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空からの来訪者_01




「ルカ姉?鍛冶場は片付け終えてるから、いつもの鍛練終わったら荷物まとめちゃうね。出発は明日のお昼前?」

「そうねぇ……。出来れば空が明るくなったらすぐ出発したいかな。町で少し情報収集がてらゆっくりしたくない?」

「したい!ワーヤさんのランチに行こ!次いつ食べれるかわかんないし。あ~、2年ってあっという間だなぁ」

「ほんとね。チロから弟子になりたいって言われたのがこの前の事みたいなのに。でも、帰るまでがチロにとっては修行だから、最後の帰路は今までやったことをおさらいしとくのよ。特に魔装飾についてはライトンニグさんに成果を見せないと」

「うん!ルカ姉!最後までよろしくおねがいします!」



ルティカとチエロの出会いは二年前に遡り、中立域の聖ユーステス共和国にある鍛冶屋だった。そこはチエロの祖父と父親が営んでおり、あるきっかけでチエロはルティカの鍛冶師としての腕に惹かれ弟子志願をしたのである。ルティカはチエロの熱意とひとつのある才能に目をとめ、期間を定めて弟子として受け入れた。そして月日が流れた今、帰りの旅路が始まろうとしていた。


一度旅に出てしまえば、この小屋に戻ってくるのはずっと先になる。午前中は室内の掃除や片付けを二人で済ませ、出立の荷造りも進めていく。残りの店内の僅かな片付けをチエロに任せ、ルティカは外へと向かう。


ルティカは家屋から少し離れた芝生へと立ち、そのまま瞼を閉じゆっくりと両腕を左右へと広げていく。深呼吸をしてから、集中し精神を研ぎ澄ます。



(この大地に住まう精霊よ、感謝を込めて我が魔力を……)



感謝の祈りを込めながら、濃い魔力を練り上げていく。すると、ルティカを中心に小さな淡い光がほわりほわりとひとつ、またひとつと現れふわふわと周辺に漂い始める。翡翠色の淡い光は舞い終わると、一部は地面や植物などにゆっくりと降り注ぎ雪のよう溶け消えていく。地面に溶けず漂う光は暫くすると、霧のように粒子となり空気へと掻き消えていく。暫くの間、一帯が幻想的な空間となったが、全ての光が溶け込みやがて見えなくなる。



土地を離れる時や仕事をやりきった時など、無事に終えたことを大地へ知らせ感謝を伝える儀式として行われている。ある地域では舞いと共に行われる儀式で、ルティカはそれに習い訪れた土地を離れる時に行っている。


ルティカは、自身の魔力が自然へと還帰していくのを満足そうに肌で感じる。漂っていた全ての光がなくなると目を開け、広げていた腕を戻し小屋へと戻るため、くるりと向きなおる。



店の中へと戻ろうとしたその時、街へと続く一本の道から知ってる気配を感じたルティカ。振り返り視線を道の上空へとみやる。何故こんな所で……と疑問を浮かべているとその直後、上空より大きな歪みを感じる。ルティカは目を開き凝視する。



(なっ…………これは!?)



とにかく膨大な魔力が、ある一点を中心に渦巻くように集まっていく。圧縮した密度の高い魔力の塊が目の前に出来上がる様を数秒ほど、じっと見つめていた。



(まだ収まる様子はない。穢れは感じられないけど、このまま魔力が高まるならもしかして……。ひとまず、下手に目立たないように結界を張る!)



ルティカは視線をそらすことなく頭上に向けたまま、幾つかの結界障壁を張る。膨大な魔力の塊を感知されれば国の軍事偵察部隊が駆けつけてもおかしくない案件だ。目眩ましの結界を上空も含め周りに施す。



すると店の扉がカラーンと音をたてながら開いた。隙間からチエロが顔を出す。



「ルカ姉!裏の荷物纏めたよー!店の中ももう少しで片付けおわるけど……ってどうかしたの?」



遠くを見つめるルティカの姿が少し心配になり思わず声をかける。



「とりあえずは……っ!」



大丈夫よと続けようとした言葉の最中、頭上の魔力が更に収縮する気配を感じとる。勢いよく真上を見上げるルティカを目の前にし、チエロも釣られて空を見上げる。真剣な眼差しをうけ、思わず声が低くくなる。



