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第319話「思い出話で腹は膨れないからな」

 詰め所での一悶着はあったものの、ララたちも腹が減っている。リグレスたちの案内で街中に入った四人は、廃墟の立ち並ぶ通りを歩く。


「どれもボロボロね」

「しかたねぇ。こんな街まで来てくれる職人もいねぇし、俺たちがそんな技術を持ってるわけもねぇからな」


 ディスロは廃墟の町であった。しっかりと残る建物は少なく、今にも倒れそうな危うい壁をなんとか補強して誤魔化しながら使っているようだ。


「立派な家なんて建てても、三日で壊されらぁ。多少穴が空いてる方が風通しがいいくらいだろ」


 ペレなどは呑気にそう言って尻尾を揺らすほどである。

 街中を歩きながら、ララは物陰から密かに見つめてくる視線をいくつも感じていた。焦げるような日差しを避けて物陰に隠れているが、ディスロの民たちはすでに彼女を認識しているようだった。


「ヨッタはいつもどこに泊まってるの?」

「向こうのほうに宿があるんだよ。かなり高いけど、信頼できるところだよ」


 滅多に人の寄り付かないディスロだが、意外なことに宿泊施設はいくつかあるらしい。しかし、あまりに安い宿に泊まると翌朝には素っ裸で砂漠に放り出されてしまうのだとヨッタは笑う。


「金さえ払えば安心だよ。ララたちもアタシの所に泊まればいい」

「そうさせてもらおう」


 立て続けに財布を盗られたイールがしっかりと頷く。そんな彼女を見て、ペレが得意げに笑い、リグレスに拳を落とされていた。


「夜はあまり出歩かない方がいい。涼しくなるといろんな輩が起き出してくるからな」

「肝に銘じるわ。実際、用心するに越したことはなさそうだし」


 リグレスの忠告に、ララは周囲を見渡しながら同意する。物陰からの視線の中には、ララたちを値踏みするような、あまり良いものではないものも混ざっている。彼らも夜の闇が広がれば通りへ出てくるのだろう。


「何かあったら騎士団に助けを求めればいい。これを着けてる奴だ」


 ユーガが得意げに首元のプレートを見せる。赤銅で作られたそれが、町の治安を維持する騎士団の証であった。


「騎士団は信用できるのか?」

「あんまり信用しない方がいいぜ」

「ええ……」


 イールの問いに対するペレの答えに、ララは困惑する。


「騎士団を名乗ってるだけの奴も多いからな。ただまあ、ここまで来たってことはそれなりに腕が立つんだろ?」

「いざとなったら腕力で勝負しろってこと?」

「ウチじゃあそれが一番分かりやすいからな」


 そう言ってペレは笑う。

 ある意味では分かりやすい秩序である。ララもイールも、そこで負けるつもりはない。不安げに表情を曇らせるロミも、いざとなれば大抵の悪漢は制圧できるだけの力を持っているのだ。


「一番確かなのは、城まで来てもらうことだな。そこには本物の騎士団員しかいないから」

「お城ね」


 リグレスの視線の先、ディスロの中央に位置する所に巨大な廃城がある。崩れた尖塔や塀が物悲しい、廃墟の城である。


「あそこが騎士団の本拠地なの?」

「ああ。騎士団長もあそこにいる」


 リグレスは通りを抜け、門をくぐる。彼の後を追うララたちも、城を取り囲む壁の内へと足を踏み入れた。


「もともと、ディスロは要塞都市だったんだ。砂鯨っていうでかい魔獣を狩るための拠点で、人も多かったらしい」


 城に向けて進みながら、リグレスが往年のディスロについて語る。

 この町も最盛期と呼べるものがあった。その頃は活気に溢れ、子供も大路で遊んでいた。


「砂鯨?」

「ああ。砂漠を泳ぐ鯨さ。山よりもデカくて、皮も肉も骨も髭も捨てるところがない。それ一つで町が三つは潤うって言われるほどだったからな」

「へぇ」

「サディアス流の魔導具にも、砂鯨狩りのためのものがあったりするよ。今はもう、全然作られないけどね」


 ヨッタの言葉にララは首を傾げる。


「砂鯨はもう捕られてないの?」

「獲れねぇんだ。もう何十年も姿すら見られてない」


 物悲しげにリグレスが言う。

 かつて砂鯨狩りが隆盛を誇った時代。ディスロの黄金期とも呼べるその時代には暮らしも豊かだった。鯨を追い、銛で突き殺す。そうして一頭持ち帰れば、贅沢に浸ることができた。

 しかし、徐々に砂鯨は数を減らしていく。

 それで狩りを止めることはできず、むしろ減った稼ぎを補おうと苛烈になっていく。


「気がついたら消えてたって話だ。それを境に、ディスロはこんな町になっちまった」


 リグレスは代々この町で砂鯨狩りをしていた一族の生まれだと言った。彼自身は砂鯨を狩ったことも見たこともないが、祖父の代ではまだその営みも残っていた。


「こいつ、まだ砂鯨を探してるんだよ」


 ペレがリグレスの首に腕を回して言う。


「砂鯨かぁ。あたしも師匠とか爺さんたちから聞いたことしかないな」


 ヨッタもダークエルフとはいえ、十八歳の少女である。すでに廃れてしまった狩りについては伝聞でしか知らない。


「砂鯨ねぇ。確かに、それらしいのは見えなかったかな」


 道中の定期的な環境探査の結果を思い返し、ララは言う。モービルから放たれる強烈な環境探査の光であれば、地中もそれなりに深く透過できるはずだが、砂鯨と呼べそうなほど巨大な影は見つかっていない。


「ま、もう無くなっちまったもんだ。今更嘆いても仕方がねぇ」


 ユーガがそう言って快活に笑う。


「思い出話で腹は膨れないからな。そら、こっちだ」


 話をしているうちに、一向は城の入り口へと辿り着く。

 リグレスは話題を逸らすようにそう言って、城の中へと入って行った。

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