第一話 前編
推理小説って思ってたより難しいんですね。
ちょっと長めのを何本家に分けて、シリーズで公開しようと思いますので、よかったら暇つぶしに読んでください。(正直駄作です)
ーー螺旋階段は、言わずもがな不公平だ。
もし、そうでないと強く主張する人がいるのだとすればその人には、だとしたら効率を考えるべきだった、と僕は説得するだろう。
そのぐらい螺旋階段はひどく無意味で、非論理的で、そして、どこか皮肉的だ。
例えばの話をしよう。
陸上のトラックをみんな同じ並行のスタートラインからスタートしてみよう。中距離や長距離ならば、あるいは公式にそのようにスタートしても何ら違和感はないけれども、それが100m走であれば、どうだ?
きっと"内側"にいるものが1着になるだろう。いや、(一般的な陸上の大会形式においては)逆に100m走ならば一直線上でただまっすぐ走るだけなのだからむしろ中長距離よりも差が出ないか。この場合はだとしたら200や400の方がわかりやすい。
円というのは(陸上を例にした場合円でない半円や楕円だったとしても)内側の方が面積が小さいからだ。
このことを踏まえて話を戻せば、螺旋階段は内側を歩くものが圧倒的に有利だ。規模が大きければ大きいほど有利である。
なぜなら2列で歩いている際において、外側にいる者が螺旋階段を歩いている以上その方が内側に来ることは絶対にないからである。
この事実に気づいたのはつい先日のことだ。
いや、よく良く考えれば、...というか特に気にしなかったとしても、そんなことは果てしなくどうでもいいことで、日常会話の中で意識の高い奴らが友達と雑談程度に話していれば様になる程度の愚話なのだが、それでも僕は言いたいのだ。
ーーーー世の中という永遠不変で普遍な世界を説くには物理学、数学などといった平和的で圧倒的で平等的な世界観としての限界を見つめざるを得ないということである。
※
翼は背中から生えるのか腕が変化したものなのかという問は現実的には後者だ。だが、人間は前者であってほしいと願ったりする。
その方が端的に、かっこいいと言えるらしいのだ。
でもよくよく考えればそれは美しさではあるが、強さではない。否、美しさであるかどうかすらあやふやだ。
鳥は腕がある種羽であるが、虫の翅は脊椎動物にはないいわゆる天使などに生えた羽に近い部分がある。先に言った背中から生えた翅だ。
果たして、美しいかどうかはさておいて、虫は強いか?
いや、多分、こんな問を投げかけることが間違いなのだ。強いか強くないかは羽か翅かの違いにより決まることではない。
「まあつまり何が言いたいかというと、今回の案件がそのぐらいどうでもいい、他愛もない内容だってことなんですよ。」
「クライアントのいない所で言ってくださいよそういうことは。」
今日、僕の建ててまだ間もない探偵事務所である「上原探偵事務所」には1人の客が来ていた。10何人目のクライアントである。
一応補足で説明しておくと、事務所というのは資金の全くない僕みたいな人間が建ててしまうと何かと危なかっしい。(理由は極めて単純に、創るために借金を積むことになるからである)だから正しくは僕の先輩が建てた事務所なのである。
そしてどうやら、その先輩と僕は恋人関係ならしい。
「らしいとはなんだ。確信をもて確信を。」
「いや、確信はもてませんよ。未だにね。だって、上原先輩ですよ?最高に上原先輩みたいな上原先輩が僕と付き合うなんて可笑しな話じゃないですか?文字通り可笑い話ですよ。」
「上原先輩は人の名前であり、私を罵倒するための悪口じゃない!」
上原先輩とのお決まりのやりとりを、苦笑しながらその客は見ていた。見られていた。
その客というのは、女性だ。成人してまだ間もないぐらいの女子大生だ。
それも、東京大学出身ならしい。
羨ましい限りだ。東京大学なんて早々行ける大学じゃあない。
だって、東大だよ?
