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空からの来訪者_02



カラカラカラーン。




戸鐘の乾いた音が鳴り響く。店の扉を開き訪ねてきたのは、現状ではもっともこないで欲しい人物だった。コツコツと足音を響かせながら、ルティカの目の前に立った青年の第一印象は漆黒の髪と瞳。左腰には二本の剣を装備しており、そのうちの一本には紐でしっかりと封がしてあり、独特な気配を感じとる。次に気になるのは、やはりその姿であった。



(よりにもよって……フレストニア王国の騎士、しかも上級階級…王族の近衛か。なんでこんな辺鄙な場所へ……でも、なるほど)



フレストニア王国は、現在いる南方領土を含め、6つの領土を治める国。王都からここまでの一般的な道のりだと辻馬車ではそれなりの旅路となる程遠く、単騎で駿馬を乗り継いだとしても二ヶ月はかかるだろう。

一目で騎士とわかる服装を身にまとった青年をみて、ルティカは内心溜め息をつきつつ、にこやかに接客をする。



「いらっしゃいませ!えーと、本日は何かお求めでしょうか?」

「物資ではなく、尋ねたいことがある。私はフレストニア王国所属騎士、ヒューレ・ライセットという。構わないだろうか?」

「それは、まぁ。遠路はるばるお疲れ様でございます。私は鍛冶屋の亭主でルティカと申します。構いませんがお話とは?」

「感謝する。……貴女がここの主人、なのか?」



ヒューレと名乗る騎士は、ルティカの目を見ながら、きりっとした端整な顔立ちを崩すことなく問いかける。



「はい。ふふ、女が鍛治屋やってるの珍しいですよね。あちこちで長くやってて、評判はそれなりにいいんですよ」

「……失礼した。そうだな、私もここの評判を聞いてやってきた身だ。誰も女主人とは言ってなかったので、少し驚いた」

「別に気に致しませんよ。それで、お話は?」



騎士は顎に手をあて一息分程、考えた後に言葉を発する。ルティカはそんな仕草をみてふと思う。年頃の少女であれば、みとれてしまう位にこの騎士は美形の部類だ。



「2、3聞きくがまず……今しがた変わったことはなかったか?」

「かわったこと……ですか?」

「そうだ」

「なんでしょう……移動の準備でバタバタしてたもので」

「移動?」

「お気づきになりませんか?」



ルティカは立ったままカウンターに頬杖をし、視線を店内へと向けながらヒューレへと問いかける。問われたヒューレは顔だけ視線を追うように動かし店内をくるりと見渡す。品物が少ないことや木箱に装備品がしまってあり、さらに一角には"閉店ご奉仕品!ご愛好感謝!"という立て札を見つける。



「店を畳むのか?」

「ここでは、ですけどね。幾つかの拠点があるんです。気候なんかも季節で変わることもあって、作りたい物にあった鍛治場へ移るんですよ。だから」



ルティカは体をおこし、に~っこりと笑いながら続ける。



「騎士様は運がいいです。本日は荷造りの途中で、明日には発つ予定だったんです」

「……そうだったのか」

「ええ、ちなみに変わったこととはなんでしょうか?大きな物音や、魔物の気配は特に感じません」

「……」



納得がいかないのか、顔を少し俯き沈黙したヒューレに、ルティカは少し困ったような表情を繕いつつ思う。



(読めない。ここに来た理由はきっと私だ。あの子のことはまだ気づいてる様子じゃないし)



本当のことを言うには躊躇われる相手。気が付いていないのならばその方がいいと、ルティカは口をつぐむ。



「……わかった。後程周辺を散策させてもらう。また、その時に質問させてもらうかもしれない」

「承知しました。私も外に行けば何か気づくかもしれませんし。では次の質問を伺ってもよろしいですか?」

「これからの話は仕事上のものではなく、個人的な質問になる。正直、閉まってなくて助かった」



ヒューレは騎士の責務を一旦置くことにしたのか真剣な面持ちから一転、いかにも困り顔な微笑みでこたえる。店内に来てから険しい一面しかみてなかった為、ルティカは思わず本音をポロリと漏らす。



「ん、騎士様。微笑まれるとかなり男前ですね」

「っ!唐突だな…」

「よく考えたら、こんなにも格好いい騎士様とお話してるなんて、ドキドキしちゃいますね」

「こほん!」

「ふふ、失礼いたしました」



わざとらしい咳をひとつしてから、本題にはいる。照れるている姿をみて思わずくすりと笑いたくなるが、これ以上はやめておこうと続きを聞く。



「魔剣を探している。何か情報はないだろうか?この店では魔剣の取り扱いもあると聞き足を伸ばした」

「情報はありますが魔剣は扱いが難しいので、情報料が高いのと、技量をみさせて頂きたいです。魔剣は、そちらと同じものですか?それとも他のタイプですか?」



ルティカはあっさりと言葉にしながら、腰の剣へと人差し指を向ける。ヒューレは唾を軽くのみ、ぐっと剣の柄を握る。



「あるのか……!これも魔剣とかわかるんだな」

「私の眼は確かなつもりですよ。そちらの剣は魔力の気配が独特で、取り扱ったことがあれば中々忘れられない」

「ならばこの剣と同種の物を探している。情報料は信憑性が高いならいくらでも、技量とは何をみる?」



剣と一言で表現しても、様々な種類のものがある。中でも、魔力を秘めた剣は魔剣という。魔剣とは、剣で魔物や魔晶を幾度も斬り重ね、月日を経て魔剣と化すもの。鍛治士が魔力を練り込みながら作り上げるもの。魔界カルディナの魔力にあてられたものが一般的にあげられる。ヒューレが持つ魔剣は、鍛治士による鍛え上げられた逸品だった。



「では先に試験をしちゃいましょう。一度外へどうぞ」

「わかった」



外へでると、入口の支柱に一頭の馬が繋がれていた。毛並みや筋肉が綺麗な黒馬で、瞳に主人を捉えると「ぶるるぅ」と声をだし、顔をあげる。



「あら……騎士様の馬ですか?とっても綺麗」

「ああ、よければ撫でてやってくれ。人が好きなんだ」

「美人さんで、頭がいい子ね。あとで、なにか水や野菜は召し上がりますか?」

「よければ水だけ構わないか?」

「ええ、勿論」



ルティカはゆっくりと近づき、視線を合わせてから鼻筋をなで、首のところをポンポンと優しく叩く。じっくりと見つめると、黒馬は魔力を秘めていた。



(オルシェで珍しい。魔黒色の天馬?でも羽根がない……魔力は感じるから魔獣……?にしても)



不思議な馬だと思いながら瞳を見ると、黒馬もルティカをじっと見つめ返していた。



「……不思議な子。あとで美味しいお水あげるからまっててね」






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