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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第七章【大祭と叡智の鏡】

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第二百九十八話「私も頑張るからね」

 大祭が終わる。

 興奮の残り火が夕日に混じる町並みを、ララたちは連れだって歩いていた。


「はー、楽しかった! トーナメントも見応えあったし、大満足ね!」

「結局二日過ごしたのか。露店も結構巡ったし、結構金も使ったな」


 頬を紅潮させ弾むような足取りで進むララを見て、イールが目を細める。


「まあまあ、臨時収入も入ったのでこれくらいは良いと思いますよ」

「ま、物資を買い足して出発の準備を調えればとんとんくらいには貰ったからな」


 ティムロータ様々だ、とイールは刑務所の方角を見やる。

 彼の貴族が投獄されていることを多くの市民は知らない。

 表向きには、病の療養のため隠遁していることになっているからだ。


「最後のティラの挨拶も良かったわね。祭りの最中に騒動があったなんて微塵も感じさせない、堂々とした姿だったわ」

「あれくらいの胆力がないと市長なんてのは務まらないのかねぇ」


 先ほど闘技場で行われた、閉幕の挨拶を思い出し、三人は頷く。

 ティラは連日寝る間も無いほどの忙殺されていたが、舞台の上で朗々と演説をこなしていた。

 その凜とした姿を見て、観客たちも万雷の拍手を送っていた。


「しかし、いいのか?」


 イールがララの顔を覗き込む。


「ほんとにティラに会わずに出発するのか。少しくらいなら話す間もあると思うが」


 その言葉に、ララはゆっくりと首を横に振る。


「いいのよ。きっとこれからもっと忙しくなるんだろうし、そっと消えるくらいが丁度いいの」

「そうは言っても、やっぱりティラさんが驚くと思いますよ?」


 ロミもイールと同じ側に立つようで、眉を顰める。

 彼女たちを見て、ララはいつものように悪戯っぽい瞳で笑った。


「いいのいいの。むしろばれないうちに出発しないと!」


 そう言って彼女は地面を蹴って走り出す。

 言葉の意味が分からず、イールとロミは互いに顔を見合わせて首をかしげ、その背中を追いかけた。




 プラティクスの外周をぐるりと囲む防壁に穿たれた、大きな門。

 絶えず人々の行き来するその中に、旅装を調えたララたちも紛れていた。

 大剣を佩く深紅の女と神官服の少女という取り合わせだけでも多少なりとも目を引くが、その先頭に立つまだ幼い顔立ちの少女の姿もよく目立つ。

 そんな三人が集まれば、嫌でも周囲の注目を集めてしまう。

 しかし、当の三人はそれを気にすることも無く、ゆうゆうと歩いて門を抜けようとしていた。

 その時のことだった。


「そこの三人! 止まりなさい!」


 長槍を携えた番兵の男が声を上げる。

 往来の目がざわざわと動き、やがてララたちの方向で落ち着く。


「え、私達?」


 驚いたようにララが自分の顔を指さす。

 番兵は何かの紙を持っており、それと彼女らを見比べて頷いた。


「傭兵のララとイール。それと武装神官のロミだな?」


 男の誰何に三人は揃って頷く。

 何も悪いことはしていない筈だが、なぜか緊張してしまう。

 道行く人々はすぐに興味を失って、また歩みを進める中、三人は門の側にある詰め所に連行された。


「こんにちは、ララさん」

「あっ」


 詰め所の扉を開けると、鈴のような声がかかる。

 見てみれば、奥の椅子に腰掛けるティラが微笑んで待ち構えていた。

 その背後には、あきれ顔のジェイクも立っている。


「なんで――」

「なんで呼ばれたか、分かりますよね」


 ララの声を遮って、ティラが言う。

 ララはばつの悪そうな顔で、目をそらした。

 巻き添えを喰らったイールとロミが、何をしたんだと目で責める。


「ちょっとだけティラの屋敷と刑務所の警備システムいじくっただけよ」

「あれがちょっとの域だというのですか!?」


 思わずティラが立ち上がる。

 イールとロミが感情の死んだ目でララを見た。


「け、けど良く気がついたわね。誰にも見つからなかったと思ったんだけど……」


 乾いた笑いを上げて話題を逸らそうとするララに、ティラが憮然とした表情を浮かべる。


「刑務所はともかく、屋敷のことは分かります。これでも一応、魔法術式に長けた家門の娘ですから」

「そっかぁ」


 それに、とティラが続ける。


「刑務所を出ようとしたジェイクが、ララさんの追加した術式に引っかかりました」

「えっ!?」


 ララが顔を上げる。

 ティラの後ろに控えていたジェイクは、呆れた表情で頷く。


「そのおかげで夜明けまで出られなかったんだ。トルトンがどうにか気付いてくれたお陰で助かったが、その後も原因の究明が忙しくて現場には駆けつけられなかった」


 そういえば、ジェイクはあの夜ティムロータの屋敷に姿が無かった。

 そんな理由だったのか、とイールたちがため息をつく。

 ララはぽりぽりと頬を掻き、申し訳ないと謝る。


「結果として穏便に収まったから、俺はいい。ティムロータを収容していても安心できるほど警備が強固になったのも、まあありがたいからな」

