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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第二章【親子の絆、岩よりも堅し】

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第五十話「奥さんからお手紙、預かってるの」

「……え? お、お父さん?」


 長い沈黙のあと、ようやく声を絞り出したのはララだった。

 メリィは軽く頷く。


「うん。エメンタールはわたしのお父さんだよ」

「でも、エメンタールさんは人間で、メリィはドワーフだろう?」

「そうだよ。だから、わたしはお父さんの養子なの」

「よ、養子ですか……」


 その言葉に、三人はほっと胸をなで下ろす。


「一年くらい前に、わたしはお父さんに引き取られたの。それまでは孤児院に住んでたんだけどね」

「一年前……。コンテさんに手紙を送らなくなったのもそれくらいの時期よね」

「メリィのことと牧場のことで忙しくなって、余裕がなくなったって感じか」


 三人は顔をつきあわせ、事情を確認する。

 その間、メリィはカウンターできょとんと首をかしげ、クッカは退屈そうに欠伸をしていた。

 それほどの時も経たずに話はまとまり、代表としてララがクッカに話しかける。


「ねえメリィ、お父さんは今どこにいるの?」

「牧場にいると思うよ。毎朝ヒージャの体調を記録してるの」

「それじゃ、会わせて貰っても良いかな?」

「いいけど……。あなたたちはお父さんの知り合い?」


 首をかしげ、黒い瞳に疑念を浮かべるメリィ。

 唐突にやって来た見知らぬ人間三人が父親に会わせてくれといったら、訝しむのも当然だった。

 そりゃそうか、とララは頭を掻き、ひとまずの説明をした。


「私たちある人からエメンタールさんに手紙を届けるよう言付けられてるの。これがその手紙ね」


 そう言って、ララはコンテから預かっていた手紙をメリィに見せる。

 白い便箋にはエメンタールの名と、差出人のコンテの署名がされてある。


「お手紙かぁ。そういうことだったのね」


 それを見てメリィも納得したらしく、ぱっと顔を明るくする。


「お父さん、朝の作業が終わったら小屋に帰ってくると思うから待っててちょうだい。その間にクッカに渡すお肉準備するね」

「ありがとう。それじゃあその辺で待たせて貰うわね」


 そうして、ララたちは部屋の隅に置いてあった空の木箱に腰掛ける。

 メリィはぱたぱたと駆けてクッカと共に奥の部屋へと姿を消した。


「しかし、子供がいたなんてな」

「このこと、絶対コンテさんは知りませんよね……」

「手紙が途切れたのも、メリィを引き取ったときくらいからみたいだしね」


 三人はしみじみと言葉を漏らす。

 単純に牧場が忙しくなって手紙を書く余裕が無くなったのかと思えば、予想外の出来事である。

 まさか娘がいるなど、彼女たちが考えつくはずもなかった。


「手紙渡したら、エメンタールさんはどうするんだろうね」

「さあな。あたしたちは手紙の内容も知らないし、そこまでは責任持てんさ」

「それもそうね」


 しばしの間、会話が途切れる。

 奥の部屋から、クッカとメリィの話し声が微かに聞こえる。

 更に小屋の裏に広がる牧場からは、ヒージャのくぐもった低い鳴き声が届く。


「そうだ! メリィに一つ聞いておかないと」


 唐突に立ち上がり、ララがいう。

 うつらうつらしていたロミがびくりと肩を跳ね上げた。


「ど、どうしたんですか?」

「卵、売ってないかしらね」

「……温泉卵か」

「ああ、昨日言っていたあれですか」


 しっかりと頷くララに、二人は目を細める。

 時折、この小さな少女の中で熱く燃える食べ物に対する情熱に、二人は気圧されていた。


「でもこの牧場って鶏とか飼ってるのか?」

「鳴き声は聞こえませんけど」

「うぐっ、それもそうね……」


 痛いところを突かれ、ララはたじろぐ。

 確かに、この牧場のどこにも鶏の気配は感じなかった。


「うーん、やっぱりここじゃ売ってないかなぁ」

「無いもんは売れないだろうな」


 無慈悲なイールの言葉に、ララはがっくりと膝を突く。

 そこまで食べたかったのか、とロミは呆れたような笑みを浮かべる。


「二人は食べたくないの? 温泉卵をさ」

「食べたいか食べたくないかで言えば、食べたいけどなぁ」

「あんまり詳しく知りませんからね。まあ、すごく食べたい! っていうほどでも」

「くうう、二人は温泉卵の魅力を知らないもんね。あの禁断の味を知ったらもう戻れなくなるんだから。定期的に温泉卵を摂取しないと幻覚幻聴被害妄想その他多くの症状が発症するように……」

「なんだその危ない薬物みたいな物騒なものは」

「逆に食べたくありませんよ」


 流石に冗談よ、と手を振るララ。

 二人は冷めた目でそんな彼女を見た。


「そこまで中毒症状がでるなら、今まで私が正常に生活できてるわけないじゃない」

「ララの行動が正常かどうかはともかく。温泉卵がそこまで危ないものじゃないのは大体分かるよ」

「なんで私の行動はさておかれるの!?」

「自分の胸に手を当てて考えな」


 和気藹々と会話に盛り上がっていると、部屋の奥のドアが開く。

 メリィかクッカかと思い三人が視線を向ける。


「おはよー、メリィ。……あれ?」


 ドアを開けた人物は、朗らかな声で言った後、三人と目が合ってきょとんとする。

 メリィと同じオーバーオールを着た、小太りの中年男性である。

 白髪交じりの髪に、口元に少し生やした髭が特徴的な、気の良さそうな男だ。


「あなたがエメンタールさん?」

「え? あ、ああ……」


 事情が掴めず、エメンタールは疑問符を浮かべながら頷く。

 ララは懐から白い便箋を出す。


「奥さんからお手紙、預かってるの」


 その言葉に、エメンタールは黒い目を見開いた。

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