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第334話「そんなに悲観的になるのは、まだ早いでしょう?」

「うわああああっ!?」


 突然ぱっかりと地面が開き、底の見えない大穴へと落ちていくララたち。ヨッタが悲鳴を上げ、涙の粒が浮かぶ。


「みんな、私に掴まって!」


 そんな中、ララが大声で叫ぶ。同時に隣を落ち続けているイールの腕を掴んだ。彼女もまたロミに手を伸ばし、ロミはヨッタの手を取る。四人は落下しながら互いの手を握り、円陣を組む。


「サクラ、下まで何メートル!?」

『残り300メートルほどかと!』

「距離と重力加速度から残りの落下時間を出して。3秒前に報告してちょうだい!」

『かしこまりました!』


 長く深い縦穴の壁面は滑らかで、取っ掛かりになりそうな突起もない。このままでは10秒もせずに底にぶつかり、熟れたトマトのように潰れてしまう。それはご遠慮願いたい。

 ララはサクラと情報を同期して、地面到達までの時間を睨む。


「ララ、大丈夫なのか!?」

「任せて!」


 イールたちも今回ばかりはどうすることもできない。ララに全てを託すほかなく、腹を括る。手を握る力が強くなる中、ララはカッと目を開く。


「『風壁(エアクッション)』ッ!」


 四人が硬い地面に激突するちょうど3秒前。ララとサクラが同時に圧縮された空気を直下に向かって解き放つ。勢いよく放出された空気が反発し、四人を包むクッションになる。


「ぐわっ!?」

「きゃああっ!?」


 クッションとはいえ、自由落下を受け止めるほどのものだ。地面に激突するよりはマシ程度の衝撃緩衝能力しかない。咄嗟にロミがヨッタを抱きしめる。

 瞬間的に落下速度を減衰させた四人は、再び落下して地面に強かに背中を打ちつけた。


「うぐぅ……」

「たたた……。だ、大丈夫ですか?」

「なんとかぁ」


 地面でうめく声がする。エネルギーのほとんどを一気に使ってしまったララは、よろよろと壁に背を預けながら、全員がひとまず生きていることに胸を撫で下ろした。


「ララのおかげで助かったよ。あれが無かったら、こうなってたらしい」

「え? ひええっ!?」


 イールが穴の底を見渡して言う。ロミはその言葉でようやく、足元に転がる大量の朽ちた人骨に気が付き、悲鳴をあげた。


「難攻不落の地下水道と言えど、侵入者が皆無だったわけじゃないらしい。いったい、何年前の奴らかは分からんけどな」


 ララたちが一命を取り留めたのは、下に積もっていた人骨が緩衝材の役割を果たしていたことも理由の一つのようだった。その事実を知ったロミとヨッタは青い顔をしているが。

 彼らもまた、あの扉を開けようとして失敗したのだろう。間違えれば深い穴の底に叩きつけられ、否応なく殺される。なんとか生き残ったとしても、救助は望めず、飢えと乾きに苦しみながら死を待つのだ。


「さて、こっからどうするかな……」


 イールは荷物を下ろし、ランタンに火をつける。

 穴の底はそれなりに広いが、どこかに繋がる通路は見当たらない。空気があるのが不幸中の幸いといったところだろう。魔導兵の影もなく、これ以上に罠が張られている様子もない。


「ちょっとだけ休ませてもらってもいいかしら」

「ララ?」


 力のない声にイールたちが振り返る。

 ララは壁に背を預け、だらんと四肢の力を抜いていた。


「おい、大丈夫なのか?」

「たぶんね。ちょっとエネルギーを使いすぎちゃって」


 四人分の体重を支えるだけの風壁を発生させるには、大量のエネルギーを必要とする。それを一気に放出したララは、自身の生命維持に必要な消費以外を封じて、回復に努めていた。


「ごはんが食べられたらいいんだけど」

「……しかたない。場所は良くないが、食事にするか」


 ララの様子を見て、骨折や出血はないと確認したイールはほっと息を吐きながら荷物を広げる。


「い、一応結界も張っておきましょうか」


 ロミもそう言って、白い塗料で魔法陣を描き始める。それにどれほどの意味があるのかは疑わしいが、精神的な支えになってくれることだろう。


「……ごめん、みんな」


 そんな中、ヨッタが震える声で呟く。手を止めて彼女の方へ目を向ける三人に、ヨッタは額を地面に擦り付けるようにして謝罪を繰り返した。


「ごめん! あたしのせいで、こんなところに……」


 彼女が、自分が解錠に失敗したせいで四人全員が穴の底に落ちてしまったと気に病んでいるのは明白だった。イールは困ったように頬を掻き、ララもどう言葉を掛けようか言いあぐねている。そんななか、ロミだけがそっとヨッタの元へと歩み寄って、彼女の頭を抱きしめた。


「あまり自分を責めないでください。ヨッタさんが悪いわけではありませんから」

「でも……!」


 下手な慰めは逆にヨッタを傷つける。

 しかし、ロミは彼女の髪を優しく撫でて、語りかけた。


「わたしも、イールさんもララさんも、多少の困難は覚悟の上です。一緒にここへ来た以上、責任を押し付け合うのは時間の無駄です。それよりも、ここから出ることを考えなければ」

「でも、ここから出る方法なんて」


 ヨッタは周囲を見渡す。

 そこには大量の人骨が堆く積み上がっている。四人の命を救った救世主だが、同時にこの先の未来を物語る証拠でもある。穴の底は隙間なく壁で囲まれ、どこかへ抜ける道はない。穴を登ることもできないだろう。


「そんなに悲観的になるのは、まだ早いでしょう?」


 しかし、ロミは希望を捨ててはいなかった。


「ヨッタさんはまだ知らないかもしれませんけど、わたしたち結構できるんですよ」


 彼女はそういって、ゆるりと笑うのだった。

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