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第五十八話「一応私、大学に勤めてたのよ」

「イールお姉さま!? まさかお姉さまから先に通信があるなんて。ああ、まるで夢のようですわね! ペンダントを作った私を褒めたいっ!!」

「……あー、テトル? とりあえず落ち着いてくれ」


 エメンタールが帰った後、三人は部屋に戻った。

 そこでイールがペンダントを起動してテトルに信号を送ったのだが――


「なんというか、予想通りといえば予想通りよね」


 ワンコールもしない一瞬で、テトルの声がペンダントから響いた。

 心なしかペンダントすらもテトルの心象を反映して弾んでいるように見える。

 三人は分かっていたような、驚いていたような、なんとも言えぬ気持ちを抱えて久しぶりのテトルとの会話を始めた。

 鞠のように弾むテトルをどうどうと諫め、イールは早速本題に入る。

 コンテとエメンタールの間に起きて、彼女たちも関わるその話の大まかな部分を説明すれば、元が明晰な彼女はすぐに自分になにが求められているかを察した。


「その、コンテさんの所へ行って、ペンダント越しに会話を手助けすればよろしいのですね」

「ああ。そういうことだ」


 見えてはいないだろうが、イールはペンダントに向かって頷く。

 ララはそんな彼女の様子を見て、携帯端末で通話しながらペコペコと頭を下げるサラリーマンを思い出していた。


「どれくらいでコンテのところまで行けそうだ?」

「他でもないお姉さまの頼みですもの。今すぐにでも出発しますわよ」


 張り切って答えるテトルは、ペンダントの向こう側で胸を張っている。

 姉思いな妹だ、とイールは頬を掻いて笑みを零す。

 彼女のことだ。きっとそう言ったからにはすぐに準備を整えヤルダを発ち、明朝には村でコンテと顔を合わせているだろう。

 しかしながら、明日では少し都合が悪い。

 明日はイールがドワーフの老人の元を再び訪ねるという予定があるのだ。


「テトル、明後日くらいに通話をしたいんだが、それでもいいか?」

「ええ、大丈夫ですわ。明後日の朝に村に着くよう手配いたします」


 結局、日程についてはイールの希望がすんなりと通り、すぐに決まる。

 とはいえせっかく繋いだ通信をそのままあっさりと途切れさせるのはもったいないと、ララがイールの肩から顔を出してペンダントに話しかける。


「ねえテトル、ゴーレムの方の研究は順調かしら?」

「ララお姉さま! ゴーレムはまだまだ課題が多くて実用化には至っておりませんわね」


 突然入ったララの声にテトルは驚きつつも、ゴーレム研究の現状を語る。

 『錆びた歯車(ラスティ・ギア)』から接収し、ララが魔改造を施した魔導自律人形――通称ゴーレムは、テトル率いる『壁の中の花園(シークレットガーデン)』の管理下に置かれ、現在はそれを元にした量産機の開発を進めている。

 しかし『錆びた歯車』が保有していたオリジナルならともかく、ララの手による魔改造の結果により中々技術解析は進まず、研究は難航しているようだった。


「でもウチの研究員は皆、あの未知の技術がぎゅっと詰め込まれたゴーレムに夢中で、昼夜を問わず研究解析を進めていますわ。試作機も既に二十二機作られています」

「も、もうそんなに作られてるのか……」


 どうやら『壁の中の花園』の中には頼もしい研究バカが数多く籍を置いているようだった。

 驚きと感心と呆れの混じる声で、イールが言った。


「ゴーレムから派生して、中枢を生身の人間が担う強化外骨格の開発も進めていますの。そちらは指示系統についてあまり考えなくて言い分、大元のゴーレムよりも研究が進んでいますわ」

「あたしたちが出発してまだそんなに経ってないのに。研究開発の速度が異常だな」

「それだけ、ララお姉さまの残してくださったゴーレムには夢と希望が詰まっているのですわ」


 乾いた声で言うイールに、テトルははっきりと断言する。

 ララの作り上げたゴーレムは、古代遺失技術すら凌駕するオーバーテクノロジーが無数に詰まっている。

 その中の技術を一つでも再現することができたなら、それだけでこの世界の科学は数十年、数百年の進化を遂げる。

 テトルはその技術をより多く、より完璧に盗もうと、日夜頭を悩ませているのだ。


「できれば何か研究の糸口でも教えて頂ければ、とっても嬉しいのですが……」

「流石にそれは……。というより実は私も機械工学は専門じゃないからあまり分からないのよ」


 ララが魔改造を施したのは、単純にデータベースにそれらの機構の設計図があったからだ。

 ナノマシンとそれを併用して半自動的に作り上げることはできても、彼女に理論を説明することは難しかった。

 そんなララの説明に、テトルはしゅんと声をしぼませる。

 しかしある程度は予想もしていたのか、それほどショックが大きい訳ではないようだった。


「それじゃあ、ララの専門はなんだったんだ?」


 ふと気になって、イールが尋ねる。

 途端にララはうっと喉を詰まらせた。

 どう説明したものかと彼女は眉を寄せて頭を悩ませる。


「大学では惑星探査学の授業を持ってたわ」

「……は? 授業を受けてた、じゃないのか?」

「一応私、大学に勤めてたのよ」


 ララの言葉に、イールとロミが硬直する。

 ペンダントの向こう側から聞いていたテトルもまた、絶句していた。

 しばしの静寂の後、驚愕の声が翡翠屋に響いた。

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