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第333話「とりあえず、腕を切り落とせばいいのね!」

「『旋回槍(スピンショット)』ッ!」

「ひええっ!?」


 地下水路に突風が吹き抜ける。それは左右の横穴からわらわらと飛び出してきた魔導兵たちを纏めて吹き飛ばし、壁や天井に激突させる。全身が砕けて動けなくなった瓦礫の兵団を飛び越えながら、ララ達は一目散に走り続ける。


「ロミ、気をつけろよ。躓くと追いつかれるぞ」

「わ、分かってますよぉ」


 必死に足を動かす四人の背後に迫るのは、青い光を放つ大量の魔導兵たち。ララの旋回槍でもどうにもならないほどの数が大挙して押し寄せてくる。


「ええい、次から次へと!」

「まったく際限がないわね」


 イールが剣を振り回し、飛びかかってきた魔導兵を真っ二つに叩き折る。ララも次々と風の槍を突き込んでいくが、焼け石に水だ。

 四人が地下水道に侵入し、一体目の魔導兵を撃破した直後、水道のありとあらゆる穴から同じ顔をした魔導兵が押し寄せてきた。はじめはララとイールの二人でなんとか対処可能だったのだが、それもすぐに処理が追いつかなくなってしまい、逃げることとなったのだ。


「ロミ、ちゃんとヨッタを守ってちょうだいね」

「あたしだって戦えるよ!」

「お、お願いですから前に出ないでくださいぃ」


 イールとララが道を切り開き、ロミがヨッタを守りつつ進む。逃げる中で自然と役割が決まっていた。

 ヨッタは血気盛んに拳を振り上げるが、ロミがそれをなんとか抑える。アグラ砂漠を渡って魔導技師をしている彼女も一般人と比べれば屈強だろうが、旅をしながら幾度となく戦いを繰り広げてきたララ達の足元にも及ばない。ロミでさえ、腕力でヨッタを抑えつけることができるのだ。


「ヨッタは走りながら魔導兵の弱点を考えて」

「弱点って言われてもなぁ」


 冷静に道を選んでいる暇もない。ララは目の前の分岐で敵の少なそうな方を瞬時に選んでそちらへ進む。

 彼女達の背後に大量の魔導兵が追いかけているのは、彼らがなかなか倒せないという理由も大きかった。一体目の魔導兵こそイールが破壊し、ヨッタがバラバラに分解してしまったが、そうでもしなければ活動を停止しないほどにタフなのだ。

 ララとイールが必死になって道を切り開いても、彼女達が通りすぎた頃には復活し、追いかけてくる。そのおかげで、背後の追っ手はどんどんと数が膨れ上がってくる。

 頼みの綱となるのは魔導具に精通するヨッタだけだ。魔導兵を分解し、その内部を見た彼女ならば、それを止める術も分かるのではないかとララたちは藁にも縋る思いである。


「魔導兵の内部にある魔石を破壊したら動きは止まるんだけど……」

「その魔石がなかなか破壊できなから――困ってるんだろっ!」


 イールが剣を振り上げ、魔導兵を三体纏めて切り飛ばしながら言う。

 円柱が真っ二つに割れて細かな破片が散らばるが、その表面に浮かび上がる青い光は健在だ。なおも4本の腕を動かして、次々と武器を繰り出してくる。

 弱点をわざわざ露出させる馬鹿はいない。魔導兵もその例に漏れず、弱点となり得る心臓部である魔石は完璧に保護されていた。


「仕方ないわね……。『雷撃(ショックボルト)』ッ!」


 白い稲妻が放たれ、魔導兵へ次々と拡散していく。高圧の電流は魔導兵の機体に強い負荷を生じさせ、わずかな時間ではあるが動きを止めることができる。

 ララは魔導兵の動きが鈍っている間に、ハルバードでそれらを蹴散らして活路を開いた。


「まったく、出力最大でも動きを止めるだけとか、やになっちゃうわ」


 高圧電流を周囲に流す『雷撃』は、有効射程こそ短いものの、ララにとっては強力な切り札のひとつだ。実際、元々の脅威として想定されている強化義肢の悪漢などには絶大な威力を発揮する。要は、精密な電子機器を圧倒的なパワーで破壊するのだ。

 しかし、このファンタジーな世界では電気エネルギーがほとんど利用されていない。代わりに魔力という存在も眉唾物な謎エネルギーが席巻していて、魔導兵も魔力を動力源としている。そのため、いくら電流を流しても、多少動きが鈍くなる程度しか効果がなかった。

