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第六十九話「期待して待ってるわ」

「お待たせ。この依頼だよね?」


 テーブルへと戻ってきたララが一枚の依頼書を真ん中に置く。

 依頼人はメリィ、内容はロックスピルの駆除だ。


「うん。これだよー」


 依頼人本人の確認も取り、彼女たちはこの依頼を受けることを決める。

 まだ食事が終わっていないイールに代わって、ララがギルドのカウンターまで行く。

 そうしてつつがなくやりとりを終え、テーブルが片付くころに、ララは受領済みの判の押された依頼書を持って帰ってきた。


「それじゃあ、早速行きましょうか」


 大通りへと湧き出る人々の中に紛れながら、四人は町の外を目指す。

 降り注ぐ日差しの中を歩いて町を抜け、山道を登る。


「このあたりにロックスピルがでるの?」


 ゴツゴツとした緑の少ない殺風景な山肌を眺め、ララが口を開く。


「うーん、町に近い所だとあんまり出ないよー。自警団の人たちがやっつけてくれてるの」


 メリィはリュックを背負い直しながら答える。

 ララたちも町へ入るときに出会った自警団は、検問だけでなく町の脅威となる魔獣の駆除なども主な仕事としているようだ。


「けど、牧場はちょっと町から遠いから自警団の人もあんまり協力してくれないの」


 唇を尖らせ、メリィはそう続けた。

 自警団としても、町の周囲を見回るのが精一杯で、郊外にある牧場までカバーするのは厳しいのだろう。


「それも大変ね。かといって自警団に無理言って怪我させちゃったら元も子もないし」

「ま、そういうときの為に傭兵ギルドがあるんだよ」


 先頭を歩きながら周囲を警戒していたイールが、顔だけを後ろに向けて言った。

 多少の金銭は必要となるが、そういった公共の手が届きにくい所でも仕事をするのが、傭兵ギルドの役割なのだ。

 そんな彼女の言葉に、ララも頷く。


「いざとなったら、神殿からも神殿騎士が派遣されるでしょうし」

「神殿騎士って?」

「基本的には神殿の防衛を任務とする武装した神官ですよ。神殿の周囲に白い鎧を着込んだ人を見ませんでしたか?」

「あー、そういえば、いたような……?」


 ララは首をかしげ、ヤルダの神殿を訪れた際の記憶をたぐり寄せる。

 たしかに、神殿の周囲や各所に白い重装をした厳つい姿を見たような気もする。

 いつ見ても微動だにしないため、てっきりオブジェか何かだと思っていた。


「あの方々が神殿騎士ですよ。神殿防衛が最重要任務ですが、要請があり神殿長の許可が下れば出動もできます」

「へぇ、神殿って案外戦力も潤沢なのね」

「正しい教えを広めるためには、時として拳を握ることも大切ですからね」


 ロミの役職である武装神官もそうだが、キア・クルミナ教は多くの戦闘員を保有していた。

 大陸を支配する宗教の最大勢力ともなれば、それが必要な場面も少なくないのだろう。


「それで、ロックスピルっていうのは結局どういう魔獣なの? 大きな岩っていうのは聞いたけど……」

「でかいっていっても、大体ララの腰くらいだよ。丸い岩石みたいな外見で、斜面を転がりながらやってくる。登る時は手足を出してるけどな」

「なんだか、カメかダンゴムシみたいね」

「実際そんなもんさ」


 なんとなく連想した物の名前を挙げると、当たらずとも遠からず、といった様子らしかった。

 ロックスピルは毎年この時期になると数を増やし、麓まで転がってくることもあるのだという。


「分類的には精霊系になるので、物質的な食事はいらないんです。だからヒージャを食べる心配はないんですが……」

「でも、お昼寝してるヒージャにぶつかって怪我させちゃったり、ちっちゃいロックスピルが足下で寝てるのに気付かないで躓いちゃったりして大変なの」


 毎日牧場でヒージャの世話をしているメリィはそういって眉を寄せる。

 彼女にとってロックスピルはどうしようもない邪魔者なのだった。


「捕食はしないとはいえ、確かに動く石がそこらに転がってたら嫌よね」


 想像したのか、ララは苦い顔をして頷く。

 話をしていると、いつの間にか牧場の近くにまで帰ってきていた。

 ララたちはメリィの案内で、ひとまず小屋の中に入る。

 そこで、具体的なロックスピル駆除の作戦を立てるのだ。


「作戦と言っても、そこまで大仰な物は立てないけどね」


 テーブルを囲み、イールは苦笑した。

 彼女たちが目を落とすのは、牧場周辺の地図だった。

 それによれば、ララの予想していた通り牧場はかなりの土地を占めているようだった。

 彼女たちのいる小屋は、隅っこの辺りにぽつんと黒い粒が示されているだけだ。

 あとはぐるりと歪な四角形になるように柵が巡らせてあり、その中にヒージャの放牧地や厩舎などが建てられているらしい。


「これだけ広いとそれぞれ分かれて対応したほうがいいかもしれないな」

「ええ、魔獣相手に一人でも大丈夫なの?」

「ロックスピルはそこまで強い魔獣じゃないので、大丈夫だと思いますよ」


 少なくともララなら何の心配もいらないだろう。

 と、イールとロミの本心が一致した。


「実際、小さいロックスピルなら普通の大人でも木の棒で殴ってりゃ倒れる程度の相手だ。気をつけるのは斜面からの”落石”と石に擬態している奴からの奇襲だけだな」

「奇襲は第三の目でも看破できますし、ララさんならナノマシンを使えばいいんじゃないでしょうか」

「ふんふん。大体分かったわ。基本は索敵しつつ柵沿いに歩いて警戒、見つけたら叩くね。サーチアンドデストロイ!」

「さーち? ……まあ、そういうことだ。依頼内容は……ロックスピル三十匹の駆除でいいか?」


 イールが依頼書を確認し、カウンターで作業をしていたメリィに尋ねる。

 彼女は手を止めてこちらに振り向き、元気よく頷いた。


「うん! 毎年三十匹くらい駆除したらいなくなるんだー」

「三十匹って割と多いよね」

「ロックスピル程度の魔物なら妥当な数だと思いますよ」

「三人で分けたら一人十匹だ。すぐに終わるよ」

「それもそうねー。それじゃ、私は北の一辺を担当するわね」

「それじゃあわたしは西を」

「あたしは東だな。それじゃあぼちぼちやっていこうか」


 ララが地図に描かれた柵の一辺をなぞる。

 それに従い、イールとロミも自分の担当を決める。

 そうして、三人はそれぞれの武器を持つ。


「おねーちゃんたちありがとう! お礼になにか用意しておくね!」

「期待して待ってるわ」


 キラキラと目を輝かせるメリィに見送られ、三人は小屋の外へと歩き出した。

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