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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第三章【水辺の乙女と青い灯台】

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第八十七話「交渉成立ね! これで数日は楽しめそうだわ」

 シアは長い青髪を風にたなびかせながら草原を歩く。

 ララたちは彼女に導かれ、港町アルトレットを目指す。

 皮肉なことに、ウォーキングフィッシュの大群が草をなぎ倒して進んだために道は平らでなんとも歩きやすい。


「ねえシア、さっきみたいなウォーキングフィッシュの群っていうのはよく見るの?」


 ララの質問に、シアは頷く。


「よく見るっていう訳じゃないけど、このあたりだと毎年この時期になるとたまに見られるわ。産卵期に入るとああやって交尾してるのよ」

「ええ、あれって交尾してたの!?」


 軽い口調で放たれる衝撃の事実に、ララたちは一様に驚く。

 あの波に飲み込まれてしまっていたら、命だけでなく何か大切なものまで壊れてしまいそうな気がした。

 ララは顔を青ざめさせてぷるぷるとふるえる。

 そんな彼女を、シアは目を細めて見ていた。


「そんなに怖がらなくても、そうそう出会うものじゃないわ。私もずいぶん長い間生きてきてるけど見たのは数回ね」

「うう、そんなこと言われると余計にまた遭遇しちゃう気がするわ……」


 ずらりと並ぶ虚無の目の数々を思いだし、ララはまたぶるりとふるえた。

 完全にトラウマとなってしまったようで、シアは苦笑して肩をすくめた。


「しかし、散歩って言ってたがずいぶんと遠いところまで歩くんだな」


 ロッドの手綱を引きながら、イールが言う。

 たしかに未だアルトレットの影も形も見えないこのような場所まで、ずいぶんとスケールの大きな散歩だった。

 ちなみにロッドは彼女たちよりも先のほうへと逃げていたところを同じようにシアによって助けられていた。

 そのおかげで荷物も大切なロッド自身も無事であり、一同特にイールはほっと胸をなで下ろしていた。


「そんなに遠いかしら? 私散歩が好きだからあまり距離を意識したことはなかったわね」


 シアは含蓄もなく言葉を返す。

 イールは絶句し、ぱちぱちと数度目を瞬かせた。


「足の向くまま気の向くまま、風の流れに乗って歩いてるとついついこんなところまで来ちゃうの。町にいてもする事もないし、私の人生で唯一の楽しみだわ」


 るんるんと軽いステップを踏みながら、シアは歌うように言う。

 彼女の纏う白い服がふわりと揺れて、風に靡く。


「この前なんて、気が付いたらハギル山脈の天辺まで行ってたわ」

「流石に遠すぎるだろ!? 何日かかると思ってるんだ」

「嘘よ」


 声を大きくして驚くイールに、シアは猫のような笑みで答えた。

 イールは二の句が継げず、ぐぬぬと唸る。

 そんな彼女に代わって、ロミがシアに話しかける。


「先ほどの魔法、すごく綺麗でした。シアさんって有名な魔法使いなんですか?」

「あはは。さっきも言ったとおり、私はただ散歩が好きな一般人よ」

「い、一般人があのような魔法を使えるのですが……」

「アルトレットの民なら三歳でも使えるわ」

「ええ!? あ、アルトレットは穏やかな海と背の高い灯台が見所の平穏な土地と聞いていましたが……」

「もちろん嘘よ。ロミさんの言ってることがほんと」

「ううう……」


 軽くあしらわれ、その上頭をぽんぽんと撫でられ、ロミもまた撃沈する。

 話してみればみるほど、シアという女性は猫のように気まぐれで自由奔放な性格なのだということが分かってきた。


「アルトレットって灯台があるの?」


 そんな中、ララが会話に入ってくる。

 シアはもちろん、イールとロミもある程度アルトレットについて知っているようだが、彼女の知っていることと言えば海の側にある港町ということくらいだった。


「ええ、あるわよ。もう随分と古いけど、いまでもバリバリ現役として海の男たちの安全を守ってるわ」


 シアはその灯台に思い入れがあるのか、先ほどとは違ってしっかりとした意志を込めた声だ。

 それに対し、ララはほうほうと頷き目を輝かせる。


