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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第二章【親子の絆、岩よりも堅し】

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第七十八話「こういうのに乗って旅するのも良いかもしれないわね」

「それで、なんでテトルたちは自警団に捕まってるの?」


 厳めしい自警団の男たちが入り口を固める部屋で、ララはテトルに歩み寄る。

 彼女は問いかけに困ったような笑みで返し、少しの間言い淀む。


「ええっと……それは……。方法が拙かったといいますか……」

「方法? 何の方法?」

「昨日、新たな装備を開発したとお伝えしましたわよね?」


 ララは顎に手を当てて記憶を掘り返す。

 詳細は明かされなかったが、確かにそのような会話をした覚えがあった。


「つまりこの惨状はその新装備が原因なのか?」


 イールの問いに、テトルは鈍い動きで頷いた。


「新装備というのは、一体どこにあるんでしょうか」

「それなら、自警団の方で一時預かりということになっています」


 ロミの疑問に答えたのは、そばかすの青年である。

 彼は浅く頭を下げると部屋を小走りで出て行く。

 少しの間を置いて、すぐに彼は帰ってきた。


「お三方は身元もしっかりしていらっしゃるようなので、預かっている場所へご案内します。えっと、テトルさんも一緒に」

「あら、いいの?」

「はい。上の許可は得られましたから」


 青年はにこりと人の良さそうな笑みを浮かべる。

 先ほど部屋を出たのは、上司に確認を取るためだったようだ。

 他のメンバーは引き続き会議室に拘留されるが、テトルだけは代表者ということで両脇に自警団の団員の固められながらも同行を認められた。

 ララたち三人とテトル、そしてお目付役兼案内役の自警団員数人の列は詰め所を出て、裏手へ回る。


「これは、倉庫かな?」


 彼女たちが連れてこられたのは、屋根の高い石造りの建物だった。

 詰め所と背中合わせのように建てられたその建物は大きな鉄の扉があり、太い閂が掛かっている。

 扉の前にはこれまた筋骨隆々なドワーフの門番が立っていた。


「すみません、よろしくお願いします」


 青年の一声で、門番は閂を持ち上げる。

 幹のような腕を盛り上げ、閂を引きずり下ろす。

 ズドンと鈍い音を立てて、それは柔らかな地面にめり込んだ。

 ドアがゆっくりと開かれる。


「これは……また……」


 その中に鎮座する物を見上げ、ララはあんぐりと口を開ける。


「なんだこれは」

「鉄の、馬車でしょうか?」


 後ろに立つ二人もそれを見て、その正体を掴めず首をかしげる。

 それは一見すると馬車の荷台のようにも見える。

 大きな車輪が前後に一対ずつ、四つ付けられている。

 その上には木板を鉄で補強した船のような箱が載り、上部は撥水布の幌が張られている。


「馬車にしては、(ながえ)(くびき)も見当たらないが」

「それもそうですね、取れてしまったんでしょうか?」

「これは……自動車……?」


 ララの声が震える。

 彼女は信じられないと手で口を覆い、ゆっくりと近づく。


「『解析(アナライズ)』」


 ララの突き出した手から白い光が放出される。

 指向性を持ったそれは車を舐めるように走り、データを集める。

 表面だけに収まらず、小さな隙間から内部構造まで詳らかにし、それを彼女の脳内に反映させる。


「エンジンもある……ギアも……、魔力を取り込んで動力にしてるのね。確かに私の作ったゴーレムから流用してる技術がいくつかあるわ」


 それは確かに、自動車と呼べる代物だった。

 箱型の搭乗台の中には壁に沿う長い椅子が二つと操縦席、それと動力源である魔力を放出する魔法使いが座る席があった。

 これは、魔力を消費し動力にする魔導自動車と言うべき代物だった。


「凄いわね、テトル……。こんなに短い時間でこんなものを作るなんて」


 ララは振り返り、テトルに賞賛の声を浴びせる。

 彼女は頬を赤らめて少し俯く。


「こ、これくらい、『壁の中の花園』の総力を以てすれば簡単……でもありませんでしたわね。これは試作十三号機ですし」


 彼女は遠い目をしたかと思えばがっくりと肩を落とす。

 随分と苦い失敗の山の上に、このオーバーテクノロジーの塊ともいえる魔導自動車が存在するのだ。


「それで、これがどうテトルたちの拘束と関係してくるんだ」

「テトルさんたちが、突然これに乗ってやって来たんですが……」

