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決戦

 上空には太陽の光を通さないほどの黒く厚い雲が覆っている。

 大地は激しい戦闘が原因て焼け野原と化し、現在も炎が燃え盛っていた。

 吹き荒れる熱風は肌を焼き、煙混じりの空気は息苦しさを感じさせる。

 まさに地獄の一丁目といった戦場の真ん中に俺こと千代田トーカはボロボロの姿で立っていた。


「危機的状況! いいねぇ! 昂るよ!」


 口から流れる血を拭い、俺は周囲に目をやる。

 燃え盛る炎を背景に鎧と武器を装備した魔物達が俺を中心に取り囲んでいた。

 魔物達からは鈍感な人間だろうと嫌でも気づいてしまうほどの激しい殺気が漂っていた。


「ふははは! 貴様がいくら無敵の力があろうとこの物量の前では手も足も出まい!」


「来たか! デスペラード!」


 上空から闇のように黒いマントを羽織った魔王、デスペラードが禍々しい瘴気を発しながら大地に降り立つ。


「来てやったぞ。貴様の最期を見届ける為にな」


 デスペラードとは何度も刃を交えたことがある。

 実力は全くの互角であり、今日まで勝敗は決まることはなかった。


「そうか。自分の軽率さを呪いな。出てこなければ死ぬことはなかったのに」


「その言葉、そっくりそのまま貴様に返してやろう! 行け! 眷族達!」


 デスペラードの命令と共に魔物達が一斉に襲いかかり、決戦の火蓋が切って落とされる。


「ぐおぉぉぉ!」


「くらえ!」


 魔物達がスキルを発動し、闇の魔弾が雨霰のように降ってくる。

 まさに数の暴力と言ったところだが、俺の力の前では小さな石ころを当てられる程度のことだ。


「スキル! ヒールLV(レベル)X!」


 俺はスキルを発動すると魔弾を全て受ける。全身に鋭い痛みが走る。しかし、この後のツケのことを考えれば耐えられる。

 ヒールLvXは発動から十秒間、受けるダメージをゼロにし、その後向こうにしたダメージの二倍の数値分、ヒットポイントを回復することができる。

 だが、痛みまでは無くすことはできない。


「アビリティ! オーバーポイント!」


 そして、十秒経った瞬間。俺の体が黄色のオーラに包まれる。

 ヒットポイントの上限以上の回復した時にその越えた分の数値だけマジックポイントを回復することができる。


「そして、回復した分のマジックポイントを使う! スキル! クールオフ!」


 このスキルは他のスキルクールタイムを回復することができる。

 このコンボによりヒールスキルをほぼ常時使えるようになり、さらにマジックポイントが尽きることがない。

 ほぼ無敵の状態となり、多勢を相手にしようが互角以上に戦えるようになる。


「さて、反撃開始と行こうか!」


 散々痛みつけてくれた礼をしなくてはと魔物達を睨み付ける。

 背中に背負った両刃剣を抜き、魔物達の群れへと突撃する。


「電光雪花!」


「ぎにゃあ!」


 群れの中で風と同等の速さで魔物達を斬り伏せていく。

 身体ステータスは全てカンストしており、近接戦闘では数で勝られた程度では負けることはない。


「斬り裂け! 旋風刃!」


 俺を中心に竜巻を発生させ、魔物達を斬り裂いていく。

 獅子奮迅の勢いにより、既に魔物達の半数は倒されていた。


「この程度で俺に勝とうなどと!」


「我が貴様を甘く見ているとでも?」


 デスペラードの声が聞こえた瞬間、背中に阿寒が走る。

 周りの魔物達に気を取られたせいで、デスペラードのことを見ていなかった。

 俺は急いで周りの魔物を蹴散らし、振り向く。


「くらえ! ダークネススラッシュ!」


 しかし、時既に遅し。デスペラードは必殺技を既に放っていた。

 ステータスはカンストしており、素早く動ける。気づいている状態

ならばデスペラードの攻撃など簡単に避けられる。

 だが、いくら素早く動けようが反応できなければ意味などない。


「ぐわあ!」


 反応が遅れたせいで完全な回避はできず、右腕が斬られる。

 斬り離された右腕が宙に舞う。切り口から大量の血が流れる。


「縫合!」


 今にも気絶しそうな痛みを歯を食い縛って耐える。

 そして、すぐさまスキルを使う。腕の切り口から血管が伸びると一直線に右腕に繋がり、腕はすぐに元通りになった。


「今だ!」


「うおぉぉぉ!」


 安堵する暇などなかった。 

 この隙を見逃すまいと魔物達が決死の覚悟で襲いかかる。

 ヒールスキルを使おうとするが、魔物達の動きを見て、躊躇う。

 魔物達の視線はヒールスキルの弱点である頭部と心臓に集中していた。


「EX……エクスプロージョン!」


 弱点を突かれれば俺は死ぬ。

 それだけはさせないと咄嗟に最大の攻撃力を誇る、爆裂スキルを発動し、魔物達を消し炭にする。


「いくら最強のヒールスキルがあろうと流石に頭部と心臓を失われれば死ぬか」


 ヒールは大前提として使用者が生きていなければ発動しない。

 心臓を貫かれたり、頭部を失ったりと生命活動を維持できない状態になれば当然だが死ぬことになる。

