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第三十三話「さぁ、ここからが科学の見せ所よ」

「はぁぁああああ! お姉さまお姉さまお姉さま! 会いたかったわ、お姉さま! 我が愛しのお姉さま! ああ、この香りこの感触この味全てがお姉さま! お姉さまがヤルダを旅立ってからというもの、私はずっとずっとずっとお姉さまと会えるのを心待ちにしておりましたのよ。今どこでなにをしてらっしゃるのか、ずっとずっとずっと心配しておりました。怪我などなされていませんか? 病気を患ってはいらっしゃいませんか? 生活に困っていたらなんでも私におっしゃってくださいね。全身全霊全力を持って解決に当たらせていただきますから! ああ、ああ、お姉さま! 美しい私のお姉さま!!」


 華麗な跳躍を見せた淡い赤髪の少女は、ひしとイールに抱き着くとくねくね身体をすり合わせる。

 纏った白衣の裾を揺らし、熱い吐息を洩らす。

 今日一番の衝撃的な状況に、ララたちはしばしの間思考が停止していた。


「て、ててて…テトル!? なんでお前がここに!!」

「テトルって……この子がイールの妹さん?」


 はっと正気を取り戻し、わなわなと肩を震わせて驚くイールにララが尋ねる。

 ツインテールで整えられた長い髪は、確かに赤いが濃い桃色とも表現できる淡い色だ。

 しかし琥珀色の瞳はイールと同じで、今はらんらんと輝かせて混乱している姉を捉えている。


「あら? お姉さま、そちらの方は?」


 ようやくイールの隣に立っていたララの存在に気が付いたのか、ぎゅっと抱擁を緩めることなくテトルは顔だけを彼女に向けた。


「こいつはララ。今、あたしと一緒に行動してるんだ」

「んな!? お姉さまが何処の馬の骨とも分からない方と!?」

「うーん、まあ……。成り行きでな」


 どう説明したものかと、イールは困ったように頬を掻く。

 彼女としても、ララとの出会いや共に行動するようになった経緯は説明しづらかった。

 そこで、ララが代わりに口を開く。


「初めまして、私はララ。路頭に迷って困っていたときに、イールに助けて貰ったのよ」

「ま、そういうことだ」


 助け船に乗って、イールは頷く。

 テトルは不思議そうにイールを見つめた後、ぷくりと頬を膨らませる。


「貴女、私のお姉さまに何かしてませんでしょうね?」

「そんなことするわけ無いじゃない……」


 若干呆れつつも、イールは誤解させないようにすぐに頷く。

 彼女の返答に、テトルはひとまず納得したようだった。


「私はテトル。まあ、もう知っているようですけれどね。ヤルダ評議会直属の古代遺失技術研究機関『壁の中の花園(シークレットガーデン)』の最高責任者ですわ」

「大体はレイラに聞いてるわ。よろしくね」


 ララとテトルは笑みを浮かべ、手を交わす。

 何故かテトルの握る力は強かったが、ララは特に気にしなかった。


「それで、なんでテトルがここにいるんだ?」


 本題に入るため、イールが切り出す。

 テトルは彼女の方へ振り向いて、得意げに指を立てた。


「それは当然、『錆びた歯車(ラスティ・ギア)』の保有している古代遺失技術の情報を調査するためですわ。危険を伴うので、一般の研究員には任せられないと判断して、私だけが『青き薔薇(ブルーローズ)』に随行してきたのです」

「『錆びた歯車』の保有してる情報ね……。『抗魔力空間アンチマジックフィールド』と魔導自律人形についての技術くらいかね」


 イールの言葉に、テトルは頷く。


「『錆びた歯車』は近年になって、リーダーが変わったようですわ。以前のリーダーは目立たず水面下での活動を方針としていましたが、それにイライザは不満を持っていたらしく、彼女は『抗魔力空間』の技術を確立させて反逆を起こしたそうですの」