「だからジェイクも、今朝までそのことを私に報告しなかったんですよ。だからこうして瀬戸際で貴女方を待ち構える必要に迫られたわけですが」


 つーんと唇をとがらせティラが睨む。

 弁明の余地も無く、ララはしょんぼりと肩を落とした。


「でもまあ、ララさんのお陰で屋敷を襲撃されることもなくなるでしょう。なにせ、私でも改変されたことがかろうじて分かっただけ、というほど巧妙に隠されていましたから」

「そのあたりは抜かりないわ! あとはレコが数日後くらいに教える予定だったんだけどなぁ」

『ふふふ☆ アテが外れちゃったねー、ララちゃん!』


 レコの明るい声が響く。

 彼女の本体であるキューブは、ララの背負うリュックの中に収まっていた。


「置き土産作戦は失敗しちゃったわね」


 心底残念そうにララが言う。

 それを取り囲む人々は、全員が大きくため息をつくのだった。


「それよりも、私はララさんたちが何も言わずに去られることに驚いているんですよ」


 すねたような顔でティラがいう。


「ええ、でも、ティラは忙しそうだったし……」

「それでも、人としての礼儀は弁えなければなりません。恩人である貴女方に惜別の言葉を送らずして、市長などできませんよ」

「そういうものかなぁ?」


 首を捻るララ。

 その背後で、そらみろとイールが勝ち誇った顔をしていた。

 ティラはつかつかと歩み寄ると、ララの手を取る。


「ララさん、貴女は自身の影響力を少々甘く見ている節があります。貴女のお陰で私達は、ひいてはこの町が救われたのです。もうすこし、その自覚を持ってくださらないと」

「そうは言われても――」


 なおも言い淀むララ。

 ティラは何度目かも分からないため息の後、彼女の手に小さな銀色を握らせる。


「これは……?」


 それを見て、ララが首をかしげる。

 ペンと剣の交差する紋様の彫られた、小さなペンダントだった。


「プラティクス家の紋を入れたペンダントです。辺境内であれば、それなりの効果を持つと思います」

「いっ!? いいの?」


 驚いたのはララだけでは無かった。

 イールもロミも目を丸くして、ジェイクが額に手を当てている。

 ティラの家紋の彫られたペンダントを送られるということは、彼女の家がララたちの後ろ盾となってその信用を保証することに他ならない。


「今の私にできるのは、それを渡すこと。そしてそれが効力を持ち続けるよう邁進することだけです」


 返却は受け付けません。とティラは毅然とした態度で言う。

 眉を下げ困り顔になるララだったが、最後にはそれを受け取って大切に懐に収めた。


「……ありがとう。無くさないようにするわ」

「その上で、使うべき時に使って頂ければ嬉しいです」


 それもそうね、とララがはにかむ。


「それに、すぐに使うと思います」


 ティラが続けた言葉。

 三人が首をかしげる。


「私の家もずっと、叡智の鏡――レコさんに類似した物がないか密かに探していたのです。そして、それらしいものを一つ見つけています」


 ララが驚く。

 ようやく彼女の態度を崩せた、とティラがしたり顔で微笑んだ。

 イールが懐から地図を出す。

 レイラの地図と、オビロンの地図。二つの重なり合う地点はプラティクスだけではない。


「所在は、アグラ砂漠。そのオアシスに栄える町、ディスロです。そこに太陽の欠片と呼ばれるものがあります」

「太陽の、欠片」


 イールが地図に目を落とす。

 確かに、その地名に二つの点が重なっていた。


「恐らくは、そこにララさんの探している物もあるのでしょう」

「……どうしてティラの家は、それを確保しなかったの?」


 ララが問いかけると、ティラは難しい表情を浮かべた。


「アグラ砂漠は過酷な地域です。昼は酷暑が、夜は酷寒が襲います。その上、太陽の欠片はとある組織が厳重に守っているのです」

「とある組織、ねぇ」


 胡乱な目つきになるララの脳裏には、すでにある名前が浮かんでいた。


「まあ、十中八九『錆びた歯車(ラスティ・ギア)』の残党なんだろうなぁ」


 少し達観した表情でイールが言葉を継ぐ。

 かつてララたちが幾度となく戦い、首領イライザも捕縛した組織。

 しかしその残党は根強く残り、時には神殿の内部をも侵していた。


「アグラ砂漠は、『錆びた歯車』の本拠地なんでしょうか?」

「あくまで辺境における、ということになりますが」


 頂点が不在の今、彼の組織の実体は掴めない。

 けれども、そこにララの探す物があるのだとすれば、赴かない訳にはいかなかった。


「それじゃ、次の目的地は決まったな?」


 イールが言う。

 ララは頷いて口を開いた。


「ありがとう、ティラ。私達はそこに向かうことにするわ」

「……お気を付けて。今は彼の組織も静かですが、その内部は分かりません。古代遺失文明の遺産も、いくつか保有していることでしょう」

「大丈夫。私も頑張るからね」


 物憂げな表情を浮かべるティラを安心させるように、ララが彼女の肩を叩く。

 そうして、三人は詰め所を出る。

 彼女たちの姿が見えなくなるまで、若い市長はその背中を見送った。

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