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蹂躙

今週末のAqoursのライブが楽しみで仕方ない

「はぁぁぁぁ!」


 俺は二本の脚で。ケンタウロスは四本の脚で地面を強く蹴り、互いに距離を一気に詰める。

 人間よりも高い脚力。そしてリーチの長い槍のおかげで先制攻撃はケンタウロスに譲ることになる。


「潰れろ!」


 まるで弾丸のような素早く鋭い突きが顔面目掛けて飛んでくる。咄嗟の反応で顔を逸らすが完全に避けきれず、刃先が頬をかすめる。


「簡単にぃ!」


 攻撃が外れ、生まれた隙を逃すまいと俺はさらに加速をかけて懐に潜り込む。

 そして、剣を横水平に振り回す。


「取った!」


「取れると思うのか!」


 しかし、ケンタウロスは斬撃の起動を読み、咄嗟に柄で斬撃を防ぐ。

 柄と刃がぶつかり、ガキンと鉄特有の重い音が響く。


 俺は持てる力を振り絞って競り合うがケンタウロスの方が力強く、俺は押し負けてしまう。


 押し勝ったケンタウロスは今度は刃とは逆の石打で俺の腹部を突く。


 石打は内蔵までも押し潰す。俺は口から血を吐く。そして、その場で蹲る。


「なぁ、救世主よぉ。あんたその程度で世界を救ったって言うのか? 噂だと、街一つ吹き飛ばす爆裂魔法とか一瞬で炭にしちまう雷撃が撃てるって聞いたんだけど……あれは嘘か」


 ケンタウロスは俺を見下している。失望に満ちた瞳で。


 型落ちした英雄を倒したところで他の魔物達に自慢なんてできない。寧ろ、逆に型落ちした英雄でなければ倒せないのだろうとケンタウロス自身が馬鹿にされてもおかしくない。


「……あぁ。本当だったさ」


「だった?」


 赤く腫れ上がった腹部を抑えながら、俺はケンタウロスを睨みつけながらヨロヨロと立ち上がる。


「残念なことに今の俺には以前の力はない」


 俺ははっきりと言う。ハッタリをかましてもいずれはバレる嘘だ。時間稼ぎにもなりはしない。


「それで俺に勝てると勘違いしてるのか?」


 俺は黙って首を縦には振る。


「馬鹿にするか!」


 見下している普通の人間に甘く見られていることにケンタウロスは激怒し、槍を乱暴に振り回し始める。


 まるで暴風のような荒々しさ。体の至るところに刃が刺さり、斬られる。

 傷口からは多量の血が噴き出て、辺り一面を真っ赤に染める。


「やっぱり……」


 村長を含む村人達は一方的に圧されている俺を絶望に満ちた表情で呆然と見ていた。


「無様だな! 元救世主!」


「やらせは……せん!」


 一方的に痛めつけられている俺を助けようと村長は生まれたての子鹿のようにヨロヨロと立ち上がり、ケンタウロスに剣を突き立てる。


「人間は地べたに這いつくばっていればいい!」


 しかし、ケンタウロスは後ろ脚で村長を蹴り飛ばし、二度と抵抗させまいと頭を踏み付ける。


 村一番の実力を誇るであろう俺と長である村長が蚊を潰すかの如く簡単に無力化され、他の村人達の戦意は喪失していた。


 人間達の負の空気を感じたケンタウロスはこれ以上にないくらい歪んだ笑みを浮かべていた。


「それでいい! 人間達は魔物に踏み付けられ、支配されればよいのだ!」


 ご満悦のケンタウロスは最後に俺の腹部に槍を思い切り貫く。


「ぐ……はっ!」


 痛みを感じられないくらいの痛みを食らった俺は抵抗できるはずもなく、銛で捉えられた魚のようにピチピチと小刻みに動くことしかできない。


 ケンタウロスは腹部に穴の空いた俺の首を掴む。そして、槍から俺を抜くと空き缶を捨てるように俺を地面に放り投げる。


 俺の体はまるでゴム毬のように地面を跳ねる。


「さてと、それじゃ今から村にでも行って、女と子供を襲うとするかな」


 血で赤く染まった槍を舐めながらケンタウロスは村へと向かい始める。


 村の男達は誰もケンタウロスの行く手を阻むことはしない。愛する家族が待っているにも関わらずだ。


 勝てないと知っているからだ。どうせ、阻んでも道端に落ちている小石を蹴るように簡単にあしらわれるだけだと知ってしまったからだ。


 誰もが魔物による村の支配を確信した時、火の矢がケンタウロスの背中に突き刺さる。


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