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教導

「あいつに教えを乞うか……」


 クエストを達成し、ギルドで報酬を受け取った俺は帰り道、ノブトモの言葉が脳内で反復していた。

 「稽古をつける」か。何を思ってこんな言葉を吐いたのか。

 あいつは明らかに強い。腕っぷしも然ることながら何よりもノブトモは権力を感じられた。足軽を率いてることと、先日のギルドでの統率力。あれは並の人間が扱えていい力ではない。

 そんな上に立つ人間が下で跪く俺に稽古をつけるなんてどんな考えなのか。

 個人的興味なのか、それとも何かに利用するつもりなのか、

 前者ならいいが、もし後者ならば安易にのるわけにはいかない。


「どうするべきか」


 恐らくノブトモに教われば必ず実力はつくだろうが、くだらないプライドがブレーキをかける。


「ただいま」


 そんなことを考えているといつの間に宿の前についていた。

 いいや。寝る前にゆっくり考えればいいと結論を先延ばしにする。


「いいか。ただ出すだけじゃない。息を少しずつ吐き出していく感じで……ゆっくりと」


「えっと……ゆっくりと……少しずつ……」


 扉を開けるとそこではサラルドがメアリーに魔法を教えていた。

 メアリーは掌の上に小さな丸い球を乗せ、その中に魔法で生み出した風を起こす練習していた。

 これは魔力をコントロールする練習としてかなりメジャーなもの。

 一度に球の中を風を起こさなくてはいけない。少なすぎても多すぎてもいけない。

 サラルドのアドバイス通りにやろうとしているが、高い魔力量を上手くコントロールできず、許容量を超えた風を溜めた球は破裂する。


「難しい……です」


「深呼吸みたいに一気に吐くんじゃない。笛を吹くように少しずつ、息を吐くイメージだ」


 サラルドは丁寧に、具体的に指導していく。

 俺やレイカでは決してできない指導だ。


「あ、トーカさん。お帰りなさい」


 ふと、メアリーが俺の存在に気づく。


「あぁ。練習中か」


「そうだ。少しでも戦力が欲しいからな。それに……あんたらの指導は下手で見ていられなかったからな」


 サラルドの覆い隠さない直線的な物言いに俺は苦笑いを浮かべる。

 その通りだ。

 俺達だけではメアリーの素質を活かすことはできない。

 特に俺はあんまり魔法そのものが得意ではない。

 指導できる程の実力も技術もない。

 かと言ってメアリーに独学でやらせるのも酷だ。

 

「強くなる為にそれ相応の力の持つ人間に任せるか……」


 俺も強くなりたい。

 プライドはある。

 だが、くだらないプライドで弱いままでいていいのか?

 弱いことで仲間を危険に晒し、挙げ句に殺すことになってもいいのか?


「……簡単な話じゃないか」


 俺はわかりきった答えにただ笑うことしかできなかった。

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