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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第七章【大祭と叡智の鏡】

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第二百九十六話「あれ、ティムロータ?」

 結果だけを言うならば、【緋色の賢者】の爆撃は功を奏した。

 両者の睨み合いに発展し、膠着状態が続く前に、敵側を奇襲という形で強引に戦況を推し進めることが出来たからだ。

 更にその混乱に乗じてティムロータ邸の裏手に回っていた隠密部隊が突入を果たし、大幅に戦力を削ぐことに成功する。

 強制的に事態を動かされ、ティラも立ち上がらざるを得なかった。


「【黒鉄】さんは殿をお願いします。【剣聖】さんは正面扉から突破を図ってください。塀を乗り越える方々は【百魔の銀狼】さんに続いてください!」


 彼女は転がるように建物の影から現れ、館を一直線に睨み上げる。

 一つの大都市の頂点に立つだけの実力はある。

 雄叫びを上げ士気を高める兵や傭兵たちに指示を施し、場の支配を迅速に進めていた。


「私達は護衛ということでいいのかしら?」

「そうだな。突入戦力は十分足りてそうだ」


 そんなティラの周囲に立ち、ララたちが彼女を守る。

 ティムロータ側の兵士たちは突然の強襲に混乱しており、まともな統率すら取れていない。

 まるで水をかけられた蟻の群れのようだとララが率直な感想を抱くほどには、客観的に見ても哀れな光景である。


「これ、護衛必要?」

「一応いないと困りますよ。飛び道具が来ないとも限らないです、しっ!」


 いまいちやる気の出ないララを諫めるロミ。

 彼女は言葉の途中で杖を構えて瞬時に術式を展開する。

 直後、鋭い鉄の鏃の付いた矢が飛来する。

 一直線にティラを狙うそれを、ロミが展開した障壁が阻む。


「い、言った側から!」

「確かに油断してると駄目みたいね」


 危なかった、と肝を冷やすロミ。

 ララも流石に気持ちを入れ替え、目つきを変える。

 彼女は矢の飛来した方角を見て、射手を探し、


「あそこね。『旋回槍(スピンショット)』!」


 ヴン、と大気が震え燃えさかる焔に穴を穿つ。

 不可視の槍が一直線に館から迫り出したバルコニーに到達して破壊する。

 数人の弓兵が地に落ちるのが瓦礫の間から見えた。


「相変わらず冗談みたいな攻撃だな」


 それを見て思わずイールが言う。

 目に見えない、凶悪な破壊力を伴う素早い一撃である。

 もし同等のものを再現しようと思うなら、熟練した風魔法の使い手でなければならない。

 そんな高等魔法に匹敵する一撃を、この小さな少女は片手間に放ってしまうのだ。


「さて、あたしは切り込みの方に参加してくるかな」

「ええ……。護衛のお仕事はいいの?」


 コキコキと肩を鳴らしてやる気を見せるイール。


「どうせ敵を倒すのには変わらないんだ。攻撃は最大の防御って奴さ」


 などとしたり顔で嘯く。

 ララが呆れた顔をする横で、ティラが頷いた。


「よろしくお願いします。名だたる二つ名持ちの皆さんが集結しているとはいえ、ティムロータの私兵の練度も目を見張る物がありますから」

「はいよ。まあ、任せときな」


 にっと笑うイール。

 彼女は肉厚の剣を鞘から引き抜くと、燃え盛る館へと雄叫びを上げて突入していった。


「こちらの兵士にも負傷者が出始めましたね」


 戦況を俯瞰していたティラが言う。

 市長暗殺を企てるだけあって、ティムロータの私兵は優秀なようだった。

 完璧な奇襲が――両者にとって不本意だったとはいえ――決まったにもかかわらず、既に最前線の兵士までもが冷静さを取り戻し、指揮系統も安定しつつある。

 そうなれば、玉石混淆な傭兵とティラの私兵が混在するこちら側にも負傷者が現れてくるのも必然であった。


「救護班は負傷者を回収して安全圏まで運んでください。神官の治療が受けられるように手配しています」


 傍らに立っていた伝令に伝える。

 すぐさま命令は巡り、負傷者は軽装の男達によって担架に乗せられて後ろへと運ばれていく。


「キア・クルミナの神官が協力してくれるのは心強いですね」


 後方の安全圏に控えていた、ロミと同じ神官服を纏った男女が負傷者を受け入れる。

 彼らが何事かを唱え、手を添えると柔らかな光が放たれ、傷が徐々に癒えていく。


「神官にとって治癒魔法は必須の技能ですからね。わたしもある程度ならできますよ」


 ロミがまるで自分の事のように胸を張る。

 各地に置かれている神殿は、往々にして診療所も兼ねていることが多く、神官のほぼ全てが治癒魔法を扱うことが出来た。


「治癒魔法って、死者の蘇生とかもできたり! するの? 『旋回槍』!」


 時折飛んでくる矢を手掴みで防ぎ、お返しに風の槍を飛ばしながら、まるで世間話でもするようにララが言う。


「冗談みたいな魔力と何百年と修行した術者がいればできるかもしれないですね。死者蘇生ができるらしい、と言われていたりいなかったりする長ったらしい術式を一度見たことがあります」


 可能性は限りなく低いが、ゼロというわけではないらしい。

 流石はファンタジーね、とララが少し興奮して目を光らせる。


「エルダーエルフとか、それくらい長命な種族じゃないとできないんじゃないでしょうか。とりあえず人間には逆立ちしたって無理ですね」


 ロミはロミで、周囲の軽傷者を治癒しながら話している。

 武術も求められる武装神官の地位を魔法の実力だけで勝ち取っただけあって、彼女の治癒魔法の腕は頭一つ抜けている。

 あっという間に矢で貫かれた傷が埋まって、兵士が目を丸くしていた。


「……なんだか、とても緊張感がありませんね」


 そんな二人の会話を聞きながら、ティラが眉を下げた。


「おお……!」「どうした?」「あそこ」


 にわかに戦場に声が上がる。

 困惑したような、驚いたような声にティラが周囲を見渡す。


「あ、あそこ!」


 いち早く見つけたのはララだった。

 彼女がまっすぐに指さすその先に、ティムロータ邸のバルコニーがある。

 そこに二つの人影が現れた。


「あれは!?」


 一人は、禿頭の男。

 煌びやかで重そうな衣装を纏った、小太りの男だが、その顔には恐怖が張り付いている。

 その隣に立つのは、長い炎髪の女。

 竜を思わせる鱗に覆われた右手に剣を持ち、男の喉元に突きつけている。


「イールさん!? もうあんなところまで突破したのですか」


 信じられない、とティラが声を震わせる。


「あれ、ティムロータ?」


 ララが問うと、彼女は呆気にとられながら頷いた。

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