空からの来訪者_06
「綺麗……」
「ふふ、綺麗なのね?何が綺麗か私に教えてくれる?」
「貴女の魔力の色がキラキラしてる。綺麗」
「……そう。ありがとう。でもそれなら、あなたも優しくて暖かい素敵な魔力ね」
抽象的な物言いが返ってくるのかと思ったが、少女の目は稀有なもので、魔力を視野で捉えていたようだ。ルティカも同じように少女の魔力を捉えて表現して返事をする。
「あなたもみえる?」
「同じ景色を視てるかは分からないけど、感じることが得意なの。色々お話をしたいけど、先にあなたの体調が悪くないか確認させて頂戴。肌に触れたりするけど痛いことはしないから安心してね。私はルティカよ。ルカって呼んでね」
「ルカ様?」
「それが呼びやすいなら、それでもいいわ。とりあえず診させてね」
ルティカは微笑み諭すように、喋りかける。落ちてきた時の枷は外していたが、もうひとつの両手首の術式が気になっていた。声をかけ、少女の両手をそっと持ち上げる。手でお椀を作るように左右の手首をくっつけると、腕輪のような赤色の痣が浮かびあがる。左右をくっつけることで、ひとつの円となる魔方陣も立体的に浮かびあがった。ルティカがこの図式を読み解いていけば、帝国の術式だと理解できた。しかし、その内容を知るほど、表情はみるみる陰り最後はぼそりと悪態をついた。
「帝国も王国もやることは一緒ね……クソだわ」
「ルカ姉。ことば言葉」
いきなりの暴言をチエロから窘められる。ルティカは落ち着いた様子ではあるが、共に過ごすチエロから見ると背筋が冷える程恐ろしい気配を漂わせていた。チエロの声で、一息つき笑顔を向ける。
「ごめんなさいね?この術式はとってしまうけど、問題あるかしら?」
「……(コテン)?」
「なら、問題ないわね。少し違和感……変な感じがするけど我慢してね」
「この子、なんもいってないけど……いいの?」
「何も知らない。というか、深く考えられないようにされてるのよ。このせいで」
「クソってそれのことか……」
「ドアの所を一応見てて貰っていい?騎士……ヒューレっていうだけど、随分優秀みたいだから、もし来たら少しでいいから足止めお願い」
「はいよっと」
チエロはドアの前に移り、ルティカは少女の痣の術式へと意識を集中する。
解術するために、ルティカの魔力を慎重に陣へと侵食させていく。赤色の魔方陣は徐々に紫色へと変化していった。変化の途中、少女は魔力の流れの違和感に戸惑い目をぎゅっと瞑り「んっ」と小さな声を漏らし耐えている。
魔力を魔方陣に行き渡らせると、鮮やかな紫の魔方陣に変わる。次いで、構築の要である文字を正しい順番で消していくと、消される文字は紐がほどけるうにするすると上昇して瞬く間に四散した。最後は外周の円が消え、腕輪のような痣も無くなっている。ルティカは繊細な作業である解術をやすやすと終わらせる。
「はい、おわり。どう?頭スッキリしてきたんじゃない」
「……」
ルティカは少女の指を優しく握り混むように包み込み、自身の手で覆う。そのまま祈るような仕草で、まだ目覚めきってない少女へと話をつづける。
「あなたが今までどんな生活をしていたかは想像することしかできないけど。今まであった縛りは私が全て解いてしまったわ。これからは、自分で考えて前に進んでほしいの」
「自分で前に……」
「そう。でもいきなり全てを一人で抱えるのは難しいと思う。だから、ね?」
「?」
「あなたが自分の力で生きていけるように少しの間だけでも、私があなたに知識と力の使い方を教えるわ」
「知識と力の使い方……ですか?」
「その上で、帝国に戻りたければ力を貸すし、他にやりたいことが出来たらその道を行けばいい。暫く私と共に過ごしてみない?」
「私と一緒にいてくれるですか?」
「ええ。あなたが良ければ可能な限り、どうかしら」
ルティカの言葉に耳を傾け、徐々に瞳に光を宿していく少女。少女自らの問いかけにルティカが是と答えると、瞳からはぽろぽろと静かに涙が頬をつたう。歯を軽く噛み締め泣きながら今の感情を吐露する。
「いつも暗闇の中にいるようで、一人は寂しくて、でも何も考えられなくて、どうしていいかわからなくてっ」
ルティカはそっと少女を抱きしめ頭を撫で、落ち着かせるように話しかける。
「大丈夫、あなたはもう独りぼっちなんかじゃない。むしろ“大地”があなたを放って置かないかも。これから世界を知っていけばいいわ」
「あ……」
「魔力の回復は問題ないけど、少し衰弱してるの。疲労回復の漢方を飲んで、もう少し休んでいてね。次はゆっくりお喋りしましょ」
少女は肌で触れあう温もりを感じ安堵と共に涙は止まっていた。話をしたく顔をあげるが、ふらり目が回る。ルティカは、少女をソファに寝かせポーチから小包をだし、コップに水を注ぐ。そこへ、店内に居たチエロがぱたぱたとやってくる。
「ルカ姉!ヒューレさんが一度村へ戻るって」
「わかったわ。チエロこの子に薬をのませてもう少し休ませてあげて頂戴」
チエロと代わるようにルティカは出ていく。チエロは言われた通りに薬と水を少女へと与え、コクリと喉が動くのを確認する。ソファにしっかり寝かせ少女の顔を覗きほっとする。少し前まで無表情といえるほどだったが、その寝顔は安堵した柔らかいものに変わっていた。