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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第七章【大祭と叡智の鏡】

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第二百八十八話「思ったより綺麗なところね」

「私達の探しているもの?」

「――はい」


 ティラは静かに頷く。

 ララとロミは困惑した顔で互いに見合わせる。


「この騒動が片付いた暁には、実際にそれをお見せできるでしょう。なので、今は何卒、力をお貸しください」

「いいわ。分かった。多分、ティラが言ってることは合ってると思うしね」


 深々と頭を下げる少女に、ララは柔らかな笑みをもって答える。


「それに、助けを求める人に手を差し伸べるのは、神官として当然ですから」


 それに便乗するように、ロミが頷く。

 頭を上げたティラの青い瞳は、少し湿っていた。



「夜が明ける前に尻尾をつかんでおきたい。できるだけ早く刑務所に連行してくれ」

「分かった。そうしよう」


 屋敷の庭園に並べられた男達を前に、イールとジェイクが慌ただしく動いていた。

 襲撃者は全員身ぐるみを剥がされ、哀れな姿で地面に横たわっている。

 ジェイクの部下達が男らの隅々までを調べ、何かに繋がる手がかりがないかを探していた。


「イールもララもなんでこんなことに手慣れているんだ? こちらとしては仕事が楽になるからありがたいが……」

「ララは知らん。あたしはまぁ……色々あるのさ」


 チェックシートを持ったジェイクが呆れ声で言う。

 イールは不敵な笑みを浮かべ、人差し指を唇に当てた。


「やっほー、何か手伝うことはある?」


 そこへ場違いなほど暢気な声がかかる。

 イールが振り返ると、ララがブンブンと手を振りながらやってきていた。


「お、話は終わったのか?」

「うん。ティラは客間で待機、ロミはその護衛してるわ」


 ララは地面に並んでいる人々を見ながら言う。

 このうちの半分以上が彼女の手に掛かり、その魔力回路を切断されてしまっているのだ。


「歯に毒とか仕込んでなかった?」

「真っ先に確認した。三人が噛みやがったから無理矢理解毒剤を飲ませたよ」

「毒の種類特定できたんだ?」

「このあたりで使われる、歯に仕込んでいても問題ない毒はかなり限られるからな」


 まるで世間話をするかのように、二人は物騒な言葉を投げ合う。

 その隣のジェイクの方は少し青ざめていた。


「俺はお前らが一番怖いよ……」

「なんか言ったか?」

「なんでもない!」


 ジェイクはそう言うと、逃げるようにその場を離れていく。


「イールさん、人数分の衣服を準備できました」

「む、よくやった。それじゃあそれ着せて、連行するか」


 そこへ一人の兵士が駆けつける。

 彼の報告を受けて、イールはその場にいた全員に指示を出した。

 いつの間にか指揮官のような貫禄とカリスマを見せ、彼女はティラの兵士達を自分のもののように扱っていた。


「イール、傭兵よりも向いてるんじゃない?」

「馬鹿言え。あたしは人の上に立つような器じゃないよ。今は緊急事態だからやってるだけだ」


 その割には楽しそうだけどな、とララは彼女の横顔を見る。

 普段もだいたいは楽しそうに微笑を浮かべているイールであるが、今はそれが一際目立っていた。

 程なくして、捕縛者全員の着替えが完了する。

 時間がなかったこともあるのだろうが、できるだけ惨めな格好というイールのオーダーは余すことなく受け入れられたらしい。

 彼らの服は大きすぎたり小さすぎたり、目を覆いたくなるような柄モノであったりと凄惨な光景だった。

 顔を真っ赤にした男が吠えるが、それすらも滑稽で、近くにいた兵士も肩を震わせていた。


「縄で手を結んでつなげ。足は歩幅より若干短めで固定しろ。武器を持ってなくても拳はあるからな、十分注意しろよ」


 指示を出しながら、イール自身も動く。