「空?なんかあるの?」



魔力を感じることに疎いチエロは、魔力の収縮していく気配は感じとれない。ルティカのただならぬ様子に緊張を走らせる。



「魔力が収縮してる。転移の前触れだけど、かなり魔力が大きい……」



チエロの目では、見上げたその先はいつも通りの青い空。しかしジーっと見つめていると突如空間が歪む。渦を巻くようにぐにゃりと歪む空間の中心からふらりと真下に放りだされる何かをみる。






突如、空から舞い落ちてきた来訪者は一人の少女。






「ちょちょ……!あれって人じゃない!?落ちてるー!」



チエロがあたふたとする横で、ルティカはすぐさま手を頭上へと掲げる。すると、落ちてくる人物の周りに風が走る。次第に風を体を纏うように操り落下する速度がみるみる遅くなった。



そのままゆっくりと降下し手の届く高さに来たとき、ルティカは少女の事を自分の胸元まで寄せ横抱きに抱える。



少女は淡いピンクがかかるプラチナブロンドの長髪。顔にかかる髪をはらおうとすればさらさらと髪はほどけていく。透けるような白い肌で、瞼を閉じているが愛らしい顔立ち。誰もが一目みたら愛おしい感情を持ちそうな少女。しかし、ルティカが気になったのは足元に繋がる少女には似つかわしくない重々しい鉄の塊だった。



(あどけなさが残る少女、強大な魔力、帝国の枷、こんな状況……考えられることはそう多くない。この子が目覚めたらどうなるかしらね)



チエロはひょこと顔をだし、少女のぞきみる。



「ぅわぁ……かわいい子……大丈夫そう?足枷つけられてるなんて奴隷……?」

「どうかな……気は失ってるけど、転移による一時的な魔力の使いすぎでしょう。この枷は魔法具みたいだから、ばれない程度に細工して外しておくわ」

「これ魔法具なの?」



ルティカは少女をゆっくりと地面に一度下ろし、足元の枷に手をやる。すると枷と手の間に小さな魔方陣が浮かび上がる。あわく紫色に光る魔方陣の構築式を確認する。



「ええ、……この子帝国の子かしら……?」

「えぇ!そんな遠くから飛んできたの!?」

「北から直接かはわからないけど、この子の魔力は膨大なのは確か。この子自身にも感知されないような結界を施さないと」



チエロの疑問に答えながら、少女の足枷を解析し外してやる。



「これでいいかな。チロ、カウンターの奥に寝かせるから気にかけてあげて。素性もわからないし、念のため防壁も張るからこの子が起きても様子をみてね」

「はいよ!」



足枷を巾着へとしまい、また抱き上げて店内へと運ぶ。カウンター奥にある商談用に設けた小部屋へと進み、そこにはソファがあり少女をソファへと寝かせる。続けて部屋に沿った結界と、チエロへと念のための護符がわりの結界をかける。



「あと、少しこの子のことを任せていい?何か異変があったり、この子が起きたら連絡石で教えてね」

「大丈夫だよ!了解。どうかしたの?」

「誰か来るみたいだから、お店で対応するわ。だから良いって言うまで店内に顔を出すのはまってね」

「え、お客さん……じゃあないよね?随分前から休業の知らせだしてたし」

「知らずに来るうっかりさんかも知れないわよ?そろそろ来そうだから宜しく」



ルティカはカウンターへとでて、麓の村へと続く一本の馬車道へと目を向ける。


見知った気配が、少女が現れた後から少しペースを上げて店に近づいていた。



「(やっぱり、こちらに来てるわね)……昨日で閉店だったのに、今日は来客が多いこと」



ルティカは少し呆れるように一言洩らすと、まだ目には捉えることはできないが、確かに感じる一人分の魔力へと向き直る。先程から、店に向かって駆けてくる微かな気配へと意識を集中する。始めに察知した時よりも同じ気配が更に近づいていた。



(あの女の子が発した魔力は直ぐに結界で防いだつもりだけど、明らかにペースが上がってる。勘づいて来てるのかしら?白を切るか、どうするか。まぁ、相手次第でいきますか)



ルティカは、まだ目覚めぬ少女を思いチラリと彼女が眠っている方向を見る。ルティカが懸念することは一つだ。魔力の高い者は、国に見つかれば保護対象である。かつては、国の戦力強化として有無を言わさず連行されていたのが当たり前であった。つまりは──



──兵器としての駒。



しかし、先代の国王の統治になってからは、武力強化の為の非道を改め、現在は保護を名目に国の施設に置かれることが多い。魔力操作が出来なくては、生活することもままならない者もいる。実際に保護されることで救われる者もいるが、本人の意思もなく軍の監視下へと移される話は、噂話としてつきることはなかった。




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