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第七十七話「自警団に会わなきゃ」

 翌朝、ララは胸に響く微振動によって意識を覚醒した。

 まだ部屋に差し込む光すらなく、当然の如くイールとロミは起きていない。


「むぅ、何かしら……」


 重たい瞼をくしくしと擦りつつ、ララは口をとがらせる。

 反対の手で胸元をまさぐると、ブルブルと震えるペンダントがあった。

 イールたちは寝るときにはペンダントを枕元に置いているが、ララだけは別段着けていても気にならない為一日中首に掛けていたのだ。

 どうやらこれが安眠妨害の理由らしいと察したララは大きなため息をついた後、周りを見渡す。

 隣のベッドには穏やかに胸を上下させる二人がいる。

 イールは案外寝相が良く、ロミは悪い。

 イールのシーツが殆ど乱れていないのに対して、ロミのシーツはまるで荒海か何かかと見紛うほどの惨状である。


「はぁ……」


 ともかく二人を起こすのも悪い。

 ララはそっとベッドから降りると、ひんやりとした床をゆっくりと静かに歩いて部屋の外にでた。

 ペンダントは未だ根気よく振動を続け、何かしら着信があることを知らせている。


「まあ、十中八九テトルよね」


 ララがペンダントを開き、そっと返答すると、案の定聞き覚えのある淑女のような声が返ってきた。


「おはようございます、ララお姉さま。朝早くに申し訳ありません」

「いやぁ、ほんとに早いわね」


 まだ朝日も出てないわよ、とララが頬を膨らませる。

 テトルは痛いところを突かれたようにぐっとうめく。


「ま、別に良いわよ。こんな時間にかけてくるだけの用事があるんでしょ?」


 テトルが頷くのが、風の音から分かった。


「そうなんですの。実は、今少し厄介なことになっていまして……」

「へ? 厄介なことって――」



「起きて!! 二人とも! 早く起きてー!」

「ううん……なんだ朝っぱらから……」

「すぅすぅ……」


 ララの絶叫にイールはボサボサの髪を撫でながらなんとか目を覚ます。

 わたわたと落ち着きのない少女を見て、彼女はこくりと首をかしげた。


「早く身支度して、宿を出るよ」

「ちょっとまて、落ち着けって。何がどうしてそうなるんだ」

「テトル達がもうハギルまで来てるのよ。それで――」

「はあ!? もう到着したのか?」

「そうなのよ」


 どんな冗談だと思考を拒否しそうになったイールだが、ララの様子からして現実らしいと思い直す。

 そうして彼女もベッドから降りるとテキパキと荷物を整える。

 さすがは手練れの傭兵というだけあって、起きてからの行動は素早い。


「ロミ、お願いだから起きてぇ!」

「ふにゃ……?」


 対照的に、ロミの眠りは奈落よりも深く、ララが涙目になって懇願している。

 ガクガクと肩を揺らし、むにむにと頬を抓る。

 しぶとい彼女がようやくうっすらと目を開けたのは、イールが完全に準備を終えてからのことだった。


「イール、髪は?」

「急ぐんだろう? 適当に纏めとくよ」

「そう。それじゃ、私も準備しなくちゃ」

「ふぁ……、こんな朝早くにどうしたんですか?」

「ちょっと緊急事態。急いで荷物纏めてハギルの街道まで行くわよ」


 まだ眠そうなロミを鼓舞し、三人は慌ただしく部屋を出る。

 ロビーに入ると、リルがテーブルを拭いていた。

 彼女はいつもよりずっと早い三人の起床に驚いた様子で目を丸くしていた。


「おはよう、リル」

「おはよう。どうしたの? こんな朝早くに」

「ちょっと急用ができちゃって、すぐに街道まで行かないといけないの」

「あらあら。気をつけてね」


 リルに見送られ、三人は山道を下る。

 ようやく頭頂を少し見せた朝日が空をぼんやりと薄い蒼に染める。

 町に入る三人を阻む者は誰もいない。

 通りは閑散としていて、早起きな町人や勤勉な商人が二三歩いている姿が散見されるだけだ。

 奥までよく見える石畳の上を、三人は軽やかに走り抜ける。

 流石のロミも完全に意識を取り戻していた。


「ララさん、これは何処へ向かってるんですか?」

「とりあえず、関所ね。自警団に会わなきゃ」


 脈絡のない組織の名前に、ロミは首をかしげる。

 とりあえず話は後で、とララは切り上げ道を急いだ。

 石造りの建物の間を縫い、三人が走る。

 人のいない大通りは平らに整備されているだけあって、山の砂利道よりも格段に走りやすい。

 三人は予想よりも随分と早く町境にある自警団の詰め所の前までやってきた。


「すみません! ここにテトルはいるかしら」


 ララが滑り込むように詰め所に入り、声を張り上げる。

 詰め所の中は案外狭く、そこには揃いの肩章を着けた屈強な男たちが大勢立っていた。

 彼らは飛び入ってきた見知らぬ銀髪の少女に驚いた後、その後ろからやって来た赤髪の女と金髪の神官に困惑する。


「テトルさんなら、こちらですよ」


 自警団の一人、そばかすを散らした若い青年が答える。


「あら、あなたは……」


 どこかで見た顔だ、とララは首をかしげる。

 少し間を置いて、彼女がぽんと手を叩く。

 彼は彼女たちが初めて町へやって来たときに温泉のことを教えてくれた青年だ。


「久しぶりね」

「お久しぶりです。まさか貴女方がいらっしゃるとは……」


 青年の方も驚いたようで、目を丸くしている。

 再会の会話もそこそこに、それた話題から戻る。

 青年の案内で、ララたちは詰め所の奥に向かう。

 イールとロミは状況が分からず困惑していた。


「この部屋です」


 そう言って、青年がドアを開く。

 中は先ほどの自警団の団員達がいた所よりも随分と広い。

 大きなテーブルが真ん中に置かれている様子からすると、会議室として使われているのかもしれない。


「それで、この部屋に何が……」


 眉を寄せるイールが部屋に入り、言葉は尻すぼみに小さくなる。

 大きなテーブルを囲むように座る、何人かの見知った顔。

 特に目を引くのは、彼女と同じ鮮やかな赤髪を二つに纏めた、白衣の少女だ。

 彼女――テトルはちろりと舌の先を出してバツが悪そうに笑った。


「お、おはようございます。お姉さま」

「テトル……!?」

「オレもいるぜ、イールさん」

「パロルドまで!? 一体どうしたんだ?」


 会議室に詰め込まれていたのは、イールの妹テトルが率いるヤルダの秘密組織、『壁の中の花園(シークレットガーデン)』の面々だった。

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