人器一体
「こんな……綺麗に斬れるのか」
「試してみるか?」
綺麗な石の断面を見惚れていると、ノブトモはこちらにゆっくりと石を投げてきた。
俺は剣を抜く。
たかが、石を斬るだけのこと。それは簡単だ。
だが、ノブトモのように綺麗に斬れるかどうか。
「はあぁ!」
ゆっくりと迫る石を俺は斬る。
刃が石と接触した時、俺は確信した。
「ダメだな……」
「そのようだな……」
俺は足元に落ちる石の欠片を見る。
粉々に砕けた石。ノブトモのように斬れず、ただ力任せに割っただけだ。
「お前の太刀筋には余計な力が入りすぎている。それでは斬れる物も斬れず、持久戦もままならないぞ」
「だけど、どうすれば……」
「呼吸を知れ」
「呼吸?」
「全ての物には呼吸がある。その呼吸に合わせればどんな硬い物でも斬れる。そして……」
ノブトモは刀を構える。
「武器との呼吸と合わせろ」
「呼吸に合わせるって……どんな感じだよ」
いまいち、言っていることが理解できない。
呼吸をしない無機物と呼吸を合わせるなんて不可能だ。
「人器一体。心と武器を一体化させる。さすれば……万物を斬ることができる」
ノブトモは瞼を閉じ、ゆっくりと呼吸をする。
まるで、ノブトモの周りだけ時が止まったような空気が流れている。
「やってみろ」
俺も瞼を閉じて、見様見真似でやってみる。
目を閉じることで当然、世界は真っ暗になる。
「目で認識するな。耳で聞くな。肌で感じろ」
ノブトモの声が聞こえるが今の俺には雑音でしかない。
手に持つ剣に意識を集中する。
冷たい鉄。重くて、少しでも力を抜けば先端から地面に落ちるだろう。
わからない。呼吸が全くわからない。
焦りが募り、冷静さを欠き始めたたため、一度深呼吸をして心を落ち着かせる。
ドクンと心臓が脈打つのを感じる。
俺の脈は全身を巡って……剣に伝わる。
「これは……」
先程まで感じた鉄特有の冷たさはなく、人肌のように温かい。
重く感じていたのも、今では手足のように軽い。
まるで剣が俺の一部になったかのかと錯覚してしまう程、感覚が変化していた。
「飲み込みが早いな。その調子でもう一度、石を斬ってみろ」
俺はゆっくりと瞼を上げる。
ノブトモの方から先程と同じ大きさの石が投げられる。
その石を俺は斬る為、剣を振るう。
力任せにただ振るわない。
まるで風を撫でるように、手首を使って緩やかに。だが、キレよく剣を振るう。
すると、石は斬られた。
欠けることも砕けることもなく真っ二つに。