「内部分裂か。どんな集団でもそういう話には事欠かないな」


 捕縛したイライザからは、多くの情報が得られたのだろう。

 テトルは満足げな表情を浮かべて『錆びた歯車(ラスティ・ギア)』の内情を語った。


「魔導自律人形は、古代遺失技術の正確な復元ではないようですわ。作成には莫大な費用と高度な技術、そして運用に多大なエネルギーを用いる上、ろくに制御もできないとか」

「神殿の保有するオリジナルの魔導自律人形とは随分とかけ離れてるわね」


 周囲にうずたかく積まれた鉄くずを眺め、ララが感想を述べる。

 二人もそれには同意するようで、何度か頷いた。


「うぅ……。頭がジンジンと……。あれ? なんでテトル様がこちらに?」


 部屋の隅で寝かされていたロミが、渋い表情を浮かべながらも目を覚ます。

 頭を押さえてやってきた彼女は、ララとイールに挟まれた少女に気が付いたようだった。


「『錆びた歯車(ラスティ・ギア)』の持っていた情報を回収しに来たみたいだ」

「ああ、そういうことでしたか」


 まだあまり思考が回らないのか、ロミは曖昧な返事をする。


「あっと、すみません。わたし、レイラ様に連絡しないと……」


 はっと思い出したように、彼女が手を打つ。

 事が終わった後、ヤルダで待つレイラに報告しなければならないらしかった。


「魔力は大丈夫なのか?」

「ええ。もうある程度は回復したみたいです」

「気をつけてね」

「はい。ありがとうございます」


 二人は、抗魔力空間の影響をもろに受けて一時は意識さえ失っていた彼女の体調を案じる。

 ロミはにへらと笑みを浮かべて手を振った。


「一応、隊員の一人を警護に当たらせるわ」

「ありがとうございます」


 テトルが周囲を警戒していた『青き薔薇』の隊員の一人に指示をする。

 そうしてロミは重い足取りで地上へと向かった。


「……ほんとに最高責任者なんだな」


 テトルの手慣れた様子に、イールは感心したように言う。

 今まで可愛い妹だとばかり思っていた彼女の、知らない一面を見つけた気がした。


「お姉さまが出発してそれほど間を置かず、『壁の中の花園』は設立されましたから。流石にもう慣れましたわ」


 何でも無いように、しかし少し頬を赤らめてテトルは言った。

 そんな彼女に、イールは素直な賞賛の言葉を掛けた。

 優しい彼女の手がテトルの赤髪を撫でる。


「いつまでも小さい妹だと思ってたが、改めないといけないな」

「うぇへへ……。ごほん。私はいつでも、いつまでも、お姉さまの妹ですからね」


 一瞬人に見せられないような表情を浮かべたがすぐに取り繕い、テトルは花のような笑顔になる。

 そんな彼女に、イールも頬を緩める。


「なんだかんだ言って、良い姉妹じゃない」


 仲睦まじい二人の様子を、ララは腰に手を当て一歩下がった所から見ていた。

 ふいに、彼女は人形の山に視線を移す。

 そっと二人を離れ、残骸に近づき、破片を手に取る。


「随分と原始的というか、稚拙な作りだけど、要はコレってロボットよね……」


 魔導自律人形は、つまるところ魔力で動くロボットなのだろう。

 どうやって抗魔力空間の中で稼働できるのかはララにはとんと見当もつかないが、ロボットという話なら、彼女の頭の中にある知識は役に立ちそうだった。


「まだちょっと特殊金属が残ってるのよねーっと」


 ララは腰のポーチから、小さな塊となった銀色の金属を取り出す。

 それをナノマシンを用いて加工していく。


「じゃーん、万能工具!」


 作られたのは、複雑な機構の絡まり合った道具だ。

 それ一つで何十もの工具となる、工作には便利な代物である。

 ララはそれを握って、スクラップの山を歩く。


「ふーんふーん。あ、コレ使えそうね」


 時折、めぼしい物を見つけては拾い、一カ所に集めていく。

 自律人形は外殻となる金属の装甲と、内部系統を構成するコードのような物体が主な部品だった。

 コードは中枢機能からの伝達を担う神経と、更には筋肉のような役割も果たしていた。

 ララはその中から使えそうな物を選んで、かき集める。


「これくらいあれば十分かしら?」


 そうして、彼女は丁度自律人形一体分ほどの材料を集める。

 満足げに汗を拭う彼女を、周囲で警備している『青き薔薇』の面々は珍妙な物を見るような視線で見ていた。

 イールたち姉妹もいつの間にか気が付いていたようで、不思議そうに首をかしげている。


「さぁ、ここからが科学の見せ所よ」


 袖を捲り、不敵な笑みを浮かべ、ララは万能工具を握りしめた。

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