 それを熟知した上で弱点を突く隙を作るためデスペラードは魔物達を囮にした作戦を立てたようだ。


「俺の命と首を簡単に殺れると思って?」


「今のスキルで貴様のマジックポイントは底を尽きただろう」


「あぁ、そうだ」


 EXエクスプロージョンは高い攻撃力を誇る分、当然のようにマジックポイントの消費が激しい。

 言わば諸刃の剣であり、使いどころを見誤れば一気に敗北へと天秤が傾く。


「やれ! 今こそ奴を地獄に堕とせ!」


 デスペラードの命令と共に魔物達が迫る。

 同胞を殺された怨みと怒りを露にしながら。

 強力なヒールスキルが使えなくなった今の俺はただの強い男。

 この状態ならば物量戦はかなり効果的だ。

 絶対絶命の状況。普通の人間ならばこのまま魔物達になぶり殺されるだけだろう。


「それはどうかな?」


 だが、俺は違う。

 俺は最強の人間。

 負けることなどありはしない。

 俺は最強のスキルを使う。


「ぐわぁぁ!」


 その直後、俺の体から黄金の衝撃波が起こり、周りの魔物達を弾き飛ばす。


「何故だ!? 貴様はまだ戦える!?」


 限界を迎えても尚、限界以上に戦える俺を目の当たりにしてデスペラードは狼狽える。


「最終スキル、覚醒!」


「何!?」


「マジックポイントが底を尽いて、体力が三割以下になった時に強制発動する」


 魔物達が俺に向け一斉に武器を振り下ろす。

 しかし、俺には見えないバリアが張られており、先ほどの魔物同様に武器が弾かれる。


「効果は三分間、無敵だ!」


 覚醒は相手のあらゆる攻撃を通さず、俺のあらゆる攻撃を全て通す無敵のスキル。

三分間のみという制約があるがあまりにも強さに寧ろ長すぎるとさえ思える。


「アウェイキングLV(レベル)-MAX! レディ!」


 アビリティの浮遊術を使い、俺は宙に浮く。

 そして、無敵のバリアを張った状態で魔物達へと突撃する。

 全てを弾く弾丸となった俺は縦横無尽に戦場を駆け回る。

 魔物達はゴムまりにように弾き飛ばされ、呆気なく地面に堕ちる。


「こいつは化け物か!」


 俺の無双する姿にデスペラードは唖然とする。


「ヒーローっていうのは負けちゃぁいけないんだよ。負けたら守るべき人達の幸せが奪われるからさ。だから、多少は格好がつかなくても勝たなくちゃならない」


 地面に着地すると同時に魔物達を塵となって消え去る。

 この戦場に残るのは俺と大将であるデスペラードのみ。

 先ほどまで吹いていた熱風はいつの間にか収まり、両者の汗を引かせる冷たい風へと変わっていた。


「そうか。ならば、この私を殺しにくるがいい!」


 圧倒的な力を持つ敵を前にし、デスペラードへ額から汗を流す。


「あぁ、終わらしてやるよ。魔王」


 確かにある疲労を歯を食い縛ってまで耐えながら、俺は剣を構える。

 張り詰めた空気が戦場に流れる。

 数多の命が落とされた戦場は俺達の荒い呼吸音だけが響く。


「どうした、攻撃しないのか?」


「残り2。1……」


 カウントダウンが終わると俺の体は鉛のように重くなり、俺は無様に地面に倒れる。


「貴様! 何を考えている!」


「お前とは正々堂々と戦いたいからな」


 あのまま一方的にデスペラードを殺すのも良かっただろう。否、本来ならばそうしなければならない。

 だが、一方的に勝つヒーローにカタルシスなどあるか。否、ない。

 それにデスペラードとは何度も刃を交えたことで敵でありながら、誰よりも互いを知り、切磋琢磨しあった友と言える存在であった。

 友を一方的に殺すことなどヒーローとしてのプライド、俺としてのプライドが許さなかった。


「愚かな。だが、気に入った」


 デスペラードは俺を鼻で笑うと、剣を鞘に納める。

 そして、背を向ける。


「この戦。同胞達を全て死なせた私の敗けだ。ここは引くことにする」


「俺は同胞達の仇だぞ。殺すチャンスじゃなくってか」


「貴様の粋を不粋で汚すなど魔王としての格好がつかんだろう」


 俺はヒーローとしてのプライドを。デスペラードは魔王としてのプライドを遵守した。

 互いの愚かさに笑うしかなかった。


「人間界の侵攻はもうしない。だが、居城で貴様を待っている」


「あぁ。待たせはしない」


 来るべき決闘を約束するとデスペラードは闇となって戦場からいなくなった。


「取り敢えず、世界を救ったか」


 デスペラードとの決闘が残っているものの何はともあれ本来の目的である魔物達を殲滅し、世界を救うという使命は達成された。

 やがて厚い雲が晴れていき、隙間から暖かい太陽の光が大地に差し込む。


「気持ちいい……な」


 奪われていた太陽をやっと取り返し、俺は笑みを浮かべる。

 これで農業ができる。

 食料不足も次第に解消され、人間同士で食料を奪い合うこともなくなるだろう。


「一度……寝るか」


 全身にのし掛かる疲労には勝てず、俺はゆっくりと目を閉じる。

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