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覚醒の意志

天津飯が食べたい

「レイカ!?」


 俺は矢が飛んできた方向に視線を移す。

 そこには震える体で弓を構えているレイカがいた。


「私だってやれる!」


 その表情は酷く強張っており、額からは大量の汗が流れている。


「人間風情が! 抗うな!」


 下に見ている人間に正に一矢報われ、ケンタウロスは傷を負った。

 ケンタウロスが怒り狂うのに十分であった。


 四本の脚で強く地面を蹴り、目の色を変えてレイカに襲いかかる。


「レイカ! 逃げろ!」


 村長はかすれ声で思わず叫ぶ。

 

 一方のレイカはケンタウロスの気迫に気圧(けお)され、足がマナーモードの携帯のように小刻みに震え、全く動かせない。


「させる……かよ!」


 体を動かす度に傷口が血が流れる。痛みが全身に広がり、指一本動かすこともキツイ。腹に穴が空いている為か力も上手く入らない。


 何をするにもキツイし、苦しいし、痛い。だが、仲間を……レイカを失う辛さに比べれば屁でもない。


 俺は悲鳴を挙げる体を奮い立たせると、咄嗟に駆け出す。


「簡易治癒魔法……シア……!」


 力を失ってとは言え、基礎的な魔法はまだ使える。シアを使って穴の空いた腹部を集中的に治す。


 簡易治癒魔法シア。傷の治りを若干早めつつ、痛覚を鈍らせる魔法。あくまで応急処置がメインの魔法であり、調子に乗って暴れれば傷が開いて再び痛い目に遭う。それだけでなく、痛覚を鈍らしてしまう為、出血していることに気づかず、まるで糸が切れた操り人形のように死ぬなんて危険性もある。


「これで……なら!」


 MPは殆ど使ったおかげで腹の穴は塞がった。

 しかし、依然として他の傷口からは動く度に血が流れ出る。

 俺はそんな傷を認識しないよう目を逸らし、全力でレイカの元に駆ける。


「トーカ!」


 レイカが向かっている俺に気づいた時、ケンタウロスは既にレイカの目の前にいて、槍を振り上げていた。


 俺とレイカの距離は僅か三歩先程度。凡そニメートル。


「レイカ!」


 死なせたくない。絶対に死なせたくない。今の俺にはそれしか考えられない。


 レイカを救うために俺は一か八かの賭けに出る。

 片手に握った剣を振り上げる。グジュグジュと絞り出されるように血が噴き出る。

 俺は自分の体などお構いなしに槍投げの要領で剣をケンタウロスに向け投げる。


「馬鹿め! そんな簡単な攻撃が当たるか!」


 だが、ケンタウロスは一旦、攻撃を中止し、嘲笑いながら片手で剣を弾く。

 

 レイカと村人達は失敗したと落胆の声が上がる。


「そうだ。それでいい。お前が一瞬でも注意を逸らせればいい!」


 俺は口角を上げる。


 全力疾走の勢いの死なせないまま、俺はレイカに飛びかかる。そして、力強く突き飛ばす。


 レイカは「キャッ」と小さく悲鳴を上げるとゴロゴロと平原を転がり、やがて止まる。


「貴様……それが狙いだったか」


「あぁ。プライドが高いお前ならどんな些細な攻撃でも人間の攻撃なら絶対に受けたくはないと思ってな」


 ケンタウロスはたかが火の矢を一発受けた程度で激情している上に人間を見下している。


 俺はきっと下に見ている存在から一つでも傷をつけられたくないと思うほどプライドが高いと踏んだ。だから、剣を投げた。予想通りなら絶対に攻撃を止める。その攻撃を止める僅かな隙でレイカを助ける。

 それが俺の作戦だった。


 ケンタウロスが目の前のことにしか興味がない。多少の傷を受けてでも目の前の敵を倒そうとする性格なら成功することはなかった。


「よくも……やってくれたな!」


「それはどうも」


 眉をしかめ、ピクピクと震えわすケンタウロスを見て、ざまあみろと笑みを浮かべながら立ち上がる。


「何故立ち上がる。次こそ死ぬぞ」


 傷と血だらけ俺がまだ抵抗しようとする姿を見て、流石のケンタウロスも怒りの隙間から驚きを見せていた。


「死ぬよりも……大切なモン失うほうが……辛いからな……。それに救世主だから……死んでもみんな守らなくちゃぁ……」


 当然だ。ここで立ち上がらなくちゃ、みんながケンタウロスの餌食になる。それを阻止する為に立ち上がって、戦わなくちゃいけない。


「力がなくても……この心が死なない限り、立ち上がるさ。それが救世主……いやそんな肩書なんて関係ない。俺として! 戦う意思を持つ存在として!」


「まぁ、なんとかっこいい台詞か。遺言には丁度いいだな!」


 俺の決意をケンタウロスは笑う。


 これから死に逝く者が何を言っても無駄だからだろう。


 ケンタウロスは再び槍を振り上げ、俺に突き刺さそうと振り下ろす。


 絶体絶命と言った状況だ。いや、もしかしたらもう死ぬのは確定しているかもしれない。


 力もなければ武器もない。まともに体も動かせない俺に何ができるだろうか。

 

 何もできない。


 だが、無抵抗のまま死ぬのは性に合わないのだろう。無意識に俺は槍を受け止めようと手を伸ばしていた。


「無駄な抗いを!」


 俺の抵抗を無駄とケンタウロスは一蹴する。


 だが、最後まで抗った者にのみ逆転の女神の女神は微笑むものだ。


天津飯が食べたい

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