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第329話「あなたはリグレスを信頼してるのね」

 ディスロを取り仕切る赤銅騎士団のリーダーは、凛々しい女性の騎士マレスタだった。事務仕事のため、鎧を脱ぎ動きやすい布の服を纏う彼女は、突然の来訪にも関わらずララたちを快く出迎える。


「はじめまして。あなた達のことはリグレスから聞いてるわ」


 彼女は薄く笑みを浮かべると、ララ達を椅子へ促す。


「ごめんなさいね。あまりもてなしはできないんだけど」

「大丈夫よ。むしろ突然押しかけちゃってごめんなさい」


 存外に柔らかな物腰を見せるマレスタを少し意外に思いながら、ララは急な来訪を詫びる。地下水道が止まっているような状況で、茶の一杯も出ないのかと憤慨するのは見当違いだろう。そもそも、ララもそんな歓待を受けるためにやって来たわけではない。


「要件は軽く聞いているけど、あなた達は地下水路に行きたいらしいわね」


 自らもテーブルを挟んで椅子に腰を下ろし、騎士団長は早速話題を切り開いた。


「そう。私はあるものを探してて、それを確認したいの。それに、もしかしたら地下水路の故障を直せるかもしれないし」


 ララは手短かにディスロを訪れた理由を話す。町の最高権力者に対して、下手に誤魔化したり虚言を吐いたりするのは逆に話を複雑にしてしまうだけだ。彼女は“太陽の欠片”と呼ばれる遺失古代技術がここに眠っている可能性があること、それと地下水路に何かしらの関連があるかもしれないことを伝える。

 マレスタは静かに耳を傾け、最後まで聴き通す。その上で、しばらくの沈黙の後、油断のない瞳を彼女に向けた。


「もし仮に、あなたの言う“太陽の欠片”が町の下にあったとしたら?」


 その問いはララも予想していたものだった。

 遺失古代技術“太陽の欠片”が実際にディスロにあるのだとすれば、十中八九それは地下水路に関連している。となれば、ララがそれを望んでもマレスタは渡すわけにはいかない。


「その時は、その時に考えるわ。ただ一つしっかりと言っておくのは、無理やり奪うつもりはないってこと」


 ララとしてもディスロ全体を敵に回して“太陽の欠片”を奪取したいわけではなかった。平和的に解決できるのならば、それを選ばない手はない。

 その点を強く明言するララを見て、マレスタが思わずといったように吹き出した。何か変なことを言ったかとララが目を瞬かせると、彼女はくつくつと笑いを抑えながら言う。


「ごめんなさい。――無理やり奪うつもりはい、ということは、奪おうと思えば奪えるってことなのね」

「うっ。それは……」


 鋭い指摘にララはたじろぐ。騎士団の頂点に立つだけあって、抜け目のない傑物だ。

 実際、ララが本気を出し、ナノマシンやサクラの力を全力で投入すれば、ディスロの町を陥落させることは容易いだろう。できないのとしないのとでは、意味が全く変わってくる。

 ちらりと両サイドに座るイールとロミへ目を向ければ、二人とも頭の痛そうな顔をしている。失言だったかとララは少し後悔する。

 しかし、暗雲の立ち込めるような空気とは裏腹に、マレスタは微笑を湛える。


「いいわ。あなた達に地下水路に入る許可を与えましょう」

「いいの!?」


 思わず驚くララに、マレスタは首肯する。


「地下水路に異常があり、我々ではそれに対処できないのは事実です。いくつかきな臭い話も上がってきていて、正直、猫の手も借りたいところなんですよ」

「やけに物分かりが良くて逆に怖いじゃないか」


 ニコニコと笑みを崩さない騎士団長にイールが口を開く。彼女の言葉でロミがさっと血相を変え、マレスタの背後に控えていた騎士達が眉間に皺を寄せるが、当の騎士団長は気分を害した様子もない。


「あなた方を拒絶することもできますが、そうしたところで事態は好転しませんから。それに、リグレスたちはあなた方を信頼しているようですし」


 彼女はそう言って目を動かす。視線の先に捉えたのは、直立不動で話を聞いていたリグレスだ。


「あなたはリグレスを信頼してるのね」

「騎士団の仲間ですからね」


 即答するマレスタに、リグレスの方が少し居心地が悪そうだった。

 やりとりを経て、ララ達もおおよそ騎士団長がどんな人物なのか理解した。悪党の町とも言われるディスロを治めるだけあって、なかなか見た目に似合わぬ豪胆さを持ち合わせている。


「それに……」


 マレスタはヨッタを見る。


「ヨッタさんには今まで何度も助けられています。今回も頼りにしていますよ」

「ええっ!? わ、わかった。任せてよ」


 突然話を向けられたヨッタは驚きながらも、魔導技師としてはっきりと頷く。

 彼女はこれまでも幾度となく遥々ディスロまでやって来て、町の住民たちを助けてきた。その功績は当然、マレスタの耳にも届いている。

 おそらく、そんなヨッタの存在が大きいのだろう。ララは彼女と出会えたことに改めて感謝する。彼女がいなければ、ここまでスムーズに話は進まなかったはずだ。


「それじゃあ、今から地下水路について説明しましょう」


 マレスタがさっと目つきを変える。その真剣な表情に、ララ達も居住まいを正す。

 騎士達が退室し、5人だけが残された。


「地下水路についてはリグレス達も知らないの?」

「機密に当たりますから。当然、皆さんも口外は厳禁ですよ」


 当然だろう。地下水路はディスロにとって明確なウィークポイントである。

 ララも覚悟を決め、マレスタに先を促す。

 騎士団長は口を開き、町を支える偉大な水路について語り始めた。

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