「いやー、いけると思うけどなあ遼ちゃんのその学力ならきっと。お国の期待の新入生になれると思うけどなあ。」
「そのお金はどっから出てくるんですかまったく。」
「学力じゃなくてお金の問題なんですね......。」
そう、僕の実家は田舎にあるのだが、いわゆるお仕事、というのはせずに酪農業とかして賄っているような家だった。つまるところ、仕事をしていないと言うよりお金稼ぎをしていなかったのだ。
だから貯金なんてなかった。典型的な貧乏だ。大学なんて行けるわけねえ。
そこで僕は起業を考えた。高卒で就職するのはわりかしデンジャラスな挑戦ではあると自覚しているが、上の命令に従事するような社畜サラリーマンには、どうしてもなりたくなかった。どうせなら気楽にやりたい、と。
結果、結局お金が必要だった。誰だ1円あれば起業なんて誰でも出来るとか言った奴。結局資金のない僕なんかに会社を建てるほどのお金を貸してくれる銀行なんて1社もなかったんだからな?
まあでも、そこに現れたのが彼女、上原夢海先輩である。
彼女は高校時代の紙媒体同好会の唯一の先輩である。部員は2人だけだった。
彼女は先輩としては優しすぎた。優しすぎてはじめは疑いから入っていたぐらいに疑っていた。
「結局は疑ってたんかい!!!」
「当たり前ですよ。習わなかったんですか?優しくすることには必ず理由がある、だから優しい人間は疑え、と。」
「逆にどこで習ったんか聞きたいわ!ほんまいい性格しとんな。」
「あなたたちって.........いつもそんな感じなんですか?」
呆れたような表情を作って、事務所に来ているお客様は言った。
いつも?なんのことだ?
「夫婦なのに喧嘩ばっかしてそうだと思いまして。まあその方が長続きすると聞きますけれど。」
「いや、僕たちは付き合っているだけでまだ結婚はしていない。僕としては結婚すれば財産も共有できますし、とてもありがたいんですけれど。」
「そこだけ聞くとほんとに金目当てであたしといるみたいでなんか嫌だな...。」
「嫌だなあ、冗談に決まってるじゃないですかあ。あ、今度寿司奢ってください。」
「うざい!そして図々しい!!」
「ーーーーーあの、いちゃつくのは構わないんですけれど、そろそろそこの方の紹介をしてもらっていいですかね......?」
お客様は不機嫌そうにふてぶてと僕達に声をかけた。
もとい、正しくは僕に声をかけていた。
「おっと、...大変申し訳ございません。お待たせ致しました。私、上原探偵事務所、桐ケ崎遼介でございます。」
一通り事務所の人間(2人)の自己紹介を済ました後、一行は話を戻す。
「で、詳しくお話願えますか、お客様。」
「あ、私、那珂川瞳といいます。......申し訳ないけれど長いお付き合いとなる可能性もあるのでお互い名前で呼び合うのでいいですか?」
「はぁ...。まあ構いませんが。でしたら那珂川様。今回の案件の具体的な内容を。」
「分かりました。」
彼女、那珂川瞳は東京大学医学部所属の大学3年生で院に行かずに、就職を決めた身であった。
彼女には"翅"を持つ昆虫をコレクトするという趣味があった。家にある何百もの昆虫達はほとんどが自分で捕まえたものならしい。
捕まえて死ぬまで育て、それを標本にする。それが彼女の昆虫採集の流れだった。
もちろん、彼女のコレクションの中には極めて高価なものも含まれていた。
そのほとんどは蝶。女子大生が手にするのにはいささか高価すぎるものもあるという。(自分で言うな)時々、オークションで蝶たちを売却したりしながらお小遣い稼ぎをしていたこともあるそうだ。
そんな生活を送っているある日のことだった。具体的には昨日の午後である。
「大学から自宅はさほど遠くもなくて、その日も午後2時ぐらいに一旦帰宅したんですよ。夜飲み会があったんであくまで休憩程度のノリでね。いや、びっくりよ。部屋の中見たら窓が割れてて。」
「蝶の標本が盗まれていたと。」
「はい。それはもうものすごくあからさまに盗んだって感じで。蝶たちが入っていた箱は無造作にバラバラにされてて、その部屋にあったほぼ全ての蝶がむしり取ったようなぞんざいさで無くなってましたよ。」
「...ちょっと待って?」
上原先輩は那珂川さんの話を遮るように止めに入った。
「止めに入らないでくださいよ。今事情聴取中なんで。......はぁ、心配しなくても浮気じゃないから。」
