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第八十二話「似たようなもんだろ?」

第3章始まります。

今後ともよろしくお願いします。

 壮麗なハギル山脈の白い尾根に見守られながら、ララたち一行は細い道を歩く。

 道は赤い土が露出し踏み固められた、幅の狭いものだ。

 ロッドがぱかりぱかりと蹄を鳴らし、軟らかい土に小さな丸い足跡を付けていく。


「ふんふふーん」


 ララは手綱を引くイールや、そのすぐ後ろを歩くロミよりも数歩前を軽い足取りで歩いていた。

 待機状態のハルバードの白く輝く円筒が、彼女のなめらかな曲線を描く腰で揺れる。

 ハギルの町から出発して早三日の時間が経過していた。


「なんだ。妙にたのしそうだな」


 くるくると蝶の舞うような動きで先行するララを見て、イールが話しかける。

 彼女は長い赤髪を左右から編み込み、三つ編みで一本に束ねていた。

 無骨な鉄の装甲を所々に装備した彼女の旅装は、三人の中でもとりわけ厳めしい。


「何か良いことでもありましたか?」


 なじみの白く分厚いコートのような神官服を身に纏い、白杖を握るロミが首を傾げる。

 目の覚めるような金髪をゆるくウェーブさせた彼女は、鳶色の瞳を楽しげに光らせた。


「んー? いや、特に何もないよ。ちょっと考え事をしてただけ」


 首もとまで伸びる銀髪をゆらし、ララは首を振る。

 予想外なその答えに、二人は思わず顔を見合わせ不思議そうに首をひねった。


「随分楽しそうに考え事するんだな」

「そうかな? うーん、まあ、私のクセみたいなものだし」


 本人はあまり意識していなかったのか、ぷっくりと瑞々しい唇に手を当てて眉を寄せる。

 童顔で小柄な彼女の容姿も相まって、可愛らしい少女のようなその仕草に、イールは思わず吹き出した。


「ええ、今何で笑ったの!?」

「ぷふふ。いや、何でもないよ……。ぷっ」

「うええ、絶対何かあるでしょー?」


 ツボにはまったのか中々収まらないイールに対して、ララがぷっくりと頬を膨らませる。

 ハムスターのようなその姿に、イールの腹筋はまた痙攣していくのだった。


「それで、結局何を考えてたんですか?」


 見かねた様子でロミが代わりにララに尋ねる。

 ララは少し宙に視線をやって逡巡したあと、小さく口を開いた。


「テトルたちが作ってた、魔導自動車あるでしょう?」


 イールとロミは不思議に思いながらも頷く。

 魔導自動車は、ララが作った魔導ゴーレムの技術を流用して作られたものだ。

 魔法使い数名が動力部に魔力を送り、そのエネルギーを利用して車輪を動かす。

 馬車よりもずっと早く、安定した輸送手段になり得るとして、今現在はヤルダとハギルの二つの町をつなぐ試験運行をしている最中だった。


「あれがどうかしたのか?」


 イールが尋ねると、ララは白い歯を見せて頷いた。


「実はね、あれと同じ様な物を作れないかなって思ったりするのよ」

「同じ様な物ですか」

「確かにララなら苦もなく作れると思うが……」


 これまでのララや、彼女の扱うナノマシンの反則的なまでの活躍を見てきた二人は曖昧に頷く。

 数百年以上の時代の壁を隔てた超科学的な技術や知識の数々を多く保有する彼女ならば、すぐにでもあの魔導自動車以上の性能の物でさえ作り出せるだろう。

 しかし、そんな二人の予想に反して、ララは首を横に振る。


「それがねぇ、少し難しいのよ」

「え、そうなのか。あの特殊金属を使えばすぐに作れるんじゃないのか?」


 驚きに目を見開きながら言うイールに。ララは頷く。


「この前、エメンタールの牧場でおっきなロックスピルを倒したでしょ」

「はい。まあ、あれはみんなエメンタールさんのお友達だった訳ですが……」

「そのときに使ったワイヤーとか、ハルバードの性能とか。あれちょっと予想よりも随分下回る性能なのよね」


 その言葉に、イールとロミは絶句する。

 最終的には抜けられたとはいえ、特殊金属製のワイヤーは一時完全にあの山のような巨体を押さえつけていた。ハルバードも、その堅い装甲に撫でるように沿わせるだけですぱりと断ち切っていた。

