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第346話「元気してた? 奇遇だね!」

 ロミの魔法によってくり抜かれた直線の道を、ララたちは駆け足で進む。その中には、拘束を解かれたグラフたちの姿もあった。丸い穴の中を進みながら、ララはヨッタの方へと目を向ける。


「それで、師匠っていうのはほんとなの?」

「ああ。間違いない」


 どこか緊張した様子でヨッタは頷く。そして、僅かに魔力を宿した石の飾りを握りしめた。


「これは、師匠が弟子に渡すものなんだ。師匠もおんなじものを持ってて、旅先で出会ってもお互いの素性が分かるようになってる」


 それは、砂漠を流浪するサディアス流一派のしきたりなのだと彼女は語った。

 広い砂漠のなか、定住地もなくオアシスからオアシスへと流れながら、行く先々で魔導具を作り、直して生計を立てていたのがサディアス流だ。師匠が弟子に渡す飾りには、一門の刻印と師匠の刻印が彫られた2種類の石が結ばれている。

 旅先で出会った魔導技師は、その刻印を見ることで流派と師匠を知ることができるのだ。


「しかし、それはサディアス流の魔導技師ならみんな持ってるんだろ? だったら、師匠かどうか分からないんじゃないか?」


 ララたちの後を追いかけながら、グラフが疑問を呈する。だがヨッタはそれに準備していたように即答した。


「砂漠で活動してるサディアス流の技師で、こんなところに来るのは師匠くらいだよ」


 そもそも、ここはディスロの心臓部とも言える地下水道だ。並大抵の魔導技師では、赤銅騎士団の目を盗んで立ち入り、あまつさえ内部を巡回する魔導兵をやり過ごすことなどできない。

 それほど腕の立つ魔導技師を、ヨッタはひとりしか知らなかった。その人物が自分と同じ飾りを持っているならば、それはほとんど確定と断じていい確率で師匠である。


「ヨッタの師匠って、あちこちふらふらしてる人なのよね」

「そうだよ。あたしやファイルを連れ回して技術と知識を教えた後、突然ふらっと居なくなった」


 恨みのこもった声で語るヨッタ。彼女は師匠の実力はともかく、性格についてはあまり好ましく思っていない様子だった。

 彼女がはるばるエストルからディスロまで出張してやっている魔道具修理の仕事も、元々は師匠に届いた依頼だったはずだ。


「クソ師匠。会ったら一発ぶん殴ってやる!」


 鼻息を荒くして気炎をあげるヨッタを見て、ララは少しだけ距離を取った。

 とはいえ、まだ本当に師匠だと確定したわけではない。グラフがその場しのぎに嘘をついた可能性もある。あくまで慎重に、と彼女がヨッタに忠告しようとしたその時、細長く薄暗かった道が終わる。


「わわっ!?」


 広い空間に飛び出した瞬間、鮮烈な光が網膜を焼く。ララは慌てて目を細め、後ろから続くイールたちを手で制した。

 果たして、ロミの魔法はまっすぐに地中を貫き地下水路の中心まで至っていた。そこへ到達したララは、思わず足を止める。


「これは……」


 縦横に広い円柱状の空間。ララはその周りを囲む通路に立っていた。等間隔で並ぶ柱の向こうに、眩い光を放つ巨大な光球が浮かんでいる。

 直径およそ10メートル。表面は絶えずゆらめき、火炎を帯びている。白と赤が入り混じり、時折黒い塵のようなものが浮かんでは消える。

 その姿はまさに――。


「“太陽の欠片”」


 天に座する偉大なる恒星。永遠に燃え盛る不滅の象徴。大地に光を振り撒き、生命の恵を与える、全ての母。

 太陽のそのままの姿が、地下に広がる大水道の中心にあった。


「これがそうなのか」


 穴から恐る恐る出てきたイールたちもそれを見上げて眩しそうに手で光を遮る。そうしなければ、直視すれば目が焼かれてしまうだろう。それほどまでに強烈な光と、そしてほのかな熱を放っている。

 ヨッタや、グラフたちまでもがその神々しい光に目を奪われていた。その時、不意に新たな声が響く。


「あれ、僕は誰も入らないようにって頼んだはずなんだけど」


 若い男の声。

 それが耳に届いた瞬間、ララたちは振り向く。

 柱の陰から現れたのはローブを身に纏った人だった。おそらくは青年、人間族だろう。しかし、目深に被ったフードによって、その顔は明らかではない。

 ララたちが行動を起こすよりも先んじて、ヨッタが前に出る。その眉間にはくっきりと皺が寄り、瑠璃色の瞳が真っ直ぐに男を睨みつけていた。


「こんなところで何してんだよ、師匠」

「おや」


 ぴくりと笹型の耳を震わせるヨッタの強い言葉に、男の動きが止まる。


「うわ、ヨッタじゃないか! 元気してた? 奇遇だね!」


 直後、男は歩速を速めてヨッタの元へと近づく。ララたちが間に割り込む前に、彼は勢いよくフードを取り払った。


「何を呑気なこと言ってんだよ、クソ師匠」


 ヨッタが更に苛立つ。

 フードの向こうから現れたのは、陽光に照らされて輝く銀髪。そして、顔の半分を隠す奇妙な仮面だった。

 結局明らかにならない男の素顔に、ララは思わずがっくりと肩を落とす。とはいえ、顔の輪郭などは露わになった。見たところ、かなり若い人間族の青年のようだった。とても弟子を複数抱えるような人物には思えない。

 口元はゆるい弧を描き、柔和な表情を見せている。全体的な印象としては、怪しさ八割と温和そうな性格が二割といったところだろうか。


「アンタが何しているのか知らないけど、あたしはこいつを直さないといけないんだ。邪魔しないでくれない?」


 ララが師匠と呼ばれた青年について分析している間に、ヨッタがぐいぐいと詰め寄る。しかし、強気な彼女に胸を押されても、青年は困ったように肩をすくめるだけだった。


「ごめんね。でも、僕もちょっとやるべきことがあってね」

「やるべきことって、なんだよ」


 疑念を帯びた目で睨むヨッタ。

 青年は彼女に対して、へにゃりと笑って答えた。


「この“太陽の欠片”を停止させるんだ」

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