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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第八章

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第337話「ヨッタ、何か知ってるの?」

 地下水道の中央に何かがある。そう考えたララたちは、一路走り出した。


「ええい、いくらでも出てきやがる!」

「落ち着いてください。わたしが足止めをします!」


 彼女たちの予想を裏付けるように、中心部へと近づくほど魔導兵の数も増えていく。イールが声を荒げながら大剣を振り回し、それでも抑えきれない勢いをロミが強力な魔法によって強引にねじ伏せる。

 イールとロミが互いに息を合わせて隙を補い合っている様子を見ながら、エネルギー不足で思うように動けないララは歯噛みしていた。20,000カロリーほど摂取すればすぐにでも加勢できるのに、今はそんな熱量を手に入れられるだけの食料がない。生きているだけでもジワジワとエネルギーが漸減している状況では、ハルバードを振るうこともできなかった。


「ララ、ヨッタを見ててくれ。そっちまで気が回せそうにない」

「それくらいは任せてちょうだい!」


 ガシャガシャと音を鳴らしてやってくる魔導兵は限りがない。イールの声に、ララも張り切って応える。


「大丈夫なのかよ? あたしだってちょっとは……」

「いいからドンと構えてなさい。サクラ、後ろの警戒は任せるわよ」


 狼狽えるヨッタにララは不敵に笑う。彼女はサクラと視界を共有し、全方位に警戒を広げる。たとえエネルギーが潤沢になかったとしても、彼女は非力なわけではない。


「一気に進むぞ!」


 イールが力を溜めて一息に走り出す。ララたちもそれに遅れないように追いかける。


「はああああっ!」

「“神聖なる光の女神アルメリダの名の下、爪の使徒トゼに希う。揺るぎなき正義の心を具現し、不壊の矢を放て”ッ!」


 イールが魔導兵を薙ぎ倒すのと同時に、ロミが渾身の魔法を解き放つ。杖の先端からまばゆい光と共に鋭利な矢が飛び出し、次々と魔導兵を貫き爆散させていく。一瞬、魔導兵に埋め尽くされていた地下水路に空白が生まれた。その好機を逃さず、身を捩じ込んでいく。


「ヨッタ、離れちゃダメよ。巻き込んじゃうから」


 背後から迫る魔導兵を睨みながら、ララはヨッタに警告する。そして、四本足の円柱が勢いよく飛びかかってきた瞬間に身を屈めて飛び出した。


「せいやぁ!」


 待機状態のハルバード――特殊合金のまっすぐな杖を突き出す。それは魔導兵の持つ槍と擦れ、高音を鳴らす。


「うわぁっ!?」


 ララは巧みに杖を動かし、魔導兵の滑らかに曲がる腕を絡め取る。そして、魔導兵自身の動きの勢いをそのまま活かし、強かに地面へ叩き落とした。

 目の前で地面にめり込む魔導兵を見て、ヨッタが悲鳴をあげる。力が出なかったのではないか、と重たい魔導兵を華麗に投げ飛ばしたララを見た。


「ふふん。合気は省エネなのよ」

「ど、どういうことだよ?」


 得意げに胸を張るララの言葉はほとんどヨッタには通じない。それでも、ララが今の状態でも自分より遥かに戦えることは理解できたようだった。彼女は大人しく荷物を抱え、邪魔にならないように後ろへ下がる。


「さあ、どんどん来なさい! ……とはちょっと言えないかな。一人ずつ順番に並んで来なさい!」

「調子のいいことを」


 銀の棒を構えて啖呵を切るララに、前方で魔導兵を叩き壊していたイールが苦笑する。しかし、彼女としても背後を気にしなくてよくなったのは精神的にとても助かっていた。


「あれれ?」


 複雑怪奇に折れ曲がる水路を進むなかで、不意にロミが首を傾げた。何やら怪訝な顔をして周囲を見渡している。魔法の支援が途絶えたことに驚いたイールが振り返り、声をかける。


「どうしたんだ、何かあったか?」

「少し気になることが。この壁の向こうから強い魔力を感じるんです」

「また魔力か」


 なんの変哲もないただの壁を指差すロミに、イールは少し辟易としながら肩を落とした。“邪鬼の醜腕”に体内の魔力を根こそぎ奪われ続けている彼女にはほとんど魔法の才と呼べるものがない。そのため、魔力を見るという魔法使いのテクニックもないのだ。


「ほんとだ。ララ、この奥がなんか怪しいよ」

「そうなの?」


 ダークエルフのヨッタも、壁から滲み出す違和感に気がついた。ロミとヨッタの注目を集めたということは、そこには何かがあるのだろう。


「ララ、今どの辺にいるんだ?」

「まだ中心からは程遠いわよ」


 現在地を完璧に把握できているララは、イールの問いにノータイムで答える。

 魔法陣の形を取る水道の中心に何かがあると睨んでいた四人からすれば、意外な展開だ。


「イールさん、やっちゃってください」

「いいのか?」

「壁を壊しても、大変なことにはならないと思いますし」


 ロミが壁を睨んでイールを促す。それを受けて、イールは再び右腕に力を込めて大剣を振りかぶった。


「せいっ!」


 勢いよく振り下ろされた大剣が、古びた壁を一息に破壊する。

 ガラガラと音を立てて崩れる壁の向こうには、それなりに広い空間があるようだった。


「“我が指先に標の火よ灯れ”」


 ララの目となって戦闘支援を行っているサクラに変わり、ロミが光球を生成して穴の中へと向かわせる。小さなボール型の光が照らし上げたのは、激しく動く巨大な鋼鉄の機械だった。


「なんだ、これは?」


 これまでのものとは趣を異にする存在に、イールが首を傾げる。これも地下水道を構成する魔導具のひとつなのだろうか。

 そう考えた矢先、イールの背後で愕然とした声が響く。


「なっ、これは……!」

「ヨッタ、何か知ってるの?」


 ララが魔導兵を投げ飛ばし、その躯体で即席のバリケードを作りながら尋ねる。

 怪訝な顔をする3人の視線を集めながら、ヨッタは目を見開いて信じられないと呟く。そして、ゆっくりと機械に近づき、その激しく振動する筐体に手で触れた。


「これ、サディアス流の魔導具だ」

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