鋼の肉体
どうも
最近、イラストの練習を始めた島下遊姫です
一歩一歩、広場に足を踏み入れる度に独特の緊張感が走る。
捉えられた村人達はオーガ達、それもボスが悠然と構えているにも関わらず、単身で乗り込んできた俺を見て、腫れ物を見るかのような瞳をこちらに向ける。
オーガ達も臆することなく前を通り過ぎる俺を見ては啞然としていた。
「お前がボスか」
「なんだ、このチビ助?」
俺がボスオーガの目の前まで脚を震わすことなく堂々した足取りで近づく。
ボスオーガはひょうたんから口を離すとその鋭い目で俺を睨みつけ、獣のような低い声を発した。
睨みつけるその視線だけでビリビリと肌を震わす。臆病な人間なら泡を吹いて気絶する程の圧と恐怖。
数々の修羅場を潜り抜けてきた俺でも流石に冷汗をかく程のプレッシャーだ。
しかし、デスペラードのプレッシャーに比べれば大したものではない。
「あんたをぶっ倒しに来た」
だが、俺は剣先を向けて、臆することなく宣戦布告する。
その様子をボスオーガは頬杖を付いて黙って眺めていた。
「最初に忠告しておく。この村から直ぐに立ち去って、二度と人間を襲わないと誓うならあんたらを見逃してやってもい」
「チビ助。まるで儂が下であるかのような口調だが、薬物でも摂取しているのか?」
大きな口から
たかが人間が魔物に指図をする。それも倍以上の図体と力の差があるにも関わらずにもだ。
飛びかかるオーガを鮮やかに避け、そして回避と同時に華麗な剣さばきで斬りつける。
オーガ達は悲鳴を上げて、その場にうつ伏せに倒れる。
「これでもラリってると思うのか?」
「面白い!」
部下達は一瞬の内に無力化した俺に興味が湧いたボスオーガは重い腰を上げ、傍らに立てていた三メートル超の鋭い棘が幾つも生えた混紡を手に取ると足元にいる俺を潰さんと大きく振り下ろす
「くっ!」
俺は咄嗟に攻撃を避ける。
混紡が地面に叩きつけられると、砂煙が舞う。まるで地震のような揺れと衝撃と破片が襲いかかる。
小さく蝿のように速い破片を避けきることはできず、肌を掠め、少量の血が流れる。
恐ろしいパワーと冷汗をかいているが驚くのはこれからだ。
砂煙が消えると混紡の下にクレータができていた。それ程の衝撃とパワーをたかが人間の俺がまともに受ければミンチになるのは明白だ。
「流石にパワーはダンチか! だが!」
しかし、どんな力があっても当たらなければ宝の持ち腐れだ。
ボスオーガにはない人間の特徴。小柄であるが故の足回りの良さを活かして、俺はボスオーガの懐に迫る。
「小癪な!」
ボスオーガはその俺の首から下を包める程の大きく鉄板のような硬い手で掴もうとするが、大きい故に動きが遅く、避けることは容易だ。
「速さはこちらの方が上! その首! 獲った!」
軽やかに跳び、ボスオーガの腕に乗り、伝って上へと登る。
そして、ボスオーガの首の横に辿り着くと、その首を跳ね飛ばそうと剣を大きく振るう。
ガキンと鉄がぶつかる音が響く。
「何!?」
おかしい。俺は今、肉を斬っているはずだ。それなのにどうして鉄の音が響くのか?
「確かに儂は図体がデカい分。どうしても動きがすっとろくなる。その隙ってのは命の取り合いにおいては致命的な欠点だ」
ボスオーガはゆっくりとした動きで動揺している俺を掴む。
しまったと俺は咄嗟にグレーの魔法陣を描いて、体を鋼のように堅くする「硬質化」の魔法を使って防御に備える。
「だから、儂は考えた。小さな脳味噌で考えた!」
そして、そのまま近くにあった建物に俺を勢いよく投げつけた。
「ぐおっ!」
木造の建物は木端微塵に吹き飛び、跡形もなく無くなる。
硬質化したおかげでダメージは最小限に抑えられた。しかし、完全には防ぎきれず、体のあちこちが痛みを感じる。
そして、叩きつけられた衝撃が強く、呼吸が上手くできず、目眩もする。
「隙を突かれても問題がないような肉体であれば気にすることではな」
「小さな脳味噌に加えて半分くらい筋肉でできてるってか。こりゃ、一周回って苦労する」
どうしてもダメージを受けるなら最小限に抑える。もしくは完全に感じない程の屈強な肉体と防御力を身につければいいというのがボスオーガの行き着いた結論だった。




