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第350話「まだまだ道は長いわね」

 暗い地下水道の中を四本脚の魔導兵がカシャカシャと歩く。手にした武器はいつでも突き出せるように構えられ、円筒の先に嵌め込まれた頭が周囲を鋭く見渡している。それは警備を命じられた領域の内部に何者かが侵入したことで数百年ぶりの警戒態勢に入っていた。鼠一匹たりとも見逃さないと、一瞬の油断もなく目を光らせる。

 だが、それが狭い通路を通り抜けた直後。壁にぽっかりと開いた大きな穴の奥から人が飛び出した。長い赤髪を広げ、禍々しい右腕を突き出す。


「せいっ!」


 魔導兵が認識できない領域に潜んでいたイールが、背後から奇襲を仕掛ける。邪鬼の醜腕の人並外れた膂力を遺憾なく発揮し、その鋼鉄よりも硬い筐体に亀裂を走らせた。


「ちっ、流石にぶっ壊せないか」


 だが、イールは不満げだ。“邪鬼の醜腕”が最も良いタイミングで拳を突きつけたというのに、魔導兵の破壊には至らない。彼女は間髪入れず反撃を繰り出す相手を見て、すかさず後方へと飛び退いた。

 それと入れ替わるようにして闇の中から飛び出したのは、鋭い魔力の矢だ。それは魔導兵の障壁を容易く突き破り、円筒型の筐体に入った亀裂を広げる。更に立て続けに二の矢、三の矢が突き刺さり、魔導兵は動きをぎこちなくした。


「外装、剥がれたわね! それじゃあ遠慮なく!」


 イールの脇をすり抜けて、ララが飛び出す。彼女はロミが広げた亀裂の隙間からわずかに見える魔導兵の体内に向かって、小さく格納したハルバードを突き刺す。

 その先端が筐体の内部に入り込むと同時に、ハルバードを展開。強烈な力で傷を押し広げ、内部機構を破壊する。

 魔導兵は悲鳴のような甲高い音を響かせ、粉々に砕けた。


「よし、いい感じ!」

「くそう。あたしも剣が使えれば……」


 力を失くし、床に転がる魔導兵。それを拾ってララが飛び跳ねる。背後ではイールが悔しげに拳を握りしめていた。

 複雑な迷路のように入り組んだ地下水道では、狭すぎてイールも大剣を振り回すことができない。邪鬼の醜腕だけでは、魔導兵の動きを止めて突破口を開くのがせいぜいといったところだ。


「そのためにわたしがいるんですから。存分に頼ってくださいよ」


 壁の奥からひょっこりと顔を出したのは白杖を携えたロミである。

 イールが傷をつけ、ロミが広げる。そこにララがハルバードを捩じ込み、内部構造を破壊する。それが、三人が戦いの中で確立させた対魔導兵戦闘の連携だった。今の所その作戦はうまくいっており、彼女たちは順調に5機の魔導兵を破壊することに成功していた。


「とはいえ、まだまだ道は長いわね」

「そんなに大量に必要なのか?」

「町ひとつ賄えるだけの水を吸い上げるのよ。単純なサイズでもかなりの大きさになるもの」


 魔導兵の骸を抱え、ララたちはテントへと戻る。そこでは、レイスとヨッタが頭を突き合わせて議論を白熱させていた。

 彼らの手元にあるのは、ララたちが集めてきた魔導兵だ。二人はそれを分解し、そこに秘められた技術を解析しようとしていた。


「だから、ここの回路がこっちに繋がって――」

「でもそれならこの機構の意味が分からないんじゃないか? だったら、こっちの魔力波がここに干渉してるのが本来の設計通りと考えた方が」

「それだとこっちの説明が付かないって言ってるだろ!」


 専門家同士の議論は、門外漢にはさっぱり分からない。イールもロミも今ではすっかり興味を失い、「また元気にやってるなぁ」とでも言いたげな表情だ。

 ララは侃侃諤諤と言い合っている二人の前に、新たに持ってきた魔導兵の頭を置く。


「二人とも、お代わり持って来たわよ」

「おお! ありがとうララ!」

「また胴体部の損傷が激しいなぁ……」

「できるだけ傷つけずにしようとはしてるんだけどね」


 肩を落とすヨッタを見てララは思わず苦笑する。魔導兵の構造を知るには内部を極力残したおくべきだが、戦闘中にはそうも言っていられない。そんなわけで、ララたちが持ち帰る魔導兵は、二人の魔導技師にとっては多少不満の残るものとなっていた。


「グラフたちも順調かしら?」

「まあなんとかやってるよ。とりあえず落ちないように気を付けろとは言ってるけど」


 一仕事終えたララたちは、一度グラフたちの様子を見に行くことにした。テントを離れ、地下水路の中央にある“太陽の欠片”の元へ。そこではグラフたちが真剣な表情で様々な場所の寸法を測っていた。


「グラフ。調子はどう?」

「おお。とりあえず図面はできそうだ」


 彼らは太陽の欠片を動力源とする揚水設備の設置方法について計画を練っていた。ララが作るのは、あくまでエンジンの部分だ。それを用いて水を上げるための機構も必要となる。

 その設計で名乗りを挙げたのがグラフたちだった。


「材料の問題はあるが、組み立てるのは得意だからな。とりあえず、図面が描けたら見てくれよ」


 イライザが乗っ取る前、真っ当な研究組織としての〈錆びた歯車〉で活動していたグラフたちはこういった作業を得意としていた。グラフは四人の仲間と共に、計画を練り、不足している部分についてララに伝える。


「一番大きな問題は、ノズルをどうするかだな。今は“太陽の欠片”の力で強引に吸い上げてるが、多少出力が落ちるならそれに合わせたもんを作らないといけないだろう」

「流石にそこまで魔導兵の残骸で賄うってわけにもいかないしね。水路に何かないか見てみましょう」


 魔導兵が必要なのは動力部だけだ。しかし、水を汲み上げようとするとそれ以外の部分にも多くの材料を必要とする。都合のいいものがないか探すことを約束し、ララはグラフたちに引き続き作業を任せた。


「また出るのか?」


 テントで休んでいたイールとロミが立ち上がる。しかし二人とも長く続く緊張で疲労が滲んでいた。それを察したララは、二人には休んでいるように伝える。


「ちょっと探し物をしてくるわ。一人の方が楽だし、二人はここにいて」

「いいのか?」

「何かあったらサクラが飛んでくるから」


 渋い顔をするイールに手を振り、ララは単身水路へと向かう。闇の中へ溶けていく彼女を、仲間たちは心配そうに見送った。

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