「そのセリフでむしろ浮気なのではと心配になったわ。そうじゃなくてさ、それって盗みの現場なんだよね?」
「あ、はいそうです。多分ですけど。」
「おかしくない?なんで箱ごと持っていかなかったの?」
「知りませんよそんなこと。犯人に聞いてください。私は何も知りません。」
「ふむ......。」
まあいくら上原先輩と言えどもそのぐらいは疑問に思うか。
彼女の言う通り、盗みが目的なら標本箱の中の蝶だけ取り出して持っていくのはどう考えてもリスキーだ。不自然である。
不思議であると同時に意味が無い。
というのは、特に何の理由もなく箱から取り出したのだとすれば、そこでわざわざ箱から出して蝶だけ持っていく、という工程に意味がないのであって、箱から出して持っていくことに何かしらこじつけでも意味を持たせることが可能であればその線もある。
というか事実そうなっている以上それしかありえない。
「現場はどうしました?窓とかはまだそのままにしてますよね?」
「ああ、はい。裏側に板を貼って見えないようにはしてありますけれど、基本的にはそのままです。」
「そうですか。でしたら今から伺ってもよろしいですか?」
「え?今から、ですか?」
彼女は僕の要求に意外だという風な仕草を見せ、目を丸くした。
「はい。早めの方が風化もしにくいと思いますので。」
「ーーま、そうですよね。分かりました。そういうことだったら今から帰って準備してきますね。」
「いえそれは結構です。」
僕はぴしゃりと彼女の発言内容を払い捨てた。
そりゃそうだろう?
現場というのはなるべく手をつけないという所が重要なのであって、その意味では準備というのは現場調査のむしろ邪魔となる。(時間軸は案件を持ってきてからを基準としてなので、あくまでそれ以前に何もかも片付けてしまっていてはどうしようもなくなってしまうのだが)
「乙女の部屋ですよ!?私の日常生活世界に介入するつもりですかあなたは!」
「その乙女とやらが一人一人そんなわけわからん世界作ってたりしたら世界がいくらあっても足りないと思いますけれどね...。ーーーー分かりましたが、それですとあなた自身が自作自演をしているという可能性が否めなくなるかもしれませんが、よろしいですか?」
「いやなにそれ。何がしたいのよ私は。」
て言われてもな、僕は人格というものを当てにしていない。
確かに論理的には事件の自作自演的行為の持つ意味は、皆無とは言わずとも、多分ない。調査を要請した事務所に金は取られるし、その蝶もそれを包んでいた箱も傷がつく可能性だってあり、彼女の言葉をそのまま使うようで恐縮だが、正直そうしたのだとしたら、本当に彼女が何をしたかったのか分からなくなる。
だがそうは言っても、そういうある意味難解な事情を考慮せずに、推測としての優先度を下げることは真実への証明の邪魔となってしまう(先程の自作自演というのは少々極端な例ではあるが)。
それは主観であり、客観ではない。物事を100%客観視するのは、おそらくシャーロック・ホームズでも名探偵コナンでも無理だ。
人為的なものであるならその発端となるきっかけがなんなのか、探偵として気にならないことはもちろんないのだが、そこを知るには事実を確定してからでなくては本質がぶれてしまう。
人情など、人によって解釈が全然違う。
ましてや、盗みを犯す奴の思考など初めから分かりたくもないのだが、どっちにしろそいつが今現れて、すべてを包み隠さず自白していない以上、本当の目的なんてものは分からない。
事実がなければ本当の目的は必然性を持たない。これが人為であり、事件なのだ。
「あなたが自作自演をしていたとしても、後でいくらでもこじつければ事実となりうるんですよ。いくら無意味そうでも、ね。」
「はいはいはいはいそうですか。じゃいいですよ。一緒に行きましょう。ありのままの私をどうぞお見せしましょう。」
「遼ちゃんのせいでお客様が投げやりになっちゃったけれど...。」
そんな事言われても困る。これが僕の探偵としてのやり方だ。スタンスを変えるつもりはこれっぽっちもない。
というか、部屋を荒らさない、当時の現場となるべく変化させないということは、果たして当たり前のことではないのか?僕がおかしいのか?殺人現場だったら場合によってはあらぬ疑いかけられますよね?
