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夜明け前に

何かの間違いでお金持ちのべっぴんさんが俺を無条件で養ってくれることにならないかなぁ


働きたくない

 夜明け前の村は俺以外誰一人として外に出ておらず、シンと静まり返っている。

 綺麗な服に着替えを終わり、身も心も清々しい気分だ。


 最後になるかもしれないこの村の空気を味わうように深呼吸する。


 ひんやりとした空気は肺に入る。


 やっぱりこの村の空気は美味しい。


「さてと」


 村の空気を十分味わうと、右手に堅く握った剣を背中に背負う。そして、肩に必要最低限の食料と物が入ったポーチをかける。


「出発しようか」


 俺は再びこの村から旅立つ。無論、再び世界に現れた魔物と戦うために……元救世主として再び使命を果たす為に。


 再びを世界を巡れるという期待はある。未知への触れ合いに俺の探究心や好奇心は踊り出したている。


 それと同時に不安や恐怖もあった。昔とは違い、今の俺は弱い。昔なら多少、油断しても倒せた魔物もあの時と同じ柔い覚悟で戦えば間違いなく死ぬ。


 はっきりと死というエンディングが見えていることで俺はこの世界に来て始めて恐怖した。


 だが、恐怖で竦んでいる暇は許されない。足踏みしている間にも魔物達は人間を襲い、平和な日常を脅かしているかもしれない。


 それを救えるのは俺しかいない。


 恐怖を使命で何とか押さえつける。


「やはり行くのか」


「村長……」


 右から聞き慣れた声が耳に入り、ゆっくりと顔を向ける。


 そこには何か悟ったような表情を浮かべた村長がいた。


「一年前を思い出すな」


「あぁ。あの時はガキだったな」


 俺と村長は一年前の最初の旅立ちを思い返す。


 チートの力を持つ俺は期待を胸にこの村から広大な世界に旅に出た。


 救世主になるであろう俺を村の皆は手を振って送り出してくれたあの景色は今でも目に焼き付いている。

 その中でレイカだけが不安に満ちた表情を浮かべていたことも印象深い。

 

 でも、今回の見送りは村長だけだ。寂しい感じもするが仕方がない。俺は敢えて、皆に見送られることを避けたのだから。


 ケンタウロスの戦闘の後、俺は二日間も眠ってしまうほどのダメージを受けた後に魔物を倒しに旅に出ると行ったら優しい皆は全力で止めに来るだろう。


 それが嫌だから俺は寝静まるこの時間に決めたのだ。


 だが、村長にだけはバレたけど。


「じゃあ、ちょっくらまた世界を救ってくるよ。村の皆に……レイカによろしく言っておいてくれ」


 俺はおつかいに行くかのように軽い調子で手を上げ、旅立とうと前を向く。


「もう一つだけ昔と違うことがあるぞ」


 村長の意味深な台詞を吐く。


 その台詞が妙に気になる。出発前に心残りというのは解消しておきたいと振り返る。


 俺は目を見張る。


 村長の横にはレイカがいつの間にかいた。


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