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第六十七話「な、中々渋いチョイスね……」

 メリィは自分を呼ぶ声がララのものだと分かると、無邪気な笑みを浮かべて小走りでやってきた。

 小さなリュックを背負い、はるばる牧場からやって来たらしい。

 一人でやって来たのか、エメンタールの姿は見えない。


「ララさん! こんな所で会うなんて」


 メリィは驚いたようで、くりりとした黒い瞳を見開く。

 だが驚いたのはララも同様だ。

 まさか彼女が傭兵というわけではないだろうから、依頼を出しに来たというのが妥当だろう。


「メリィは何か依頼を出しに来たの?」


 ララが尋ねると、メリィは元気に頷く。


「うん。お父さんに頼まれたの。牧場にロックスピルが出る季節になったから、駆除してほしいの」

「ロックスピル? 魔獣かしら」

「おっきい岩の魔獣だよ。ヒージャを襲ったりはしないんだけどゴロゴロ転がって柵を壊したりするの。お昼寝してるヒージャを踏んじゃうこともあるし」

「へぇ、大変ねぇ」


 メリィは全身を使ってロックスピルの大きさを表現し、とっても困ってるの、と小さな肩をしょんぼりと落とした。

 ララは少し逡巡し、後ろで様子を伺うイールとロミに振り返った。


「ねぇ二人とも。ちょっと話があるんだけど」

「なんでしょうか? って、大体内容は察してますが」

「メリィの依頼を受けたいんだろ?」

「えへへ、流石に分かっちゃうよね」


 もとより二人ともその気だったようで、すんなりと意見は纏まる。

 ララはメリィに向き直り、目を細めた。


「その依頼、私たちに任せてくれない?」

「ララさんがやってくれるの!?」

「任せといて! あの二人はとっても強いんだから」


 胸に手を置いてララは力強く言う。


「自分が一番強いくせに何言ってるんだか」

「でも、外見で一番説得力があるのはイールさんだと思いますよ」

「そりゃ一番背も高いしな」


 白々しいララの行動に二人はひそひそと言葉を立てる。

 ララはそれを無視してメリィと会話を続けた。


「依頼はもう出したの?」

「うん。さっき受付で依頼用紙を書いたよ」

「それならもうすぐ掲示板に貼られるかしら」

「ロックスピルならこの時期それほど珍しい依頼でもない。すぐに審査も降りて張り出されるだろ」


 ギルドの事情に明るいイールの言葉に従い、四人はテーブルを囲んで依頼書が張り出されるのを待つことにした。

 ギルドに寄せられた膨大な数に依頼は、大まかに二段階の審査を突破する必要がある。

 一段階目は受付時で、その依頼が傭兵ギルドに持ち込まれる妥当な理由があるかどうかを判断する。

 これは依頼受け付けを担当する職員の一存であり、山のような依頼の中から不純物を大まかに取り除く役目を持つ。

 二段階目はその依頼の難易度を設定するための審査だ。

 これは複数人の専門職員があたり、話し合いの上で難易度を決める。

 これによって依頼書が作成され、内容に合った然るべきランクを設定される。

 基本的に高難度の依頼ほどランクの設定に時間が掛かり、依頼書の作成も遅れる。

 反面、定期的に類似の依頼が大量に寄せられるようなものは、それほど時間も掛けられずに審査をパスすることができる。

 依頼書の文面も殆ど定型化しているため、発行も短時間だ。

 そういうわけで、イールはメリィの依頼が張り出されるのもそれほど時間を挟まないだろうと考えていた。


「丁度いい。何か食べながら待とうか」

「そういえば周りでも食事してる人がいるわね」


 周囲を見回してみてみれば、テーブルに料理を置いている傭兵も少なからず見受けられる。

 依頼の受発注などの業務をこなすカウンターのすぐ隣に、食事を提供する店が並んでいるらしかった。


「依頼を達成したときとかで懐が暖まってると、ついつい祝杯を挙げたがるのが傭兵っていうやつなのさ」

「ギルドもその辺織り込み済みなのね……」