「灯台かー。知識では知ってるけど見たことないわね。早く行って見てみたいわ」

「あら、灯台を見たことないなんて人生十割損してるわよ」

「と、灯台見たことないだけで私の人生が無価値な物に!?」

「もちろん嘘よ。嘘だけど、アルトレットの蒼灯の灯台は一見の価値ありよ」

「蒼灯の灯台っていうのね。結構大きいのかしら」

「アルトレットの町からなら、たぶんどこからでも見えると思うわ。岬の上に立ってるのだけど、かなり大きいから」


 シアの説明を聞けば聞くほど、ララは期待に胸を膨らませた。

 遠足前の子供のようにきらきらと青い瞳を輝かせる彼女を見て、シアはにこにこと笑みを浮かべていた。


「さて、いろいろ質問にも答えたし、私からも質問いいかしら」


 話が一段落付いたところで、今度はシアが口を開く。


「三人はいったいどういう関係なの? 見たところ傭兵と武装神官とその子供ってところだけど」

「ちょっとまって、子供って誰のこと言ってるの!?」

「ご明察だな。あたしは傭兵、ロミは武装神官だよ」

「私も一応傭兵よね? ギルド入ってるものね!?」

「なかなか見ない組み合わせだから、少しびっくりしてるわ。何か理由でもあるのかしら」

「それが、成り行きといってしまえばそれまでなんだよ。気が付いたらこの三人で旅してた」

「へぇ、随分と因果な運命ね」


 ぷくぷくと頬を膨らませるララを置いて、シアとイールは話し込む。

 しまいには涙目になる彼女を、ロミがそっと慰めた。


「あの二人、普通に楽しんでるだけだと思いますよ」

「分かってるから余計にムカつくのよー」


 ロミの胸に飛び込み彼女のあふれんばかりの母性と柔らかな腕に包まれ、ぐちぐちと泣き言を言い続ける彼女は、案外当たらずとも遠からずな線を行っているような気もする。


「あ、そろそろ見えてくるわよ」


 シアがおもむろに腕を上げ、前方を指さす。

 三人が目を凝らすと、遙か彼方の方に小さく町の影が見えた。


「まだまだ遠いね。ほんと、シアは随分遠くまで散歩してたのね」


 そのおかげで私たちは助かったんだけど、とララは言う。

 一日で歩ける距離ではあるが、それでも数時間はかかる。

 戦闘力に心配はないとはいえ、よく一人で出歩けるものだと感心もしていた。


「うふふ。散歩をしてるときはついつい時間を忘れちゃうのよ。それより、三人はもう今夜の宿は決めてるの?」


 投げられた問いに答えたのは、スケジュールの管理を成り行きで任されているイールだ。

 なんだかんだと言っている内に彼女が自然とこの一団のリーダーのような役目を担っていた。


「一切合切、何も決まってないな。宿も食事も買い物も。傭兵ギルドと依頼さえあれば最悪生きていけるから、あんまりがっちりと予定は立ててない」

「流石傭兵。随分ふんわりとしてるわね」

「傭兵っていうのは自由なものだからな」


 驚くシアの言葉に、イールは頷く。

 紋章に翼が入っているだけあって、傭兵は何者かに縛られ行動を阻害することを嫌うものが多かった。


「傭兵じゃないロミさんも同じかしら?」

「はい。町に着いたらまず神殿に行きますが、その後は特に。強いて言うのなら海のミルクと呼ばれる貝を食べてみたいです!」

「海のミルク……。ああ、牡蠣のことね。それならまだギリギリ旬だと思うわよ」


 その言葉にロミはぱっと顔を輝かせる。

 よほど楽しみにしていたのだろう、普段の彼女から珍しいくらいに上機嫌になる。


「それで、ララさんは?」

「二人に同じ。何にも決まってないわね。あ、灯台は見に行きたいかも」


 三人の言葉を受けて、シアはふんふんと考え込む。

 そうして彼女は顔を上げると、薄い唇を上げた。


「それなら、おすすめの宿屋とか色々、町について案内してあげるわよ」

「え、いいの?」

「いいのいいの。どうせ暇を持て余すだけだし」


 驚くララに手を振って、シアは言う。

 三人としては断るどころか是非お願いしたいところである。

 悩むこともなく三人は、彼女に町の案内を頼むことにした。


「交渉成立ね! これで数日は楽しめそうだわ」


 シアはぱちんと両手をたたくとぱっと破顔する。

 そうして、三人はさらに一人仲間を加えて、アルトレットの町を目指した。

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