前兆
どうも
最後の夏休みに入りました島下遊姫です
朝の日差しが緑豊かな大地に降り注ぐ。
暖かく、心地よい光は人々の心を穏やかにし、生命に命を与える。
今日もまた朝を迎えられた。
これは何よりも幸せなことだ。
人は必ず朝を迎えられるわけではない。突然、不慮の事故に遭ったり、発作で命を落としたり、魔物に襲われたりして朝を迎えられず、天に召されるなんて最悪なことが起きる。それは誰しも起こりうる可能性だ。いつ踏んでもおかしくない地雷みたいなものだ。特に俺達みたいに魔物と戦うことが日常な人間は特に踏みやすい。
だからこそ、一日を大事にして、朝を迎えられることに感謝しなければならない。
「おはよう……トーカ」
朝を迎えられたことに並々ならぬ感謝の念抱いたところで、寝ぼけ眼を擦り、赤子のような不確かな足取りのレイカが現れる。
レイカは一つ大きな欠伸をし、俺の傍まで歩いていくる。
「おはよう。昨夜は楽しかったか?」
「うん。美味しいご飯がいっぱいでね!」
「それは良かった」
俺はずっと村の方を凝視する。
「出発しないの?」
「あぁ。あいつが来てからな」
レイカは不思議そうに顔を覗き込む。そうなるのも当然だ。先を急いでる筈の俺が準備が整っているにも出発しようとしないのだから。
こうなった要因を説明しようと口を開いたその時、
「お待たせしました」
と小動物ような可愛らしい小走りでメアリーが現れる。
背中に小柄な体には少し大きいリュック。動きやすそうな
「みんなに挨拶したか?」
「はい。村中の人達に反対されたんですけど……頑張って説得しました」
「ならいいさ」
メアリーはあどけない笑みを浮かべる。
体が弱く、力も決して強いとは言えない彼女が旅に出たいと言い出しても村の人達は素直に首を縦に振るはずがない。
でも、メアリーは説得して、俺達の元に来た。きっと村人達はメアリーの星のように瞬く夢を聞いて、納得したのだろう。
「トーカ。どういうことなの?」
「世界を自分の目で見たいって言ってたからさ。それなら、俺達と一緒に旅をしてみないかって誘っただけだ。……もしかして不安か?」
「いいえ。同意があるならいいわ。何かあれば私達で守ればいいしね」
レイカもすぐに納得した。
「不束か者ですが、よろしくお願いします!」
「うん! よろしくね!」
メアリーはレイカに深々と頭を下げる。
レイカはサラサラのメアリーの頭を撫でる。
「……さぁて、出発するぞ!」
「はい!」
「レッツゴー!」
メンバーが揃ったところで俺達は新しい街に向かうため、村を出発する。
足取りが非常に軽い感じがする。
「綺麗な花だな」
村から出発し、黄色の花畑の中に続く一本道を歩く。
俺は傍らに咲く可憐な花に気を取られ、ゆっくりと鼻を近づけ、甘く漂う香りを嗅ごうとする。
すると、メアリーは細い腕を俺の腕を懸命に引っ張る。
「トーカさん!? そんな近くで嗅いだら危険ですよ!」
「……?」
俺はポカンと口を開く。
「全く、忘れちゃったの? その花には催眠作用があるのよ」
「……いやいや。覚えていたさ。うっかりしただけさ」
二人に静止されて何となく思い出した。
この花の匂いには催眠作用があったことを。
危ないところだった。あのまま匂いを嗅いでたらまたもや村に逆戻りするどころだった。
それにしても最近、物忘れが酷い気がする。一時の平和ボケで脳の働きが鈍ったのか、はたまた戦闘の疲労が大きいのか。
どちらにせよ気を付けなくてはならない。
戦闘中等の肝心な時に肝心な知識を忘れてしまっては自分の命、二人の命を危険に晒すことなってしまうから。