 上手いこと考えるものだ、とララは感心する。

 ギルドの直営レストランはギルド員なら会員価格で利用できるらしい。

 味についてはそれほど特筆するものでもないが、安く手頃で駆け出しの傭兵たちにはありがたい食料供給源になっている。


「色々あるし、二人ずつ行こうか。荷物は見といてやるよ」

「分かったわ。それじゃ最初は……」

「ララとメリィでいいんじゃないか?」

「ええ。わたしは後でいいですし」

「ほんとに? それじゃあお言葉に甘えるわね」


 快く頷く二人に見送られ、ララとメリィはレストランの列に並ぶ。

 昼時ということもあり、大勢の傭兵たちが腹をさすりながら背中を連ねている。

 ララははぐれないようにメリィの手を握った。


「メリィは傭兵ギルドにはよく来るの?」

「牧場に魔物が出たときはいつも私が依頼を出しに行くの。お父さんはあんまり町まで降りないし」

「そうだったの……。それじゃあロックスピルの依頼も初めてじゃ無いのね」

「うん。毎年出してるよ」


 偉い偉いとララがメリィの茶髪を撫でる。

 彼女は猫のように目を細め、気持ちよさそうにされるがままになっていた。

 この子がアルノーの孫か、とララはそっと彼女を見やる。

 ララにはドワーフの個性がそれほど分からない。

 似ていると言われれば似ているかもしれない、程度にしか感じられない。

 あの無愛想なドワーフの老翁と活発な少女を結びつけるのは、少し不思議である。


「メリィはエメンタールさんのこと好き?」


 脈絡の無いララの問いかけに、メリィはきょとんとする。

 しかしすぐに笑顔を浮かべると大きく頷いた。


「うん! 優しいし、力持ちだし、ちょっと最近お腹が出てきたけど背も高いもん」

「そっかー。いいお父さんなんだね」

「初めて会ったときはちょっと緊張したけどねー」


 えへへ、とメリィはそばかすの浮いた頬を掻く。

 彼女はあまり自分が孤児だということや、エメンタールが実の父親ではないことを気にしている様子は無かった。

 その達観した性格が、ドワーフという種族によるものなのか、単に彼女の個性なのか、ララには分からない。


「ちなみにクッカのことは好き?」

「クッカくん? 元気だし優しいし、とっても好きだよー」


 悪戯に投げかけた質問に、メリィは純粋な笑顔で答える。

 そこに僅かな羞恥も感じられないことに、ララは遠い目をした。


「頑張れクッカ……。道はまだ遠そうね」

「おねーちゃん、どうかした?」

「いや、なんでもないわ。クッカと仲良くしてね」


 ララの言葉に、メリィは元気よく頷く。

 いつかクッカの思いが届けばいいな、とララは心の中で彼を応援した。


「あ、そろそろ私たちの番だよ」

「ほんとだ。何頼もうかなぁ」


 気が付けば随分と列も短くなり、カウンターの上部に並んだ品書きに視線を向ける。

 他のレストランでも定番のパン、シチュー、ステーキなどのメニューが並び、その下に値段が付けられている。

 確かに少し安い値段で提供されているらしく、また他の客が受け取った料理を見る限りボリュームも充分なようだった。


「メリィはもう決まった?」

「煮魚ランチにする!」

「な、中々渋いチョイスね……」


 ハギルではあまり鮮魚が出回らないこともあり、中々そういう料理を食べる機会はないのだという。

 メリィは目を輝かせ、カウンターで対応する歴戦の風格を持つ中年のお姉さんに話しかける。

 それを見て、ララも何にしようか考える。

 今朝、ウォーキングフィッシュのフライを食べたばかりで、あまり魚という気分でも無い。

 とはいえ、ヒージャ肉もそろそろ飽きてきたように思う。

 このあたりで何か新しい風を吹き込みたいところだ。


「――あ、あれにしようかしら」


 そうして彼女はカウンターのお姉さんに話しかけた。

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