 あの光景も十分に人智を超越したものだと思う二人は怪訝な顔でララを見た。


「あ、いや、まあ確かにあれでも十分だとは思うよ?」


 そんな二人の反応に気がついたララは、慌てて取り繕う様に両手を振る。

 しかしその後に、少しだけがっかりしたように声色を落として付け加える。


「でも、やっぱり私の思い描いていた性能はかなり下回ってるのよ……。ワイヤーはびくともせずにあのジャイアントロックスピルを永久に拘束し続けるだけの硬度と柔軟性を持ち合わせているはずだし、ハルバードだってもっと軽く切り刻めると思ってた」

「それって、単純に理想が高すぎるだけの話じゃないのか?」


 逆三角形の目でイールが言及すると、彼女は首を振る。


「いや、計算上でもそういう結果が出てるのよ。とにかく、なぜかここでは特殊金属の性能が落ちてる」

「うーん、よくわかりませんけれど。経年劣化のせいなのでは?」


 眉を顰めながらロミが言う。

 確かにララの持つ特殊金属は、全て彼女がこの星へ落ちてきた際に乗っていた宇宙船の装甲版の一部だ。

 不毛な大地に墜落したそれなりに大きな宇宙船が、腐葉土に半分埋もれるほどの時間が経ったのならば、その長い時間が装甲版さえも蝕んだと考えるのが妥当ではあった。

 しかし、その意見にもララは首を傾げる。


「たしかに、微量の腐食は見られるけど、ほとんど理想値と変わらないのよね。さすがは隕石の衝突にも耐えられる五百年保証付きの装甲版だけあって、時間による被害はあまりないの」

「五百年って、まるでエルフみたいな時間感覚だな」


 さらりと流れかけた言葉に、イールが苦笑する。


「まあ、ナノマシンとか延命治療とか、色々お金かけて頑張れば半永久的に元気に生きられるからあながち間違っていないわね」

「恐ろしい世界だな……」


 一体ララの住んでいた場所はどれほどの楽園なのだろうかと、イールはふと思った。

 彼女の予想を遙かに越える神懸かった技術を多く保有するちいさな少女。

 彼女でさえ、元の世界ではただの一般人にすぎなかったということを、イールはなかなか納得できなかった。


「ま、それはそれとして。結局何が理由なのかよくわからないのよねー」


 くるりとその場でターンしながらララは言う。

 その状況を楽しんでいるようでもあり、困っているようでもある。

 おそらくそのどちらも正解なのだろうが、やはりイールとロミには小さな少女が楽しそうに遊んでいるようにしか見えなかった。


「それじゃあ目下のところはその原因究明になるのか?」

「そうねー。どうせ魔導自動車を作るなら十全な性能を引き出したいし」

「そういうもんか」

「そういうもんなのよ」


 にへら、と笑いかけるララに、イールもつられるようにして苦笑する。

 彼女としては今のままでも十分この世界の常識を置いてけぼりにしてしまうようなオーバーテクノロジーな代物を作り出してしまうと思っているし、十中八九そうなるだろうが、おそらくそれではララの気も収まらないのだろう。


「ま、魔法に関してはあたしは門外漢だからな。あんまり期待するなよ」

「ナノマシンは魔法じゃないわよ」

「似たようなもんだろ?」


 唇をとがらせるララに、イールはひらひらと手を振って答える。

 左腕の呪いによって体の魔力の悉くを際限なく吸収され続けている彼女にとって、ララのナノマシンもロミの魔法も、そう変わらないと思っていた。


「ララさんのナノマシンは、魔法よりもずっと強力ですよ」


 しかし当事者としてはそれでは納得行かないのか、ララだけでなくロミまで苦言を呈する。


「そういうもんなのかね」

「そういうもん、なんですよ」


 至極興味なさそうにあくびを放つイールに、ララとロミは半眼で詰め寄った。

 面倒くさいところに足を突っ込んでしまったと、イールは内心げんなりしながら後ずさる。

 横っ腹を背中で押されたロッドが、不機嫌そうに小さく鼻を鳴らした。

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