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第六十八話「ウォーキングフィッシュで刺身ってできるのかしら」

「――で、選んだ料理がそれか」

「ええ!? な、なにかマズかった?」


 ララがメリィと共に料理の載ったプレートを携えてテーブルへ戻ってくると、イールとロミは驚いたような顔になった。


「いや、別にララは悪くない。……まあ、気になるよな。名前も面白いし」


 そう言いつつイールはちらりと見る。

 視線の先には、真っ黒な小芋の山になった籠――石炭焼きがあった。


「なんで石炭焼きにこんなに反応されるのかしら」

「昨日の昼食にそれを食べたんだよ。昨日の今日だったから少し驚いた」

「名前がおもしろいから、メニューで見掛けたら興味も持ちますよね」


 ララが選んだのは、石炭焼きとブラウンシチューのセットだった。

 イールとロミはまさか昨日自分たちが食べたものをララが選ぶとは予想しておらず、驚いていたというわけだった。


「なんだ、そういうことだったのね。てっきり頼んじゃマズいタイプの料理かと思ったわ」

「頼んだらマズい料理ってなんだよ」

「うーん、食べたら三日三晩口がものすごく臭くなっちゃうとか」

「それはマズいかもしれませんね……」


 他愛ない掛け合いをしつつ、ララとメリィはテーブルにつく。

 そうして代わりに残りの二人が自分たちのぶんを手に入れるために向かった。


「さて、先に食べちゃおっか」


 お行儀良く膝を揃えて椅子に座り、料理を前にして待っているメリィにララが声を掛ける。


「でもまだイールおねーちゃんとロミおねーちゃんが……」

「あの二人なら、先に食べてることも織り込み済みだと思うわ。それよりせっかくの煮魚が冷めちゃう方が罪だよ」

「そ、そうかな……」

「そうそう。せっかくの料理なんだから、一番おいしい時に食べないと」


 拳を握りしめ力説するララに気圧されながら、メリィも納得したようだ。

 食前の祈りを捧げると、早速フォークとナイフを両手に握る。

 それを見て小さく笑みを浮かべ、ララも懐から箸を取り出した。


「じゃ、私も。いただきます」


 両手を合わせそう言って、ララは早速石炭焼きに箸を向ける。

 箸先で器用に皮を剥くと、黒々とした外見から驚くほどの明るい鮮やかな薄橙のデンプン質が現れる。

 熱い湯気を立たせるそれを口に入れると、ほのかな甘みがじんわりと広がる。


「ん~~、おいしい!」


 目を細め、頬に手を当てる。

 ハギルでよく食べられる定番料理になるのも納得の味だった。


「やっぱり旅の醍醐味は見慣れない料理を食べることね。思わぬ出会いがあるものだわ」

「石炭焼き、気に入った?」

「ええ。この芋なら素揚げにしたり、ポテトチップスにしてもおいしそうね」


 煮魚のほろりとほぐれる白身に舌鼓を打っていたメリィも、目の前でおいしそうに食べるララに興味を持ったようだった。

 彼女の言った他の料理のうち、素揚げにしたものは既に存在しているらしく、それはメリィもよく食べることがあるらしい。


「アボ芋の素揚げは色んなとこの露店で売ってるよ。お買い物に疲れたときに休みながら食べるの」

「露店かー、いいわね」


 さっくりと揚げられたアボ芋は皮ごと食べることもできるらしく、軽く塩を振ったそれは手軽でおいしいスナックフード的な地位を獲得していた。

 機会があれば食べてみようと、ララは心の中で密かに決意した。


「ね、ララおねーちゃんが使ってるその棒は何?」


 メリィは彼女の扱う箸が気になったようだった。

 たしかに、メリィも箸という道具を見るのは初めてだろうとララは頷く。


「これはお箸って言って、見たままご飯を食べる道具よ。慣れると案外便利なのよ」

「ほえー。でもとっても難しそうだよ」

「最初はちょっと苦労するかもね。まあでも、私はそれでも覚える価値があると思うわ」

「私でも使えるかな?」

「できるできる。それなら今度お箸も作って教えてあげるわ」


 箸に興味を持ってくれたメリィに、ララは自然と頬を緩める。

 彼女の箸はメリィには少し長すぎるため、後日彼女の手に合わせたものを作って教えることを約束した。


「お、食べてるな」

「おかえり。イールたちは何にしたの?」


 そんなことをしていると、料理を持ってイールたちが帰ってくる。

 好奇心の向くまま、ララは彼女たちの持つプレートをのぞき込む。


「あたしは牛串だよ」

「わたしはサンドウィッチです」


 各自が頼んだメニューを言う。

 イールのプレートにはしっかりと焼いた牛肉が一口大の大きさで長い串に刺さっている。

 香辛料をきかせているのか、刺激的な香りを振りまいていた。

 がっつりとした彼女の食事とは反対に、ロミの選んだものはシンプルなサンドウィッチだった。

 他が皆、飲み物に水を選んでいる中、ミルクを選んでいるあたりが彼女らしい。


「どっちもおいしそうねー」

「実際、ハギルのギルド食堂は味もいいんだ」


 言いつつ、イールは早速串を一本手に取る。

 そうして、まるで石炭焼きを食べるかのようにぽんぽんとハイペースで口の中へと運ぶ。


「確かに、このブラウンシチューもおいしいわ」


 イールは自分のプレートに載ったシチュー皿を見る。

 数種類のキノコやベーコン、根菜の煮込まれたブラウンシチューはそれぞれの味が溶け出し、絡み合っている。

 バターの代わりにこれを少し付けた石炭焼きも、また違ったおいしさだ。


「気が付いたら次の一個に手が伸びちゃうのよね」


 まさに今手を伸ばしつつ、ララが言う。

 僅かに塩を効かせた石炭焼きは、魅力的な中毒性がある。


「ララは何食べてもおいしそうだな」

「ま、あんまり嫌いな物は無いかも知れないわね」


 口角を上げて言うイールに、ララも素直に同意する。

 彼女も生まれてこの方、食べ物を残した記憶が無い。


「メリィはやっぱり魚が好きなの?」


 もう殆ど完食しているメリィに、ララが尋ねる。

 彼女は当然とばかりに頷き、目を細めた。


「あんまり食べられないけど、おいしいお魚は大好きだよー」

「いいわよね、お魚。……ウォーキングフィッシュで刺身ってできるのかしら」


 ふと思いついたアイディアに、ララは考え込む。

 小さな声は聞き取れなかったのか、三人は首をかしげる。

 流石にないとララは判断し、なんでもないわと取り繕う。


「あ、ほら、メリィの依頼も張り出されたわよ」


 視線を掲示板に向けてララが言う。


「いや、よく見えるな」


 彼女たちのテーブルから掲示板までは、かなりの距離がある。

 ある程度視力に自信のあるイールでさえ、まず個々の依頼書を判別するのが難しい。

 おなじみナノマシンの能力による超視力だ。


「流石はララさんというか、なんだかもう慣れてきましたね」


 もう驚くことも無くなったのか、ロミは穏やかな顔で言う。


「私もう食べちゃったし、誰かに取られる前に取ってくるわね」


 ララはそういうと席を立ち、足早に掲示板に向かって言った。

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