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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第七章【大祭と叡智の鏡】

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第二百八十七話「私達はこの後どうすればいい?」

 つい数時間前まで静謐を保っていた館は騒然としていた。

 武装した兵士達が長い廊下を駆け回り、青白い顔をした侍女たちが不安をこらえて立っている。

 ララ達はジェイクに案内されて、客間へと通された。


「ここで待っていてくれ。すぐにティラ様が来られる」


 彼の言葉通り、ティラは用意された紅茶が冷めないうちに現れた。

 襲撃時は眠っていたのか、急いで着たらしい簡素な装いは少し乱れ、髪も所々が飛び跳ねている。


「こんばんは。話はジェイクからある程度聞きました。……また助けていただいたようですね」


 感謝します、と彼女は深々と頭を下げて謝意を示す。

「いいのよ。私達が勝手にやったことだし」

「そうだな。夜道を散歩してたらたまたま不審者の集団に出会って、たまたま倒せただけだ」


 白々しい事を臆することなく言い切る二人。

 ロミもその隣でコクコクと頷いていた。

 ジェイクとティラは少しの間唖然とした後、呆れたような顔で目を細めた。


「たまたま、ですか。そうしたらこうしてお呼び立てしてしまったのは申し訳なかったかも知れませんね」

「そうはいっても、あのまま帰す訳にも行かなかった」


 クツクツと声を殺して笑うティラに、ジェイクは首を振る。


「あの人たちから、何か手がかりは掴めたの?」


 ララがカップをソーサーに置いて尋ねる。

 途端に、ジェイクが眉を寄せた。


「まだ調査は終わってないが、どうだろうな。こういう事を企む連中が、そう易々と尻尾を見せてくれるかどうか……」

「衣服は当然、武器の柄も調べたか? 歯の裏側とか口の上、背中や踝に何かしらのマークを刻んでる例もある。それでも何も見つからなかったら全員を別個の独房なんかに入れて尋問だな。情報を吐けば釈放、他の誰かが先に吐けば殺すとでも言えばいい」


 苦々しい顔のジェイクに向かって、イールが冷めた瞳で言う。

 すらすらと立て板に水を流すように飛び出す言葉に、周囲の全員が一瞬静まりかえった。


「……イール、結構詳しいわね」

「お前さん、そういう仕事してんのか?」

「別に。生まれる家に依ればこれくらい詳しくなることもある」


 どんな家に生まれたんだよ、とジェイクが戦々恐々とする。

 ロミやララでさえ、彼女の知らない一面を垣間見て絶句していたのだ。


「ティラ、この館に独房はあるのか?」

「……え、あ、いいえ。一応監禁用の檻はありますが、あれだけの人数を個別に収容できるほどのものは……」


 少し刺激が強すぎたのか、ティラが正気を取り戻すまで少し時間が必要だった。

 しかし彼女も市長として立つ身である。

 すぐに背筋を伸ばし、毅然とした態度で答える。


「ふむ……。それじゃあ刑務所にでも連行するか?」

「刑務所、ですか。確かにそこなら人数分の独房はあるかと」


 イールは顎に手を当てて思索を巡らせる。

 彼女の脳内でどのような言葉が流れているのか、ララは少し気になった。


「そういえばララ、あいつらにはどんな拘束をしてるんだ」

「ふえ? ああ、えっと魔力回路を閉じたのと、全身の筋肉を衰弱させてるわ。一応、生命維持に必要な程度に抑えてるけど」


 ララが答える。

 彼女も大概荒事の対処になれているな、とまたもや全員が一致した。


「魔力回路の閉鎖か。聞いたこともないが、ほんとならえげつないな……」


 この世界は魔力の法則に依存している。

 強力な柱であるそれを崩されてしまえば、この世界に住む人間は自由な翼をもがれた鳥のようなものだ。


「ジェイク、とりあえず所持品の検査だけはここで終わらせた方が良い。どうやって処分するとも限らないから、できるだけ迅速に終わらせたい」

「今部下たちがやっているところだ。イールが監督してくれるというのならありがたいが」

「しょうがないな」


 イールは立ち上がり、ジェイクを顎で促す。

 連れ立って退室する直前、彼女はティラに向き直った。


「そうだ、ティラ。半袖シャツと短パンを襲撃者の人数分用意してくれ。できるだけ惨めなやつが良い」

「……分かりました。用意させましょう。他に何か必要なものは?」

「手枷、足枷は当然として、あとは水だな」

「水なんてどうするの?」

「浴びさせる。今夜はよく冷えるだろう?」


 悪魔だった。


「……わ、分かりました。用意させましょう」


 ティラもたじろぎながら頷く。

 これほどまでに手慣れているとは、彼女も予想外だっただろう。

 ただの護衛のために雇ったはずの傭兵が、とても恐ろしい顔をしていたのだから。

 だからこそ、イールとジェイクが客間を出た後、扉が閉まった瞬間に彼女が思わずため息を吐いてしまったのも仕方がないことだった。


「まさかイールにあんな特技? があったなんてね」

「あれを特技と言っていいんでしょうか?」


 ロミが苦笑交じりで尋ねる。

 実際に二人すら知らなかった彼女の一面ではあるが、彼女がそれを必要としていた境遇にあったということがどうにもララの胸を締め付けた。


「それで、私達はこの後どうすればいい? とりあえず、イールの仕事が終わるまでは待ちたいのだけれど」

「ひとまず、朝を迎えるまではここに居てください。その方が恐らく安全でしょう」

「教会の方にも襲撃者が?」

「ララさん達も顔を見られていると思いますので」


 そっかぁ、とララは手を打つ。

 昼間の自爆事件の際に、彼女たちの顔もばれている可能性は高かった。

 それならば、この館でまとまっていた方が色々と対処はしやすいというのも納得だ。


「しっかし、ティラも大変ね。若いばっかりに変な輩に襲われて」

「それは、まあ、覚悟はしていましたが。でも、そうですね。確かに少し予想を上回っている過激さだと思います」


 ティラはカップを傾け、唇を湿らせる。

 本来ならば眠っている時間である。

 こんな夜更けを狙った襲撃などあれば、この事件が収束するまでは安心して眠ることなどできないだろう。


「そんなに、若い市長が嫌なのかしらね」


 ララが誰に言うでもなくぼやく。

 その言葉に、ティラはしかし首を横に振った。


「恐らくは、若い市長というのが気に入らないわけではないと思うんです」

「というのは?」


 ロミが首をかしげる。

 ティラは儚げに、悔しそうに微笑んで答えた。


「幼ければ、少し脅せば屈すると思われているのでしょう」

「屈する? 支配できるってこと?」

「違います。……実は、プラティクスには市長にしか扱えない、市長にしか扱い方を伝えられていない物があるんです」

「市長にしか扱い方を伝えられていない物……」


 彼女の告白に、ララは更に首をかしげる。

 そんなララに向かって、ティラは更に言葉を続けた。


「――恐らくは、その物こそララさん達の探している物なのではないかと、思います」

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