「もういいですって.........。理屈はわかりましたから。」
「......まあじゃあ、気持ち程度のあなたの擁護をするために、一応先に申し上げますね。先程のあなたからの説明を聞く限り、ある程度犯人の行動予測はできました。かなり抽象的ではありますが。」
「へえ、そうですか。なんですか。私ですか?自作自演ですか?」
「いえ、その可能性は極めて低いと思われます。高い可能性のものと比較すると、ですけれど、結局はあれだけ言ったものの、自分で自分の窓を壊して自分の蝶をむしり取るなんて、そんか馬鹿げた話があったという可能性は、僕の過去の記憶からなる判断基準からすると、まあないでしょうね。」
「ないんかーい。」
「じゃあなんなのよ、遼ちゃん。」
出かける準備を始めつつあった上原先輩が僕にそう問うた。
僕はそれに反するようにコーヒーカップに残っていたキリマンジャロのコーヒーを飲みきって言った。
「おそらく、蝶を奪う、と言うよりかは、蝶がいなくなる、という状況に持っていきたいんだと思います。」
「ん?それってどういうこと?それこそ意味がわからなくない?その場合、盗みを犯した人の利益って何よ?」
「利益はないね。ただ、損失はある。」
「損失...?」
「そう。それも、あなたの損失ですよ、那珂川様。」
僕はそう言いながらクライアントである那珂川さんに無礼にも指を指していた。
要するに、ただの嫌がらせ、という可能性である。
「いや、他にも考えられる可能性は山ほどありますよ?途中でやっぱり盗みなんてダメだと考え直したんだけれど、自分が荒らしたものはバレないように蝶だけ持ち帰ったとか、全部持っていくのは悪いな、と感じたから箱だけは置いていこうと思ったとか。」
「そんななめられた罪悪感潰しするぐらいだったら、私としてはただ単に盗んでいったほうが印象良かったんだけれどね......。」
僕たち3人はその後、那珂川さんの家まで行くことになった。8階にある事務所から出て外の下り階段を1階ずつ降りる。そろそろここのマンションにはエレベーターをつけて欲しいところだ(狭い土地に超高層のビルを作るしかない東京という土地としては仕方の無いことではあるが、とてもじゃないが毎日運動になるとかいうレベルの苦労じゃない)。
幸い事務所から駅は比較的近く、徒歩五分で小田急線の南新宿駅に着く。
実を言うと、僕の自宅は四ツ谷にあり、そこまでの定期を持っていた。四ツ谷経由で地下鉄南北線に乗り換える行き方で行けば、僕の定期によりお得になるので、その行き方を取ることにした。
「それ、お得になるの遼ちゃんだけだよね...?」
「いえ、私もここに来る時四ツ谷経由で新宿に来ましたよ。」
「そうですか。僕としてもその方が気兼ねせずにあなたの自宅まで行けるので幸いです。」
「そろそろあんたはお客様第一の精神を身につけろ。」
上原先輩はジト目をして僕に毒づいた。普段先輩は毒舌キャラではないのだが、客がいる時には何故か厳しく細かいことに指摘してくるのだ。
ーーお客様第一の精神ねぇ。
「こういう仕事って、多少、多くのお金を支払わなければならない依頼の類の仕事だとは思うけれど、それにしても専門職ではあるからコンビニとかファミレスみたいに気持ち悪いぐらい丁寧な接客って言うのは、些か不自然ではないですかね?ほかの一般人には頼めたものじゃないでしょう。」
「気持ち悪い言うな。コンビニとファミレス店員に謝れよ。」
「僕の本音ですよ、先輩。ほらほら、恋人の本音聞けて嬉しいでしょ?」
「それは本音というよりは煽りだな。」
そんな雑談じみた会話を那珂川さんを置いてしながら噂をするファミマを通り過ぎ、新宿駅まで歩いていった(南新宿駅はもう目の前にある駅なのだが、新宿も大して変わらないような場所に事務所は位置していたので新宿駅までは歩くことにした)。
丸ノ内線に乗りながら、立ち話程度に補足の情報を手に入れようと僕は那珂川さんに質問をした。
「僕達以外に相談した方っていますか?例えば警察とか家族とか友人とか...。」
