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第345話「うん、なんでもないわ」

 教会から要注意団体としてマークされるほどの危険な組織〈錆びた歯車(ラスティギア)〉。グラフは己をその前首領の息子であると語った。それを聞いたララ達は驚き、疑う。そして、その真偽を確かめるため、ララが口を開いた。


「ていうことはつまり、イライザの息子?」


 彼女が口にした名前を聞いた瞬間、グラフが眉間に皺を寄せる。その険しい表情は、ララの言葉を強く否定していた。

 イライザはララ達の知る〈錆びた歯車〉の首領だった女だ。ララと戦い、捕縛された彼女は、キア・クルミナ教の監獄にいる。


「あの女の名前を知ってるってことは、あんたらもそれなりに詳しいみたいだな」

「それなりに因縁があるのよ」


 多くは語らないララに、グラフも肩をすくめるに留める。そうして、自身の身の上について語り出した。


「俺はその女が殺した男の息子だ。裏切って地位を奪った奴とは違って、正当に首領の座を継承した男だ」

「正統に、ねぇ」


 犯罪組織に正統も何もないのでは、とララは首を傾げる。しかし、一方でイライザが先代の首領を討ち倒して強引に組織のトップに躍り出たという話も聞き覚えがあった。そういえば、〈錆びた歯車〉という組織の性格が荒くれに傾いたのも、それがきっかけだったと聞く。


「今の〈錆びた歯車〉はただの荒くれだろ。親父の代までは、真っ当に遺失古代技術の研究をしてる組織だったんだ」

「へぇ。そうだったの」

「信じるかどうかはそっちに任せるよ」


 グラフや仲間たちの風貌はどこから見ても立派な荒くれ者である。地面に転がったままのナイフも物騒だ。ララの表情からその内心を察したグラフは、諦観の宿る顔で力無く笑った。


「この方のお話は、ある程度信頼しても良いかと」


 その時、静かに話を聞いていたロミが口を開く。


「レイラ様からも同じような話を聞いています。〈錆びた歯車〉は、砂漠を越えて辺境に入る前までは、古代文明研究者の集団であったと」

「巫女さんはまだ話が分かるみたいだな」

「私だって信じないとは言ってないじゃない」


 ロミが肯定したことで、グラフの言葉にも信憑性が出てきた。となれば、続く疑問はなぜそんな彼がここにいるのか、である。


「あなたはこの地下水道がディスロの下にあることは知らなかったの?」


 ララの問いにグラフは当然だと頷いた。


「親父を殺した奴らが住んでるところに近づくかよ。ただでさえ、面が割れてからはしつこく追われてるんだぞ」

「ああ、そういうこと……。血生臭い話ね」


 前首領の息子ということは、正統な後継ぎとなる可能性が高いということだ。そんな明け透けな反乱分子を残しておく必要はない。


「イライザたちは砂漠の外に出かけてるらしいが、それもいつ帰ってくるか分かったもんじゃない。こんなこったら、仕事も受けてなかったさ」

「ふんふん。……うん?」


 グラフの言葉に違和感を抱き、ララが首を傾げる。イールとロミも、同じようなことを思ったらしい。ぱちくりと瞬きする三人に、グラフたちも不穏な様子を感じ取ったようだった。


「どうかしたのか?」

「いや、えっと……」


 ララは答えあぐねる。

 〈錆びた歯車〉の存在は表沙汰にはされておらず、それが引き起こした事件に関してもレイラの主導する教会によって徹底的な隠蔽と情報封鎖が行われている。つまり、グラフ達はイライザとその腹心たちがすでにいないことを知らない。

 おそらく本拠地にしているディスロから辺境の内地へと向かったことは知っているのだろう。しかし、そこで何があって、彼女達がいまどうなっているのか、その情報を知らない。


「もしかして、街の残党たちも……?」

「知らない可能性があるな」


 ララがそっとイールに耳打ちすると、彼女も微妙な顔をして頷く。

 なぜ〈錆びた歯車〉の残党達が強気で町の古参たちと張り合っているのか、その後ろ盾となっている自信の正体に、ララたちはようやく気が付いた。


「ロミ、これって伝えてもいいの?」

「まだ皆さんの正体がはっきりしないので……。最悪、〈錆びた歯車〉と繋がっている可能性もありますし」


 ややこしいのは、ここまでグラフが語った言葉が嘘ではないにしても、ブラフを混ぜ込んでいるか、真実を全て話していないという可能性を捨てきれない点だ。前首領の息子であることが事実でも、現在町を我が物顔で歩いている〈錆びた歯車〉の残党たちと和解している可能性はある。


「うん、なんでもないわ」


 結局、ララたちはイライザの現状を伝えないことにした。そもそも、キア・クルミナ教内でも機密となっていることを、出会ったばかりの男に伝える必要もない。


「それより、私たちは水路の中心にある“太陽の欠片”を確認したいんだけど」

「それは困るな。俺たちは邪魔が入らないように頼まれてんだ」


 手足をしっかり縛られているにも関わらず、グラフは毅然と断る。ララもいちいち伺いを立てずに進めば良いのだが、すでに彼らのことをある程度悪しからず思っていた。


「……ねぇ、ちょっといい?」


 その時、ヨッタが口を開く。

 彼女はグラフの顔を見つめ、疑念と期待の綯い混ぜになった複雑な表情で尋ねた。


「あんたらの雇い主って、人間族か? こういう飾りをどっかに身に付けてなかったか?」


 彼女が懐から取り出したのは、鮮やかな色の石を糸で繋げた飾りだった。キラキラと光を反射するそれは、ほのかに魔力を宿している。

 それを見たグラフたちは一様に驚く。その反応を見て、ヨッタは確信を強めた。


「ララ、分かったよ。――こいつらの雇い主は、あたしの師匠だ」

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