投稿テストSS
雨粒が濃緑を揺らす。窓の外は重苦しく鈍色に染まり、昨夜から降り続く雨は飽きもせず地面に打ち付けられている。
はぁ、と肩を落とす。
今日は久しぶりのデートだったというのに、なんでこう運が悪いのだろう。
今日のためにおろした控えめなフリルが可愛らしい白いワンピースも、ワンピースに合わせて選んだレース地のサンダルも、大気で汚れた雨と泥を含んで、元の清涼さが影も形も見当たらない。
はぁ、と私はもう一度肩を落とした。ついていない、と恨めしげに窓の外、飽きることなく雨を降らせる空を見上げる。
「おまたせ、ミルクティで良かったよね」
コト、と見慣れたチェーン店のカップが目の前に置かれる。湯気の上る柔らかいブラウンのそれは、少し甘い匂いをさせている。
「ありがとう」
礼を言って、そっとカップを両の手のひらで包む。
雨に濡れた身体と容赦のない冷房で冷えた身体に、その暖かさはありがたかった。
彼は目の前に座り、真っ黒の液体に口をつける。
カップを包んだままその仕草を盗み見る。
それだけで様になる男を私は他に知らない。
「雨、止まないね」
私がチラチラと見ていることに気付いたのか気付いていないのか、彼は先ほどの私と同じように空を見上げる。
違うことと言えば、空を見上げるその瞳に恨みがましさが篭っていないことだろうか。
「……なんだか嬉しそうに見えるわ」
「ん?そうかな」
彼が私を見る。頬が少し熱い。
無意識だったようで、彼は少し思案するように口元に手を当て首を傾げる。
「雨、好きなの?」
「雨が好き、というより君と少しでも長くいられる口実が出来たのが嬉しいのかも」
なっ、と息を呑む。茶目っ気たっぷりにウィンクまでいただいてしまった。お腹も胸もいっぱいだっていうのに。
「ねぇ、もし良かったら僕の家においでよ。そんなに濡れたままじゃ風邪ひいちゃうしさ」
彼は手に持っていた半分ほど減ったカップを机に置くと、少しだけ身を乗り出して未だカップを包む私の手を包む。
「ね、いいでしょ?」
机1つよりも近い距離、息が触れ合いそうな距離で彼は笑む。強請るように細められたミルクティブラウンの瞳に吸い込まれそうだ。
私は糸の切れた人形のようにこくこくと頷くことしか出来ない。彼の触れている両手が酷く熱い。
「やったぁ。じゃあ決まり。少し休んだら移動しようね」
彼は端正な顔立ちをしているのに、頬を緩めて笑う姿は幼子のようだ。胸がきゅうと締め付けられて、息が苦しい。
苦し紛れに少し冷めたミルクティに口をつけると、アールグレイの香りが口いっぱいに広がった。
あぁ、今日はなんていい日なんだろう。私はもう一度、彼に気づかれないように息を吐いた。