「家族っていうか、妹には愚痴程度には話しましたよ。蝶が盗まれたんだーって。そしたら警察に電話した方がいいんじゃないって言われました。けれど、なんとなく引けたからここ来たわけよ。」
「なんとなくって言うけれどね、割と高いよ探偵事務所ってのは。遼ちゃんはそこんとこ説明してくれないから私から言うけれど。」
「言いますよそんぐらい!」
僕がムキになって声を荒らげると電車内の人間から一気に視線が集まった。あからさまに迷惑だと言うように身をよじる乗客を片目に(申し訳ありませんと一声声をかけた)、僕はーそれで、と話を元に戻す。
「さっきの上原先輩の話じゃないですが、やはり探偵事務所はどうしても私的に設立させたものですので、そこそこお金はかかります。いや、そんなこと説明しなくてもわかってるんだとは思いますが、だからこそ明確になぜ警察ではなく探偵を選んだのかは気にはなりますね。」
正直、僕は探偵の仕事をやっているというのもあって、そういった警察やら探偵やらに依頼しようというきっかけがまず訪れない。故にここら辺の細かい事情なんかは心がしれないのである。
ーー警察よりも探偵を選ぶ理由ーーというのを。
「ーーーー警察は頼りになりませんから。」
「ーーーーーー」
「ああ、別に警察官という職種を否定しているわけではないですよ?警察がいなかったら現行犯とか対処のしようがないですもんね。国家機関の中でも、特に必要不可欠な絶対的存在なんでしょうね。」
失言でしたーーーと少々大袈裟な物言いで警察を評価をして、それでもやはり、警察を選べない理由について説いた。
「この場合警察官と言うよりは警視庁、ぐらいのスケールの大きい話なんでしょうけれど、......桐ケ崎さん、こんな物騒な世の中において、彼ら警察が求めるべき事ってなんだと思います?」
「ーーーーー」
唐突に僕に質問を投げかけた彼女は、笑わずにいかにも真剣だという立ち振る舞いで窓の外を見ていた。
ーー窓の外は真っ暗だった。
「警察が求める事、ですか?......そうですね、安全で安心な世の中に変えていくために、明らかな悪を成敗して、法律を基準とした正義に基づいて秩序を保つこと、ですかね。」
「うわー、遼ちゃん意識高ーい。」
「そ、そうですね......。ーーけれど的はえていると思います。」
私の言いたいこととはズレてませんーーと付け足すように指を立てて説明した。
ーーどういうことだろう?
僕が警察という概念に対して可能な限り客観的に説明したらあのような回答に至ったわけなのだが、それが、彼女の警察あるいは探偵、という二極化した選択の結果に果たして関係してくるのだろうか?
悪を成敗するというのも、秩序を保つというのも、綺麗事、と言い換えてしまえば悪い言い方だけれども、正直そのぐらい大袈裟なさじ加減で説明したつもりはある。
だが、それは良い説明であって、警察を悪く言う説明とは言い難い。
警察を選ばないという選択に至るには、僕の説明だけでは物足りないのではないだろうか。
「いえ、あなたがそのように言ったことを警察を完全に悪評したわけでないというのであれば、そこは私とはズレがあると言わざるを得ません。」
「......結局、あなたは何が言いたいんです?僕は無粋にも調査したり推理したりする仕事をする者ではありますが、それは、そのように言葉で遊ばされたいということとは違うんですよ?」
「ーーーだとしたら申し訳ないことをしましたね。はぐらかすようですが、...この話は、忘れてください。.........あ、四ツ谷ですよ!」
そう言われて、降り忘れないように、と僕は南北線のドアの前に急いで立った。
そして、この事件の“解決編”へと向かった。
彼女が何を言いたかったのか、何を背景にそんな国を敵に回すようなことを言ったのか、というのを、意に反して察してしまった僕の気持ちを、車内に置き去りにしたまま、開く電車のドアから急くように出た。
話が前後するが、事件解決後、南北線で帰る際に彼女、那珂川瞳が何者だったのかを思い出した。