 彼女は手早く麻縄を手繰って結び、瞬く間に一人を立たせた。


「よし、お前が先頭だ」

「ちくしょう。俺たちをどこへ連れてこうってんだ」

「個室付きの上等な宿だよ」


 悪態を吐く男にすげなく返し、イールは二人目へ移る。

 ララも手伝いつつ作業は滞りなく完了し、やがて惨めな男達の群れができあがる。


「ジェイク、刑務所の方はどうだ?」

「所長と話を付けてきた。いつでも受け入れ態勢は整っているとのことだ」

「よしよし、それじゃあ行こうか。近隣住民の迷惑にならないように静かにしろよ」


 イールがぱんと手を打つ。

 それを合図に、男達は兵士に突かれてのろのろと歩き出した。

 かくして、闇夜の町を行脚する奇妙な一団が現れた。

 重装の兵士たちに取り囲まれて、情けない格好の男達はとぼとぼ歩く。

 寝付けない何人かの住人達がそれを見て、亡者の行進ではないかと少し噂になったのは、彼女たちが知らなくても良いことだった。


「あそこが刑務所?」

「ああ。サルドレットにいくつかあるうちの、一番古い刑務所だ。古いとは言っても設備は毎年整備されているがな」


 しばらく歩くと、貴族街の外れに大きな白い塀に囲まれた建物が現れる。

 塀の上には鋭く尖った棘がいくつも並び、外からも中からも誰も行き来できないようになっている。


「浮遊の魔法を使っても分かるように、敷地全体に感知の魔方陣も埋め込まれてる。逃げだそうと思う奴もそうそういないがな」


 ジェイクの説明を聞きながら、一行は正面の大きな鉄門の前までやってくる。

 兵士が一人中に入り、しばらくすると門がゆっくりと開き始める。


「思ったより綺麗なところね」


 始めに目に飛び込んできたのは、隅々まで丁寧に手を加えられた緑溢れる庭園だった。

 月明かりしかない闇夜であることが悔やまれるが、ララの目には鮮明に映る。

 季節の花が咲き乱れ、瑞々しい葉が風に揺れている。


「奉仕活動の一環として、ここで職業訓練させてるんだ。軽微な犯罪者に限るが、出所後庭師として働く奴もいる」

「へぇ。そのあたりもしっかりしてるのね」


 庭園の中央を貫く煉瓦の道を歩く。

 やがて二つ目の門が現れ、同じような手順でゆっくりと開く。

 その先には、打って変わって殺風景な踏み固まれた地面の空き地があった。


「ここは?」

「運動場だな。囚人達は一日二回、ここで自由に動ける」


 器具のようなものは何もない。

 白い塀に囲まれた、ただっ広い空き地だった。

 日中は多くの囚人達が歩き回るのか、草の一つも生えていない。


「ということは、あれが刑務所本体だな」


 イールが前方を指さす。

 その先に、塀と同じ白い石材でできた大きな建物があった。


「ああ、あれがサルドレット第一刑務所さ」


 得意げにジェイクが鼻を鳴らす。

 ララ達が建物の足下までやってくると、重厚な鉄の扉が開く。


「こんな夜更けに突然牢を用意しろとは、全く」


 扉の奥から不機嫌な男の声が響く。

 ララが覗き込む前に、カツカツと固い靴の音と共に、一人の精悍な男が現れた。

 固そうな黒髭を蓄えた、目つきの鋭い男だ。


「やあ、トルトン所長。すまないな、無理を言ってしまって」

「いや、いい。これが私の仕事だ」


 ジェイクが頭を下げると、トルトンと呼ばれた男は首を振る。


「トルトン所長、この刑務所の責任者だ。所長、こっちはイールとララ、俺たちに協力してくれている傭兵だ」


 ジェイクの説明を受けて、トルトンが二人を睥睨する。

 妙な緊張感が流れた後、彼は重々しく一度頷いた。


「分かった。私からも感謝しよう。……さあ、中へ連れて行け」


 彼が指示を出すと、建物の奥から頭巾で顔を隠した男達が飛び出す。

 彼らは瞬く間に襲撃者たちの腕をつかみ上げると、有無を言わせぬ勢いで奥へと引っ張っていった。


「……時間がなさそうだ。早速始めよう」


 そう言って、トルトンは三人を刑務所の中へと促した。

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