「その、いささかスピードを出しすぎてしまったようで、魔獣と間違えられてしまって……」

「ああ、まあ、少し珍しい外見ですものね」


 ロミが無骨な車体を一瞥し、苦笑いする。

 馬車のようではあるが馬車ではない、無骨な鉄の箱が猛然と町に近づいてきたら、自警団としても警戒せざるを得ないのだろう。


「それで火炎魔術師が炎の壁を作って進行を阻止しようとしたのですが、易々と突破されまして」

「流石に拙いと思ったので緊急停止したら、なだれ込んできた自警団の方々にあれよあれよという間に捕縛されてしまったのですわ」

「何をやってるんだ、まったく」


 バツが悪そうに語る妹に、イールは目を覆って天を仰ぐ。

 テトルは申し開きもありませんと項垂れる。


「そういえば、コンテは? さっきの部屋では姿が見えなかったけど」


 もう一人来ているはずの人物を思い出し、ララがテトルに尋ねる。


「コンテさんは少し乗り物に酔われたようですので、詰め所の別の部屋で休ませて貰っていますわ」

「そうだったの……。ということは、エメンタールさんとは直接お話してもらえるのね」

「ええ。そのためにここまでやって来たんですもの」


 ひとまず当初の目的は達成できそうだと、ララはほっと胸をなで下ろす。

 それが確認できれば、あとはもう些末な問題である。


「それで、テトルたちを解放してもらうにはどうすればいいのかしら?」


 ララはそばかすの青年に向き直り口を開く。

 その言葉は予想していたのだろう、青年はすぐにすらすらと答える。


「保釈金として銀貨三枚。身分保証書としてギルドカードのような物をお持ちではありませんか?」

「銀貨三枚……。稼いでおいて良かったわね」


 想定外の出費に眉を揺らしながらも、ララは素直に指定の金額を支払う。

 ギルドカードも本物と認められ、晴れてテトルは自由の身となった。


「他の皆様も、すぐに解放しますからね」


 青年はそういうと、一足先に詰め所へ戻っていった。

 取り残された三人とテトルは、ほっと息をつきながら魔導自動車を見た。


「まさか、こんなものを作るとは思わなかったわ」

「さすがは『紅緋の百合(スカーレットリリィ)』様だな」

「や、やめてくださいましっ! その名前はみんなが勝手に呼んでいるだけですのよ」

「いいじゃないか、格好いいと思うぞ?」


 目を細めて口元を緩めるイールに、テトルはぽっと頬を赤らめて俯く。

 その姿に余計に嗜虐心をくすぐられたのか、ずいずいと彼女は妹に密着する。


「こんなに立派な魔導具、初めて見ましたよ」

「あーそっか、これも魔導具なのよね」


 ロミの言葉に、ララはぽんと手を打つ。

 確かにこの自動車も魔力によって動く機構を備えているわけであるから、魔導具と言って差し支えないだろう。


「この世界……というかテトル達の技術力は目を見張る物があるわね。まさかこんな乗り物を開発するなんて」


 何度目かになる賞賛を漏らしながら、ララはしげしげとそれを見つめる。

 無骨で自然に溶け込ませるようなつや消しの鈍色の金属は、長旅の中で擦れたのか細かな傷がいくつか付いている。

 十三号機ともなればそれなりにシルエットも洗練されており、使い勝手も良さそうだ。


「こういうのに乗って旅するのも良いかもしれないわね」

「ええと、申し訳ないのですが……」


 ぽろりと零れたララの台詞に、テトルが反応する。


「まだこの装備は実用段階にまでは到達していないのですわ」

「ええ? でもヤルダからハギルまで来られたんだし十分じゃないの?」

「それが、耐久性に難がありすぎなのですわ。私とパロルドと数人の護衛要員以外は、全員整備担当として随行しているのです」


 整備員以外にも大量の予備部品を用意し、満を持してのテスト走行を兼ねたのが今回の行程だったのだと、テトルは語る。

 事実ここまでの道中で予備部品の多くを消耗し、ハギルである程度金属を補充しなければ帰りが心許ないのだという。


「と言うわけで、まだまだ車両の安定運用は遠いのです」

「それもそうよね……。一朝一夕で完璧な物が作れたら私の立つ瀬がないもの」


 眉を顰めるテトルに、ララは納得して頷く。

 技術の進歩とはトライアンドエラーの積み重ねなのである。


「それじゃ、とりあえず戻りましょうか」

「コンテを連れてエメンタールに会いに行かないと行けないし」

「じゃあ、行きましょう」


 門番のドワーフに見送られ、四人は倉庫を出る。

 詰め所の方まで戻ると、入り口の前にはララ達も懐かしい老婦人が穏やかな表情で出迎えた。

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