空からの来訪者_07
「シュヴァルツ。本当にここから異常な魔力を感じたのか?」
《ああ、まちがいない。地上よりも上空からの方が残り香があるがな》
「となると、やはりルティカが何かしら隠してるいるのか。まだ手札が残ってそうだが、隠ぺいされたか……?」
ヒューレは周囲の探索を愛馬ともにすすめ、店より少し離れた場所へと移っていた。顎に手を当て愛馬であるシュヴァルツへと話かけていた。シュヴァルツは、空を仰ぎ見ながらヒューレへと語りかけるように念話を送る。
現在は木々に覆われ、店から直視できない茂みのような場所を探索していた。木々の合間に見えるのは普通なら青空だけだが、魔力の形跡を辿ることが得意なシュヴァルツの瞳にはうっすらと魔力の流れや結界も視えてる。
《ここも魔導師である彼女の領域が展開されている。私のこともただの馬だとは思っていないだろう。毛色が違う私の事をどう思ったか気になるところだ。先程の水にも魔力が込められていた。それも素晴らしく私好みの》
「それはそれは、結構なことだ。精獣のお前でもわからないのなら、ここで唸ってても仕方ない。痕跡を見つけられんなら時間の無駄だな。一度村に行こう」
惑星オルシェと惑星カルディナ。この二つの惑星には様々な生物がいるが、オルシェでは魔力を纏わない生物が大半だ。人族や獣族に限らず、全ての魔力を纏うカルディナには、魔力に長けた種族が多く繁栄している。精獣も魔力の扱いに長けた種族であり、魔力に敏感な鼻をもっている。
《本来の力を閉じているのだ。ひ弱なこの姿の私が尽力してるのに、もっと言い方があるだろう。それとも妬いてしまったか?》
「無駄口叩けるなら問題ないな」
《つれんな。村まで空を駆けたいものだ》
「目立つから、王都の帰路になるまで待て」
《魔力を食べて、力が溢れていたんだがな。残念だ》
半ば呆れているヒューレ対し、シュヴァルツは荒い鼻息で一息ふんとならす。蹄に届くかと言うぐらい長いサラサラな尾を訴えるようにぶんっと勢いよく振るが、直ぐに落ち着き振り返るようにヒューレへと神妙な念話を送る。
《……ヒューレ確たるものはないが、ひとつ聞け》
「なんだ」
《魔導師についてだが、もしかしたら惑星から愛されてる御子かもしれん》
「御子……しかし、確かにそれなら魔導師なのも頷けるな。よく今まで気づかれず過ごせたものだ」
御子とは、魔力を扱う一般的な者たちよりも、天賦の才を得て能力開眼した者たちのことを示す。惑星からの加護を承けるからこその力の為、敬意を込めて惑星の御子と呼ぶ。愛されてるが故に産まれた時から魔力が周囲に溢れ、御子である本人には害は及ばなくとも身近な者たちに危険を伴うことが多い。その為、幼少期に御子だと気づかれ、専門の機関や国に保護される。シュヴァルツは自分のもつ違和感をヒューレへと伝える。
《資質はあるはずだが、しかし、何かが違う》
「違う?」
《そうだ。愛されるべき対象なのに愛しきれない、そんな違和感だ。本来の御子であれば、思わず私たちの本能で擦りつきたくなるものだが何故だか踏みとどまってしまう》
「御子なのにか?」
《だから確たるものはないと言っただろう。御子だと言い切れないのだ。ただ、魔力に長けてるだけかもしれん。今まで気づかれなかったのは意図的にそうしてるのか、変質した何かがあるのか……それでも惹かれるのは確かだからな、話し掛けて構わないなら問うてみるが》
「シュヴァルツ、お前が彼女に執着がでてきたのはわかった。どちらにせよまだ様子見だ。幸い、専属鍛冶師としての関係をもった」
《執着するのは君の為でもあるのだよ?あの魔導師は協力者にふさわしい》
「……まだ様子見だ。考えてくれたことは感謝する」
《ふむ、また面白いことをするぞ》
「今度はなんだ」
《かの魔導師がなにかしている。結界が張られて、詳しくはわからん》
「!ならば一度戻るぞ」
ヒューレは愛馬と共に来た道を引き返す。大して離れてはいなかった為、店へと直ぐに戻ることはできた。一度村へと戻ることは決めているので、シュヴァルツを繋ぐことなく店内へと進む。
戸鐘が乾いた音をカランと立て来客を知らせる。