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神話 伝説 歴史 詩集

ギリシャ神話詩『アポロン讃歌』

 古代ギリシャ研究家の藤村シシン先生を中心に、2020年4月29日(水)にtwitter上で開催された「エアアポロン誕生祭」に投稿した詩で、古代ギリシャの詩人ホメロスの叙事詩『イリアス』『オデュッセイア』などを参考に自己流でつくった、ギリシャ神話の神アポロンをたたえる歌=讃歌です。アポロンは疫病とその治癒を司る神様でもあることから、コロナウイルスの終息を願う内容にもなっています。小説ではなく詩ですが、せっかくつくったので、日頃お世話になっている当サイトでも披露させていただくことにしました。

 詩女神ムーサよ歌え、オリュンポスの峰に座し、

 この世見はるかす神々の 中でもわけて美々しき御方、

 銀の弓持ち遠矢を放つ、ゼウスの御子みこなる神アポロンの讃歌(ほめうた)を。


 クリュセならびに聖地キラ、テネドス統べるレトの御子。 ※1

 デルフォイの神殿やしろにましまして、

 巫女に真実まことを告げる予言のあるじ

 

 おお、輝ける神フォイボスよ! ※2

 真砂まさごの数を知る者よ、海の広さを知る君よ。

 今宵、御身に捧ぐは百牛の贄(ヘカトンベー)。 ※3

 死すべき運命(さだめ)の我ら今、集いて御身をいざたたえん。

 人の信仰崇拝廃れ、己が神殿やしろに今ははや、祈りの声も絶え果てし、

 神の御心みこころ慰めん。


 されば御身願わくば、我らが声を聴きたまえ。

 疫病の終息請い願う、我らが祈りを聞き届け、なにとぞ慈悲を垂れたまえ。


 神代かみよの昔トロイアの、聖なる都イリオスを、 ※4

 十年(ととせ)攻めたるギリシャの民(ヘレネス)に、 ※5

 御身、銀の弓引き遠矢を射かけ、疫病長らく流行らせたり。


 あのときさながらに今日こんにち我ら 死すべき定めの人間は、未知なる疫病に皆、苦しみ、あえぎ、もだえたり。

 届かざるや御身の耳に、響かざるや御身の胸に? 人の悲しみ、嘆きの声は。

 おお、大いなるスミンテウス! ヘクトルの守護者、アキレウスの殺し手よ。 ※6

 御身に仕えしクリュセスの 切なる祈り聴き入れて、 ※7

 弓引き絞る御手(みて)を止め、銀の矢 えびらに仕舞いし御身。

 その御手をもて疫病払い除け、ギリシャの民(ヘレネス)救いしアポロンよ。

 死すべき運命(さだめ)の我ら今、平に願いたてまつる。


 なにとぞ払いたまえ、かの疫病を!

 かつてイリオスへ攻め寄せた ギリシャの民ヘレネスに疫病もたらし、

 数多の命奪いし弓と矢をもて、今は追い立てたまえ、かの忌まわしき疫病を!

 そして照らしたまえよ 悲嘆に沈みしこの大地、黄金(こがね)の馬車で天翔けて。

 御身のまばゆき威光にて、疫病退散せしめた その後は、

 馬車引く神馬を駆り立てて、意気揚々と戻られよ。

 はるかな高峰、神々ましますオリュンポスの高嶺たかねへと。


 床に青銅敷き詰められし 大神ゼウスの館にて

 御身が弓と矢 御座(みくら)の脇に置き、

 虚ろなる竪琴(リラ)爪弾けば、溢れ流るる甘美な調べ。

 楽の音響けば詩女神ムーサが歌い、諸神も集いて舞い踊らん。

 雲を集め、いかずち走らせる大神ゼウス。

 白き(かいな)のヘラ女神、大地揺るがすポセイドン。

 猛きアレスに賢きアテナ、実りもたらすデメテル女神。

 泡より生まれしアプロディテ、名高きたくみのへパイストス。

 狡知に長けたるヘルメスに、矢の雨降らせるアルテミス。

 ばたにましますヘスティアに、酒杯掲げるディオニュソス。 ※8


 かくて諸神入り乱れ、至福の時を過ごすなら、

 天の輝き大地を照らし、人の世もまた平和にならん。

 神も人も諸共もろともに、さち満ち足りて笑い合わん。

 神人共に喜び怒り、泣いて笑いし神代かみよのごとく。


 ではこれにてさらば、ゼウスの御子なるアポロンよ。

 今宵この歌 御身に捧げ、疫病の終息 祈願せん。


【注釈】

※1 クリュセならびに聖地キラ、テネドス統べるレトの御子。デルフォイのやしろにましまして

 クリュセス、キラ、テネドス、デルフォイはアポロンの聖地。特にデルフォイはアポロンの神託で名高い。レトはアポロンの母で、ゼウスとの間にアルテミスとアポロンの姉弟神をもうけた女神。


