空からの来訪者_03
二人は店の前にあるひらけた芝生へと足を運ぶ。
間合いをあけて向かい合わせになるように立ち、ルティカは試験について話を始める。
「まぁ……説明という程ではありませんが、簡単な模擬試合をやらせていただきます。魔剣を所有する資格があるのかを判断するので、勝敗は関係ありません。殺し合うものではありませんので、どちらかが"参った"と言ったらその場で終わりになります。何か質問はございますか?」
「失礼だが、騎士である私と鍛治師である君とで模擬とはいえど、試合になるのか?」
「勝敗を決める試合ではありませんし、鍛治師が本業ですが素材を集めるために魔物を討伐することもあります。冒険者として剣士の心得は持ってますからご心配なく、思う存分に剣を振るってください。ただ、愛剣ではなくこちらの魔剣をお使いくださいね」
ルティカはヒューレへと歩みより、どこから取り出したのか一本の剣を差し出す。その剣はくすんだ刃で光沢はなく、付け根のところには拳よりも小さい石のような装飾がつけられてた。ヒューレは重みを確認するように剣を受けとるが、眉間に皺をよせ渋い顔を見せる。
「これが……魔剣?」
「はい、こちらの魔剣をお使いください。他は身体強化は構いませんが、事象の伴う魔法・魔術は禁止、とさせていただきます。試合は一瞬で終わらせても勿論かまわないですよ。他に質問はいかがですか?」
「いや……ない」
「では、はじめしょうか!最後にひとつ────」
ルティカは間合いをとるため歩みを止めることなく喋り続ける。程よく距離をとり終えくるりと向き直り、にこやかな顔のままヒューレの瞳を見据える。そのまま首元の細剣型のネックレスをさっと手で掴み魔力を流す。すると、瞬時にネックレスは大きくなり、彼女の手には武器となる細剣が収まっていた。剣先をビシッとヒューレへ向け、表情とは裏腹に通る声のはっきりとした口調で最後に問いかける。
「────フレストニア王国所属騎士ヒューレ・ライセット。貴方は何故魔剣を望む?渡した魔剣に想いをのせて私に示してみせなさい!」
そのまま流れるように走りだし、ヒューレの前に素早く連撃の突きを繰り出し、最後は体勢を低くし下から上へと斬りあげた。しかし、ヒューレは全ての攻撃を軽やかに避けきってみせ、関心するように息をつく。
お互い後方に下がり、ルティカは手元の細剣をまたネックレスへと戻す。
「なるほど、そこらの冒険者よりはやりそうだ」
「騎士様も思ってたより身軽ですね、やっぱり剣だけじゃ追い詰められないみたいね──」
ルティカはにぃっとイタズラな笑みを浮かべると、右手を前方につきだす。瞬間、右手中心に魔力の流れを感じたヒューレ。目を見開いて驚き、防御体勢をとる。
「──風よ!」
言葉を強く放つと、瞬く間にヒューレの周りに何本もの竜巻を発生させる。竜巻による砂埃が辺りの視界を悪くし、ヒューレは左腕で顔をガードしつつ視界を確保する。身動きがとれない程でもないが、動く方向をルティカによって誘導されていた。一方のルティカは、たじろくヒューレに畳み掛けるように風の刃をむける。鎌鼬となり、ヒューレの周りをヒュンと音を立てながらあちこちに発生させる。
「刃よ!舞い踊れ!」
「なぜ魔法っ……調子にのるなよ!」
「私は使わない、なーんて言ってませんから。調子に乗るなと言うならば、早く私に示しなさい!貴方の手にある魔剣は何の為にある!?」
再び問われたヒューレは、直感的に魔剣を両手で握り直す。何の為にと問われれば、はじめから答えはひとつしかなかった。
(俺はあいつを取り戻す為に!)
「魔剣よ!応えろ!」
「……!」
「はぁぁああ!」
ヒューレは渾身の力を注ぐように両手で魔剣を握る。色褪せてた魔剣は、ヒューレに応えるように強い光をカッと放つ。くすんだ刀身は光沢が蘇り、装飾の石は燃え上がる炎のような色を灯しはじめた。構うことなくその場で渾身の一振りをルティカに向けて放つ。すると、轟音と共に炎の壁がヒューレからルティカへと波打つように放たれる。
「想像以上……!水よ!」
人の身長よりも倍はあろう炎が迫る中でも、ルティカは剣の変化に目を輝かせていた。しかし、炎を相殺させるために水魔法で炎の壁を消していく。ぶつかった炎の壁と水の柱は蒸気へと変わり、両者の視界は靄がかかるように白くなる。
ルティカは相手がこの靄の中次の行動に動いていることに気づいているも、その場を動くことなく身構える状態で待っていた。徐々に視界が晴れ、互いの影をうっすらと確認できるようになりぎょっと目を見開き声をあらげる。
「まーーった!降参!参った!私の負けでいいわ!」
「……」
「この一帯を焼け野原にしたいのかしら!?」
ルティカの目には、魔剣の剣先にメラメラと燃える大きな火球を造り上げたヒューレの姿があった。
「ならば、渡す前に一言添えてほしいものだがな」
「魔剣の扱い方を説明したら、試験にならないわよ」
「違いない。試合は私の勝ちだが、合否はいかに?」
ヒューレは喋りながら、作り上げた火球を魔力へと戻し小さくしていき最後は魔力も飛散し消えてなくなった。手にした魔剣をまじまじと見つめ、馴染む様子に不思議な感覚を覚える。現在、腰にある一本の魔剣を何度か使ったことがあるが、ここまでの力を発揮したことがなかった。その事も含めてルティカの答えを聞くべく、側へと歩み寄る。
「剣が貴方を認めたわ。資格があると私も認めましょう」
「そうか……」
「魔剣についての情報もお話致します。ただ、ひとつ宜しいですか?」
「なんだ?」
「申し訳ないないのですが、これからは騎士様ではなく私のお客様として接しさせていただきますね」
「構わないが……謝る必要があるのか?」
的を得ないやりとりの様に思え、ヒューレは顔をしかめる。
「いえ、確認は大事なことよ。偏見で申し訳ないけど、騎士ってたまに変に誇りが高い人がいるのよね。私は、お客様とは対等でありたいの。媚びへつらうことはしないし、されたくない。そして、対価にあったもしくはそれ以上の技術と品物を提供することを約束するの。だから──」
「──これからどうぞご贔屓に。よろしくね、ヒューレ!」