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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第七章【大祭と叡智の鏡】

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第二百九十一話「お待ちしていましたよ、ララさん」

 人気の無い闇の中を一人の少女が疾駆する。

 音も立てず、銀色の柔らかな毛並みを夜風にたなびかせ、静かに降り注ぐ月の光の間を縫って。

 目指すのはただ一点。

 この町の最も重要な場所とも言っても良い、瀟洒な館。

 ――つい数刻前に謎の集団によって襲撃された、市長の館。


「さて、ロミは起きてるかしら」


 ララは石畳の上を滑るように走りながら胸元の首飾りを叩く。

 数秒して、音声が返ってきた。


『はい。なんでしょうか?』


 垢抜けた声。

 非常事態とは思えないほど、いつも通りの柔らかな口調だった。

 ララは少し困ったように眉を寄せて口を開く。


「近くにティラはいるかしら?」


 長い髪が布に擦れる音がする。

 ロミが周囲を見渡したようだった。


『はい。テーブルに向かって書類の束と戦われてますね』


 こんな事態でも、むしろこんな事態だから、だろうか。

 ティラは執務室で市長としての仕事に邁進しているらしい。


「それじゃあティラに伝えてちょうだい。今から行くから準備しておいてって」

『へ!? じゅ、準備ですか?』


 突飛な台詞にロミが驚く様子が声を聞くだけで分かった。

 ララは頷き、「それだけ言えば分かるわ」と念を押す。

 ロミもそういうことならと了承する。

 首飾りの通信が切れ、静寂が戻る。


「さて、急ぎましょう。――襲撃者達の口がそこそこに堅ければいいんだけれど」


 妖しい笑みを唇の隙間に覗かせて、ララは視線の先にそびえる背の高い塀を見上げる。

 足下には重装の兵士達が屹立し、厳重な警備網を敷いている。

 ララはナノマシンにコマンドを送る。

 殺傷能力は限りなく低く、音も抑え、密やかに意識だけを刈り取るために。


「――『雷撃(ショックボルト)』」


 パヂッ、と乾いた音が弾ける。

 その音が鼓膜を揺らすよりも早く、鉄の塊を着込んでいた兵士達は道ばたに倒れ込む。

 目撃者のいない、一瞬の鮮やかな一撃だった。


「鎧を着てくれてて良かったわ。革とか布とかだともうちょっと強めにしなきゃいけなかったし」


 頭から倒れ込んだ男達を、せめてもの慰めとして塀の側に寝かしつけ、ララは小さく息を吐く。

 塀の上を見定める。

 魔法的な障壁も、刑務所ほどとは言わないが厳重かつ複雑なものが仕掛けられている。

 しかし先ほどとは違い、彼女の表情には幾分かの余裕がうかがえた。


「大体のシステムは同じみたいね。作った人が同じなのかな」


 そんな事を言いながら、彼女は塀に指先で触れる。

 静電気が弾けるような音と共に、障壁が崩れ去る。

 同時にダミーの魔法術式が展開され、障壁が消えたことも察知されない。


「なんか、私が侵入者ね」


 ぼやきつつ、軽く跳躍する。

 自分の身長の何倍もある塀を軽々と飛び越えて、彼女は市長の屋敷の庭園に足を踏み入れた。


「うーん、流石に見張りが多すぎるか」


 木陰から庭園を見渡し、嘆息する。

 美しく隅々まで手入れの施された闇夜の庭園には、至る所に魔法の光球が浮かび周囲を照らしている。

 無数の兵士達が闊歩して、とてもではないが雷撃で全てを一度に斃す事は不可能だった。

 ララは顎に指を添え逡巡する。

 できうる限り安穏に、平和的に、秘密裏に。

 誰にも気付かれることなくティラの元へとたどり着かねばならない。


「光学迷彩が使えたら楽なんだけどなぁ」


 町の近くの森の中に隠してきたモービルは、光学迷彩機能を搭載している。

 けれどもララの装備にその能力はなく、あったとしても膨大なエネルギーを消費するために数秒で効果は切れる。

 最低でもモービルに乗せなければいけないほどのブルーブラストエンジンが必要なのだ。


「うーん、これしか思いつかない!」


 結局、彼女は腰のベルトに吊っていた特殊金属の塊を一つ手に取る。

 ナノマシンを通じて自由に形を変えるそれを使い、単純な機械を作成する。

 電脳内データベースを検索し、かつて趣味で作ったモデルを呼び出す。

 淡い発光と共に金属がぐにぐにと粘土のように動き出す。


「こんな感じかな?」


 作り上げたのは、白銀色の蜘蛛のようなロボットだった。

 彼女の手のひらに乗る程度のサイズで、同型のものが全部で三機。

 八本の針のような足があり、体の後部――おしりの部分に丸い物体が吊り下がっている。


「よーし、行っておいで」


 そう言って、ララは三機を煌々と照らされた庭園の隅々に散開させる。

 全てが特定の場所に到達したのを確認して、ララはコマンドを送信する。


「『電撃(ショックボルト)』」


 パヂヂッ


 先ほどと同じような音が四つ重なる。

 互いの波長によって拡散し、効率的にそれらは一瞬で庭園全域を駆け巡る。

 少し遅れて焦げたような匂いが漂うが、それを察知する人間は誰もいなかった。


「久しぶりに作った拡散機だったけど、いけるもんね」


 強烈な電流を浴びて焦げ付いた蜘蛛たちを拾い集めながら、ララは死屍累々の庭園を悠々と横切る。

 蜘蛛は彼女の手の中で元の白いインゴットへと戻る。

 鮮やかな手際で関門を突破したララは、腰のベルトから小さな球体を三つ取り出す。


「さ、ちょっと見てきて頂戴」


 球体はゆっくりと宙に浮かび上がると、滑るようにして館の中へと消えてゆく。

 指先の目たちから送られてくる情報を処理しつつ、ララもその後を追って館へと近づく。

 外に大半の人力を割いているのか、内部の警備はそれほど厳重ではない。

 とはいえララの目指しているティラの執務室への道には相応の人員が配置されている上、執務室の扉には一際屈強な獣人の兵士が立っている。


「むぅ、これはちょっと面倒ね……」


 拡散機は複雑な構造の館では使いにくい。

 少しでも生き残りがいればすぐさま増援が呼ばれてしまうだろう。

 ララが考え込み、攻めあぐねているその時、不意に執務室の扉が開く。

 送られてきた視界越しにそれを見たララは眉を上げる。


「うん? ティラ?」


 出てきたのは、ララと似た髪色の少女。

 彼女はロミを背後に伴い、廊下へと現れた。

 驚く警備の兵士たちを労いながら、彼女は歩き出す。

 兵士たちが護衛に就こうとするが、それもきっぱりと拒否して、ロミと二人で歩き――


「お待ちしていましたよ、ララさん」


 ドアが勢いよく開く。

 その真下にいたララが顔を上げると、ティラが微笑みを湛えて彼女を見下ろしていた。

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