※2 フォイボス

 アポロンの異名。


※3 百牛の贄ヘカトンベー

 アポロンの誕生を祝う祭りでは、百頭たくさんの牛が生贄として捧げられた。


※4 イリオス

 ホメロスの叙事詩『イリアス』において、ギリシャ連合軍と戦ったトロイア王国の都。


※5 ヘレネス

 古代ギリシャ人は、自らのことをこう呼んだ。


※6 おお、大いなるスミンテウス! ヘクトルの守護者、アキレウスの殺し手よ。

 スミンテウスはアポロンの異名。「ヘクトルの守護者」「アキレウスの殺し手」は、トロイア戦争の伝承にちなんだ表現。トロイア戦争において、アポロンはトロイア軍の総大将ヘクトルに味方した。また、ヘクトルがギリシャ軍最強の英雄アキレウスに討たれた後は、ヘクトルの弟パリスが兄の仇討ちを果たすのに力を貸した。


※7 クリュセス

 アポロンに仕えるトロイア王国の神官。娘クリュセイスがギリシャ軍に捕らわれたことから、ギリシャ軍へ疫病をもたらすようアポロンに願った。後に娘が帰ってくると、アポロンに疫病を払うよう祈った。


※8 ゼウス、ヘラ、ポセイドン、アレス、アテ、デメテル、アフロディテ、へパイストス、ヘルメス、アルテミス、ヘスティア、ディオニュソス

 アポロンと共に「オリュンポス十二神」と呼ばれ、古代ギリシャ人に信仰された神々。

 歌の大意は、以下のようになるかと思います。


 詩を司る女神ムーサよ、オリュンポスの峰に座し、この世を見渡す神々の中でも一際美しい男神、最高神ゼウスの息子でありますアポロンの、輝きをたたえる賛歌をお歌いください。

 おお、輝ける神フォイボス・アポロンよ、今夜、私たち人間はあなたに牛百頭の生贄をささげ、皆であなたをたたえましょう。

 今や人から信仰・崇拝されることもなく、神殿に祈りの声が響くこともないあなたの心をお慰めしましょう。

 ですからどうか、私たちの声をお聞きください。

 疫病の終息を請い願う私たちの祈りを聞き届け、なにとぞ慈悲をお示しください。

 遠い昔、トロイア王国の聖なる都イリオスを十年に渡って攻めたギリシャの民に、あなたは疫病をもたらし、長きに渡って苦しめました。

 あのときのように、今私たち死すべき定めの人間は、未知の疫病に皆、苦しんでおります。

 私たちが悲しみ、嘆く声は、あなたの耳に届かないのですか? あなたの胸に響かないのでしょうか?

 あなたに仕える神官クリュセスの切なる祈りを聴き入れ疫病を払い、ギリシャの民をお救いになったアポロン、あなたに私たち人間は願います。

 どうか疫病をもたらす弓矢を収め、悲嘆に沈むこの大地を黄金の馬車で照らし、オリュンポスへとお戻りください。

 あなたが弓と矢を脇に置き、竪琴を奏でれば甘美な調べが溢れて流れ出し、詩を司る女神ムーサは歌い、大神ゼウスをはじめとする神々も集まって踊ることでしょう。

 このように神々が至福の一時をお過ごしになれば、天上の輝きが大地を照らし、私たち人間の世界も平和になりましょう。

 神々も人間たちも幸せに満ち足りて、共に笑い合うことでしょう(神と人が共に喜び怒り、泣いて笑って生きていた遠い昔、神話の時代のように)。

 では、これにて失礼いたします、最高神ゼウスの息子でありますアポロンよ。

 今夜、この歌をあなたに捧げ、疫病の終息を請い願います。


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― 新着の感想 ―
[一言]  諸葛 亮さんこんにちは。訳がついて俄然興味が湧いてきて拝読させていただきました。諸葛 亮さんは、本当に伝説の神々がお好きなんですね。そしてこの時期に本当に励まされる詩でした。
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