 ララが倒しても倒しても減らない敵にいい加減うんざりしていると、不意にロミが声を上げる。


「あっ! 見てください、扉があります!」


 彼女の指の指し示す先、通路の奥に頑丈そうな鉄の扉が見える。


「あそこに入ったら、しばらく時間が稼げるんじゃないでしょうか」

「そうかなぁ」

「しかし他に方法もなさそうだ。やってみるか」


 懐疑的なララに対して、イールは積極的な姿勢を見せる。彼女もいい加減疲れてきたのだ。

 波のように押し迫る魔導兵を蹴散らしながら、ララ達はドアへと近づく。マレスタが見送ってくれた、水路の入り口にも似た頑丈な鉄の扉だ。


「ロミ、開けるか?」

「ふぬぬっ! ――だめです、鍵が掛かってるみたいで」


 なんとか取っ手に辿り着いたロミだったが、何度か押したり引いたりを繰り返した後で肩を落とす。鉄扉は頑丈に固定され、彼女の力では全く動きそうになかった。


「ちょっと貸して!」


 暗い気持ちが立ち込める中、ヨッタが扉に取り付く。彼女は鉄扉の様子をつぶさに確認した後、荷物の中から工具を取り出す。そうして、カチャカチャと何やらいじり始めた。


「ヨッタ、どれくらい時間かかりそう?」

「5分で終わらせるよ」

「……5分も持つかね」


 ヨッタが鍵開けに集中している間、ララとイールも気合いを入れ直す。もはや逃げ道などない。ここで押しつぶされてしまえば、四人の冒険は早々に幕を下ろしてしまう。その選択肢だけは選べない。


「イール、行くわよ!」

「おうっ」


 ララとイールは息を合わせて飛び出す。軽く武器を振るだけで魔導兵が吹き飛んでいく。ナノマシンによって強化されたララの力と、邪気の醜腕を持つイールの力が、押し寄せる激流のような魔導兵を退ける。


「とりあえず、腕を切り落とせばいいのね!」


 魔導兵は4本の腕に槍と盾とナイフ2本を携えている。それらを切り落とせば、ある程度危険性が減ると判断し、イールは破壊よりもそちらを優先する。


「邪魔だ!」


 イールは左腕の力と頑丈な剣に物を言わせて、強引に魔導兵を叩き切る。その暴力的な戦法はシンプルながら強力だ。


「はぁあああっ!」


 彼女は腕に力を注ぎ、赤黒さを増し血管の浮き出たそれで石の兵士を粉砕する。飛んできた破片すらも弾丸のような勢いで、ララは流れ弾を受けないか冷や汗を流しながら戦っていた。


「ロミ、結界でなんとかできないの?」

「できてたらやってますよ!」


 魔導兵は魔力駆動ではあるが魔獣ではない。ロミの結界で退けられるものではない。

 そもそも、彼女のそれは地面に複雑な記号を書き連ねていくものだ。まとまった面積と時間を必要とするため、今のような状況には適さない。


「ヨッタ!」

「あともうちょっと!」


 四方八方から繰り出される槍を紙一重で避けながら、ララが叫ぶ。ヨッタは鍵穴から目を逸らすことなく叫び返す。

 ヨッタは多少荒事にも慣れているとはいえ、元々は一介の魔導技師に過ぎない。壊れた魔導具を修理することが生業で、客からの聞き取りには慣れていても、こんな激闘の真っ只中で死の気配を感じながら作業することは全くの未経験だ。

 だが、彼女は今までで一番深い集中状態に没入し、一度全ての状況を忘れる。

 彼女の意識には、目の前に立ち塞がる鉄扉しか存在していなかった。


「すごいや、これは……」


 魔導兵は彼女も見たことがないほど精緻に組み上げられた、精密魔導機器とでも言うべき代物だった。ヨッタが属する砂漠の流派、サディアス流の技術もふんだんに注ぎ込まれ、芸術的ですらあった。

 おそらく、この地下水路を作り上げたのは優秀な魔導技師だったのだろう。

 ヨッタは扉を封じる鍵からも、その気配を色濃く感じ取っていた。

 数百年もの間、侵入者を拒み続けてきた鉄の番人。その守りを解き進めるのは、快感ですらあった。

 自分の技術がどれだけ通用するのか、それだけを考える。

 そして――。


「やった」


 ガチャリ、と音がする。

 ヨッタの心が歓喜に打ち震える。古代の技術に打ち勝った。そう思った。

 しかし。


「ヨッタ!」

「――えっ?」


 目の前の扉は開かない。足元が頼りない。

 ララの切羽詰まった声が聞こえて、ヨッタは足元を見る。自分たちが今まで立っていた床がぱっかりと開き、暗い闇が真下に広がっている。彼女達は、重力に従って落ちていく。


「みんな掴まって!」


 落ちながら、ララが叫んだ。

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