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第五話「目指せ、凄腕爆炎魔法少女!」

 この世界は基本的に、太陽を中心として回っている。

 日の出と共に目を覚まし、太陽の下で活動し、日の入りと共に眠る。

 照明器具も乏しく、貴重な時代故のものだ。


 ――完全に真っ暗な部屋で寝るのは、何年ぶりだろう。


 穏やかな寝息を立てるイールの気配を感じつつ、薄いシーツのベッドの上でララは少し考える。

 母星で暮らしていたときは、昼夜などあってないようなものだった。

 暗くなれば町中の照明が光り輝き、空にまで届く。

 人々は疲れを知らず、夜通し繁華街を練り歩く。

 ナノマシンによって体調を管理されたララたちは、最低限の栄養さえ補給しておけば、一年以上不眠不休でパーティーすることだってできた。

 そんなことをすれば精神崩壊する可能性もあるので、実行する者などほとんどいなかったが。

 精神的疲労は、ナノマシンの適応範囲外なのである。


「『表示(ディスプレイ)』」


 漆黒の塗りつぶす部屋の中で、ララは小さく呟く。

 薄ぼんやりとした白い光が、彼女の網膜まで走る。

 投影されたのは、今日一日の記録。

 起動したナノマシンが、収集したあらゆる情報を分析し、蓄積しているのだ。

 それらは彼女の意識の外側で、全て自動的に行われる。

 総消費カロリーから、歩数、気温・湿度の推移、果ては瞬きの回数まで、あらゆる情報が膨大に蓄積されている。


「魔力、か……」


 ララが興味を抱いたのは、魔力という物質だった。

 ララの母星には存在しない、未知の元素。

 彼女はその性質に、とても驚いていた。


「使用者の意思に呼応して、様々な反応を見せる極微小な元素。――これって、ほとんどナノマシンよね」


 ララは生唾を飲み込む。

 部屋でイールが実演してくれたのは、簡単な照明魔法だと言う。

 彼女はイールが身体から魔力を移動させ、それを変化させて眩い光を放ったことに驚きを隠せないでいた。

 詠唱という、使用者の意思表示に反応して、規定通りの動きをする魔力。

 しかもイールの口ぶりからすると、その可能性はかなり広い。

 他者を傷つけるほどの魔法さえ存在するのだ。


「なんだか、アンバランスね」


 この星の文明は、ララの視点からすれば遙かに原始的なものだ。

 動物の力を借りて、凸凹とした何の舗装も無い土道の上を移動する。

 ララが文字を書けなくても受付嬢は何も疑問に思わない程度に、識字率も低い。


「ついでに、かなり不衛生だし」


 折れ線グラフで表示される、今日一日の病原菌抹殺数を見ながら、ララは苦笑した。

 ほとんど星全体がクリーンルームだった世界で生きていた彼女は、網膜に表示されたグラフを見て、久しぶりにナノマシンの自己防衛機構の存在を思い出したほどだ。


「魔力って、私も持ってるのかしら?」


 おもむろに手を天井に伸ばし、ララは疑問に思う。

 イールの説明では、魔力はいけとし生きる者全てに内在し、さらには大気中にさえ微かに分布している。

 ならば、ララの身体にも魔力は宿っているのだろうか。


「『身体検査フィジカル・イグザミネーション』」


 キーワードの発言と共に、ララの全身を光がくまなく舐めるように走る。

 刷毛の先で撫でられるような微妙にくすぐったい感触に、ララは少しだけ身をよじった。

 ものの数秒で、ナノマシンは細胞単位で調べ上げた彼女の情報を網膜に表示した。


「うーん、極々微量ね。多分、呼吸したときに肺に残留した分かな」


 結果は、彼女の身体には魔力が存在しないということだった。

 唯一あるとすれば、それは肺や気道に残留した微量のもののみ。

 半ば以上予知していた結果に、ララは別に驚く素振りは見せなかった。


「まあ、今のところ魔力よりもナノマシンの方が高性能だしいいや」


 いくら魔力がナノマシンの性質と似通っているとはいえ、あくまでそれは似ているというだけの話だ。

 魔力についてもナノマシンで分析をかけた結果、ララはそれについて『原始的なナノマシンの劣化品の模倣品』と位置づけた。

 耐久性や持続性、何より万能性において、魔力よりもナノマシンの方が優れていたのだ。

 うがった見方をするならば、魔力の発展系がナノマシンと言ってもいいだろう。


「でも、私も魔法使いみたいなことしてみたかったなー」


 幼少期にテレビで見た、不思議なステッキを持って妙に小憎たらしい妖精と共に悪の組織というアバウトな集団を単身で壊滅させる魔法使いの女の子に、ララも女子の端くれとして人並みには憧れを抱いていたのだ。

 ナノマシンは魔力の上位互換だが、後者の方が優れている点もある。

 それは、広範囲に影響を及ぼせることだ。

 そもそもの話として、ナノマシンは使用者を第一に考えている。

 そのため、ナノマシンが活動できるのは、『環境探査』のような特殊な例外を除くと基本的に半径十メートルくらいが限度だろう。

 反して、魔力は大気を含めてあらゆる場所に普遍的に存在する。

 技量さえあれば無限に影響を与えることが可能だろうと、ララは推測していた。


「応用したら、そのうち国一つくらい滅ぼせる規模の爆発とか起こせないかなぁ」


 世の魔法使いが聞いたならば卒倒しかねないようなことを考え、ララはクツクツと笑う。

 未だ魔力については未知の部分があり、ナノマシンのリソースの一部を割いて解析を進めている。

 それが進めば、ナノマシンによる魔力干渉も可能なのでは無いかとララは考えていた。


「目指せ、凄腕爆炎魔法少女!」


 ぎゅっと拳をつくり、心の中でおー! と鬨の声を上げる

 やはり、どれほど人の技術が発展しても魔法への憧憬というのは絶えないものなのである。


「ふぁ……。んぁー、眠たくなってきたな」


 不意に欠伸を漏らした。

 長い時を経た冷凍睡眠や、見知らぬ土地へ放り出された精神的負荷によって、知らず知らず疲れていたのかも知れない。

 久しぶりの暗い部屋で、本能が休眠という概念を思い出したのかも知れない。

 ともかく、だんだんと重たくなる瞼に、ララは抗おうとはせずに、ゆっくりと閉じた。


「『自己防衛(オートガード)』」


 一応、保険的な意味を込めて、ララはナノマシンを無防備な睡眠時の警戒に当たらせる。


「――おやすみなさい」


 そうして、彼女は深い眠りの海に沈んでいった。

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