婚約者である私、カリーナは目を瞬いた。
「…理由は?」
「愛想がないだろ」
間髪入れずに返ってくる。
愛想?!
失礼な、愛想なんていくらでも……………少しくらいは……………ないな。うん。
それはごめんて。
いやでも、言い訳をさせて貰えば王太子(もうめんどくさいからアレンって呼ぶ)とは、3歳からの付き合いなのだ。
お互いに兄弟のような情は湧いても恋愛対象には見れない。
いつもタメ口で話してるのに社交の場ではキリッと話してるだけでも褒めて欲しいくらいだ。
「好きな人が出来たんだ」
アレンは冗談めかした口調から一変し、真剣な面持ちでそう言った。
最初からそう言え馬鹿野郎。
「…そう」
誰、とは聞かずとも分かっている。陽の光のような暖かな髪色に似合う明るい性格で、笑顔を絶やさない可愛らしい令嬢だ。黒髪で無表情の私とは正反対である。
誰とでも分け隔てなく接する優しい人で、一緒にいると不思議と落ち着く。おまけに美人だ。
羨ましい、とは思う。だって私にないものを全部持っているから。
……まぁかと言ってアレンと結婚したかったかと言われたら答えは否だけど。
「……カリーナには、本当に申し訳なく思っている」
「……………なんか、アレだな。急に真面目に言われると気色悪いな」
「失礼じゃないか?!」
アレンに真剣に話されると鳥肌が立つ。
それでも、純粋に2人には幸せになって欲しいと思う。
私達は婚約者以前に幼馴染だから。
じゃ、そゆことで。という感じでものすごく円満に婚約破棄は終わった。
かと言ってハイおわり!とはいかないのが現実だ。
なにしろ私の家系は国家二大勢力と呼ばれるほど莫大な権力を持っている貴族である。
王太子に婚約破棄されて傷物になっても尚、そこらの貴族とは結婚出来ない。アレンも自分からフった手前こちらの次の相手を考慮しなければならない。
……と、いうわけで。
「……なんでこうなった」
隣国の皇帝陛下に嫁ぐことになりました。
おい、嘘だろ? 誰か嘘って言ってくれ。
ダイス・シャンド、第二王子だったものの昨年第一王子のシャルフが死去、2人の父にあたる皇帝が引退し、齢19にして急遽皇帝の座に据えられた若き皇帝。
類稀なる才能を発揮し国の情勢を瞬く間に安定させたものの、本人は別荘である森に籠もって魔法の研究をしていると言う。
国民はそんな皇帝に感謝すれば良いのか、不気味に思えば良いか分からず無反応。慕われても嫌われてもいない不思議な皇帝である。
……いや、無理です。
そんな急に荷が重いです。
私は適当なおじいちゃんに嫁いで早々に未亡人として好き勝手生きられれば何にも文句はないのに!!
「ま、まぁ嫌になったらたまに遊びに来ても良いしな」
婚約者の名前を聞いて元々悪い目つきを更に剣呑なものに変えていると、アレンから助け舟が出された。
いや、別にそれはいらない。