軽い背中
エクバ2で愛機であるエクシアちゃんとファントム君が強化されて嬉しい
「はぁ、もうクタクタ。もう動けんわ」
場面は変わって夕方。俺は子供達との鬼ごっこに何とかギリギリで勝利した後、俺はレイカの手を借りながら疲労困憊の体に鞭打って帰宅する。
玄関を開け、靴を乱雑に脱ぐと、ふらふらの足で寝室へと向かう。そして、ダブルベッドが目に入るとゆっくりと近づき、ベッドにうつ伏せになって倒れ込む。
雲に包まれたような柔らかい感覚に俺はすぐにでも眠ってしまいそうになる。
「無茶しすぎなのよ」
後に続いて寝室に入ってきたレイカは徐に枕元に腰掛ける。そして、俺の凝り固まった背中を親指で押す。
疲労時特有の痛みと気持ち良さが混じった感覚に俺はピクリと体を跳ねさせる。
レイカは「陸に打ち上げられた魚みたい」と声を上げて笑う。
俺は恥ずかしくなり、枕に顔を埋める。
戦い終えた俺は現在、レイカと一緒に1LDKの小さな一軒家で暮らしている。
炊事、洗濯など殆どの家事を全くこなせない俺は一人暮らしなど世界を救う以上に無理難題なことだ。そんな俺を見兼ねたレイカは自立できるまで、面倒を見てもらうことになった。
当然、年頃の男女が同じ屋根の下で暮らすことに周りの人間を話の種にしないわけがない。同棲し始めた頃から「いつ結婚する気だ」とか「どこまで進んだ?」とか村の人間達からからかいが始まった。
レイカの父親でもある村長からは「責任は取れよ」と脅されてもいる。
村人達のからかいに俺もレイカは毎日頬を赤らめている。
レイカはどう思っているかさておき、正直なこと言うと俺は嫌じゃない。
戦っていた時はいつ死んでもおかしくない、下手に人と繋がりを持つとその人か弱点になってしまうことが多かった。
前者は俺がチート能力のおかげで特に心配はなかった。しかし、後者の場合は対処しようのないチート能力を持つ俺の唯一の弱点であり、よく人質を取られていた。
だから、今までは人を愛することができなかった。でも、今はそんな心配はないから、子供達と一緒に遊べるし、レイカと共に一緒にいれる。
凡人であるが故の幸せを感じられるのが何より嬉しかった。
「幸せだな……。今が……凄く」
不意に本音が漏れる。
「戦わなくていい。命を奪わなくて、失わなくていい。平和な日常を送れる今が……本当に楽だ」
「辛かったんだね」
レイカは俺の頭を優しく撫で、優しく甘い声で同情してくれる。
理解者がいてくれることも何より幸せだ。
「いくら力があっても、心が硝子だから」
どんなにチートな力があっても俺は感情を持つ人間だ。さらに心は全く強化されてなかった。
当たり前だが悲しいことがあれば泣いたし、戦うことに恐怖したこともあった。
町の人達を救えなかった時は悔しくて、死にたくなるくらい自分を憎んだ。
でも、旅の先々で出会った人達と関わり、励まされたこと。共に命を託しあった仲間がいたこと。そして、レイカ達の笑顔をもう一度見たいという願望のおかげで立ち上がることができた。
「これからはゆっくりとすればいいよ。人生はまだ始まったばかりなんだし」
「そうだな。俺はもう普通の人間だから」
何も恐れることはない。何も失う機会もない俺は何も気負う必要はない。
もう、自由で好きに生きていいのだと安心すると、賛同するように俺のお腹が鳴る。
「ふふ。あれだけ動いたらお腹は空くわよね」
腹の虫を聞いたレイカはふふっと優しく笑う。
そして、ポケットからヘアバンドを取り出すと肩まで伸びる後ろ髪を纏める。
「美味しいご飯作っておくから、トーカはゆっくり寝ててもいいよ」
レイカは立ち上がって、結った後ろ髪を振り、キッチンへと向かった。
「それじゃあ、お言葉に甘えて……」
俺はレイカの言う通り、ゆっくりと目を閉じる。
数秒後には意識が完全に闇に落ちる。