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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第七章【大祭と叡智の鏡】

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第二百九十四話「こちらにも考えがあります」

『どしたのララちゃん☆ 久しぶりだっていうのに元気なさそうだよー?』


 ほの暗い部屋に似つかわしくない、底抜けに明るい声が反響する。

 ロミ、ティラが揃って目を丸くするその先で、半透明のキューブがぼんやりと光を放っている。

 その上部に浮かび上がる半透明の人型は、コミカルな動きでララの方を見た。


「なんでそれを残したかなぁ……。もっと理知的な感じの奴とか、クールビューティーな奴とかあったでしょうに」


 力が入らない様子でララが言う。

 虚空に浮かび上がったホログラムの少女はこてんと首をかしげる。

 白いシンプルなワンピース姿の女の子だ。髪は腰まで伸ばし、大きな瞳をくりりと輝かせる。


「あの、ララさん……」


 これは一体、とロミが尋ねる。

 ララは操作端末に体重を預け、少し考えあぐねる。


「私の個人端末情報収集保管庫。図書館とか、情報庫とかいろんな名前で呼んでるけど、本人は」

『はぁーい☆ レコちゃんでーす!』

「と、いつの間にか名前みたいなのを自分で付けてた。多分レコードのレコだと思うけど……」


 両手の人差し指で頬を指し、腰を折って満面の笑みを浮かべるレコを、ララは仕方なさそうに見た。


「まさか、叡智の鏡がこのような方だったとは……」


 二人の側で、ティラが声を上げる。

 ララははっとして彼女を見た。

 長い間、この町と彼女の家門を支え続けてきた重要な存在が、このような軽薄なキャラクターだというのは予想だにしていなかっただろう。

 常に鏡越しで、それも簡素な言葉しか交わしていなかったのでは、考え至るはずもない。


「ティラ、ごめんね。ほんと、もっと落ち着いた人格もあった筈なんだけど――」

「素敵です! もっと早く、お会いしたかったです!」

「……ええ」


 キラキラと目を輝かせるティラ。

 ララを素通りしてレコを映し出すキューブに近づく彼女の白い頬が上気している。

 予想と異なる彼女の反応に、ララが呆気にとられている間にも、ティラはレコの方へと手を伸ばし、実体のない姿に首をかしげていた。


『こんばんは、ティラちゃん☆ この姿で会うのは初めてだねー☆ でもでも、貯蔵してたエネルギー残量が心許なかったから、仕方なかったの! ごめんね☆』

「構いません。こうして姿を見られただけでもとても嬉しいですから」


 キャピキャピと楽しげに声を弾ませるレコと、そんな彼女に興奮するティラ。

 ララとロミは一転して置いて行かれたような疎外感を覚えた。


「あー、こほん」


 存在を忘れられていまいかとララが空咳をする。


「それで、レコ。とりあえず今は手伝って貰いたいことがあるんだけれど」

『りょーかい☆ なんでも言っちゃってー! 久しぶりのお仕事、張り切ってやっちゃうぞ☆』


 ぴしり! と勢いよく額に手を当てて敬礼のポーズを取るレコ。

 ララはそれに反応せず、簡潔に指示を伝えた。


「まず、サクラが作ったモジュールがあるからそれをインストールして展開、データベースに統合して頂戴。その後広域精密環境探査をしてこの町をくまなく調べて頂戴」

『ほいほーい☆ お安いご用! と言いたいところだけど、ちょっちエネルギーが足りないかもー』


 困った様子で眉を下げるレコ。

 それもそうか、とララは手を打つ。

 彼女の船から分離し、この地に落ちてから何百年とも知れない悠久の時間、周囲の情報を集めながらも待機していたのだ。

 仮想人格を放棄し、あらゆる機能を厳しく取捨選択して節約をしていたとしても、これだけの時間を経ていれば底も見えているのだろう。

 ララは腰に吊った小型のブルーブラストエンジンを操作端末の上に置く。

 レコは歓喜の声を上げると、早速端末の中へとそれを取り込んだ。


『おほー☆ 美味しい美味しいエネルギーだよ! 充填中! 充填完了! モジュール展開☆ データ統合☆ 参照開始☆ 精密環境探査用リフレクトパネルとレーダー、アンテナ展開☆ 第一段階解除☆』


 ぎぎぎ、と部屋全体が軋み始める。

 ロミが頭を振って怯える中、レコは更にテンションを上げていく。


『地下ケーブル励起☆ ブルーブラスト挿入☆ 探査用ナノマシン起動☆ 展開☆』


 軋音は大きくなり、甲高い音が混じり始める。

 レコのテンションは最高潮に達し、ホログラムは激しく踊り出す。


『――広域精密環境探査、実行☆』


 地下深くにいた三人は確認することが出来なかったが、真夜中に目を覚ましていた数少ない町民たちが見ていた。

 竜闘祭の熱に浮かされた町を駆け巡る、迅雷のような白い光を。

 それは一瞬にしてプラティクスの町全体を覆い尽くし、闇を塗りつぶす。

 そして、目の当たりにした人々が驚きの声を上げるよりも先に、その姿を消す。

 一瞬の閃光。

 人々はそれが夢か現かも判断できない。

 たったそれだけの光が、町の全てを洗い上げる。


「収集したデータを整理して、重要度の高い順にソート。低レベルのものは捨てても構わないから、処理速度を優先して」

『はいはーい! ――粗方かんりょーしたよ☆』

「それじゃ、検索するわね。今夜の襲撃、けしかけたのは誰?」


 簡潔だが難しい問いだった。

 しかし、彼女は平然と、間髪入れずに答える。


『ティムロータって人だねー☆』


 ララがティラの方を向く。


「聞き覚えは?」

「評議会の一人です」

「反乱を起こす可能性はあった?」

「……一応」


 少し眉を顰めてティラが言う。

 彼女が言うからには、以前からその予兆はあったのだろう。

 念を入れて、ララはレコに質問を重ねる。


「ティムロータが黒幕だという根拠は?」

『襲撃者全員がティムロータとのつながりがある上に、それが表向きにはないことになってるからかなー☆ あと、ティムロータの館が今も活発な活動状態にあるし、警備態勢がかなり強固だと判断したよ☆』

「……黒でしょうね」


 ティラが言う。

 彼女もまた、叡智の鏡としてのレコの言葉には信頼を寄せていた。


「それじゃあそのティムロータ邸に襲撃を掛けましょうか」

『うーん、ちょっと考えた方が良いかも? 今のティラちゃんの保有する戦力だと負ける可能性も無きにしも非ずって感じ☆』


 唇をとがらせ忠告するレコ。

 サクラに勝るとも劣らない高度なAIによる判断だった。


「それなら、こちらにも考えがあります」


 そんな彼女の顔を覗き込んで微笑んだのは、ティラだった。

 彼女は先ほどまでの幼い少女の顔をしていなかった。

 怜悧な瞳に浮かぶのは、どこまでもリアリストで冷徹な光。

 彼女は氷のような笑みを浮かべていた。


「ギルドに連絡を入れます。トルトンにも。――今の時期、祭りの最中だからと狙ったのでしょうが少し考えが足りませんよね」


 うふふ。と妖艶な笑顔。


「もしかして、ティラさん……」


 彼女の考えを察して、ロミが戦慄する。


「今の時期、プラティクスには辺境最大の戦力が集まっているんですもの」

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