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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第七章【大祭と叡智の鏡】

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第二百八十一話「他の場所も回りましょうか」

 一人の男に殺到する、無数の群衆。

 彼らは濃厚すぎるほどに濃厚な殺意を帯びて、それぞれの得物を前へ突き出す。

 刃が、棘が、槌が、軋轢の音と共に黒い鎧へと飛び込んでいく。

 実況をする男の声が観客をはやし立てる。

 白い服を纏った治癒術師たちが立ち上がり、有事に備えて準備を始める。


「これは決まった?」

「いや、決まってない」


 ララが焼きたてのソーセージを咀嚼しながら言うと、イールがすぐさま否定する。


「むむむ……」


 ララは眉間にしわを寄せ、目を凝らす。

 目に内蔵されたナノマシンに信号を与え、一時的に視力を飛躍的に上昇させる。

 遠い観客席から、場内を見る。


「うわっ!」


 唐突に、山のように重なっていた出場者たちが弾け飛ぶ。

 その純粋な重量を押しのけ、中央には黒い鎧の男が変わらぬ様子で佇んでいた。


「あんなにたくさんの質量攻撃を受けたのに、よく無事だったわね」


 ララが驚き声をあげる。

 それに解説を返したのは、なぜかしたり顔のロミだった。


「おそらくは強化系統の魔法でしょうね。硬化あたりで攻撃を防いだ後、反射の魔法で衝撃をそのまま全方位に返したんじゃないでしょうか」

「へぇ。魔法ってそんなこともできるんだ」

「二つの魔法を同時に展開する必要がありますから、かなりの高等技能ですよ」

「その割にはロミもよく多重展開してるよな?」

「わたしはまあ、レイラ様によく鍛えられましたので」


 イールの声に、ロミは頬を赤く染める。

 普段彼女が何気なく扱っている魔法のほとんどが、実は一般的に見れば高等技能に当たるものであるというのは、魔法に疎いララでもなんとなく分かってきた。

 そんな三人の会話を聞いて驚いた様子なのは、隣で見ていたティラである。

 彼女は口を半開きにして、三人の話を聞いていた。


「今のでよくそこまでお分かりですね。もしかして【黒鉄】さんのことはご存じでしたか?」


 その問いに、三人は同時に首を横に振って否定する。


「あたしは今日が初めてだな」

「私もー」

「そうですか……」


 軽く言う三人に軽く動揺しつつ、彼女はその目に尊敬の色を浮かべる。


「私もお三方のように人を見る目を磨かないといけませんね」

「これって人を見る目なのかしら」

「そうだけど、そうじゃないって感じだな」


 きらきらと無邪気に目を輝かせる少女を見て、三人は複雑な顔を見合わせる。

 彼女たちが実際に持っているのは、観察眼である。

 特に、イールは戦況を見ることに、ロミは魔法を見ることに特化している。


「おっと、戦況が動いたぞ」


 場内に目を戻したイールが声をあげる。

 それに釣られた三人が視線を向けると、そこには数秒前とは一変して、死屍累々の山が積み上がっていた。


「うわ、なにこれ」


 ララが思わず口元を押さえる。

 武器を折られ、鎧を凹ませた戦士たちが、戦意を喪失して地面をなめている。

 その中心で依然として立っているのは、先ほど卓越した魔法の技術を見せつけた、【黒鉄】ただ一人だ。


「全部あいつがやったのか?」

「でしょうね。状況的にそれしか……」


 場内に立っているのは、黒鉄。

 あとは彼との戦いに参加しなかった一部の数少ない参加者だけだ。

 彼らはすでに異質なほどの実力を見せた黒鉄と戦う意志はなく、残った者同士でにらみ合う。

 そこから、勝敗が決し、トーナメント選抜者が決定するまでの間、黒い鎧を纏った男は一歩も動かなかった。



 広場に置かれたオルガンが陽気な音色を吹き鳴らす。

 人形たちがぎこちなく手を振って、太鼓を叩き歌声をあげる。

 石畳の上を歩く人々はそろって晴れやかな表情で、澄み渡る青空が頭上に広がっていた。


「面白かったわね! 迫力満点だったわ」

「結局あの【黒鉄】は何者なんだろうな? 傭兵にそんなやついたって話は聞いたことがないし……」

「それよりもわたしはあの魔法技術をどこで学ばれたのか興味があります」


 第一試合の終幕を無事に見届けたララたち四人は、客席の入れ替えに合わせて闘技場の外に出た。

 現在の彼女たちは、ティラの案内で市内をまわり、その手には露店で買い求めたたくさんの食べ物が握られている。


「竜闘祭は面白かったですか?」


 ティラがワンピースの裾を広げながら身を翻し、ララたちに尋ねる。

 三人は目を細め、異口同音に頷いた。


「試合自体もそうだけど、それで盛り上がる会場が気持ちよかったわ」

「ふふ。それはうれしいですね。少しずつ回を重ねて、あの熱気が産まれたんですよ。私も市長として、もっと盛り上げないといけないです」


 そう言って幼い市長ははにかむ。

 彼女はそうだ、と思い出したように口を開いた。


「あのパイプオルガンは、今回の竜闘祭が初めてのお披露目なんですよ」


 そういって指さした先にあるのは、見上げるほど大きな、ともすれば小さな小屋のようにすら見える豪華なオルガンである。

 幾本ものパイプが整然と並び、その前には五人の人形が腰掛けている。

 陽気な音楽に合わせて人形たちが踊り、歌い、楽器を鳴らす様子を、人々が興味深げに見上げていた。


「へぇ。あれは楽器なのか」

「大きいですねぇ。後ろで演奏されてるんでしょうか」


 それを見て、イール達が背中を反らせて声をあげる。

 彼女たちの様子を見て、ティラは自慢げに小さな鼻をひくひくと動かした。


「ハギルの職人さんに作ってもらった、特注品なんですよ。組み立て式で、移動させることができるんです。専用の楽譜を入れれば、自動で演奏も」


 今回の竜闘祭に於いて、彼女の個人的な目玉なのだろう。

 すらすらと立て板に水を流すような解説に、三人は思わず聞き入る。


「基本は魔導式なので、今は専属の魔法使いが裏で魔力を流してもらっていますが、手動でハンドルを回しても演奏は可能なんです。だから人員確保が簡単で、どこででも扱えるのが利点です」

「へぇ。じゃあ機構自体は純粋なカラクリなんだな」

「そういうことです。風を流して、音を出すので、笛が近いでしょうか」


 ティラの解説に耳を傾けながら、三人は興味深くオルガンを見つめる。

 一見すれば楽器のようには見えないが、確かに小気味の良い音楽が流れている。

 彼女たちの他にも、子供達が楽しそうに体を揺らし、大人達もそれを微笑ましそうに眺めていた。


「ドワーフの技師を何人もこの町に招いて、一年かけて作り上げたんです。完成したときは、ほっとしました」


 いまでもその時のことは鮮明に思い出せるのか、ティラは笑顔を深める。


「ティラも市長として色々やってるのね」


 ララが彼女の顔を見て言う。

 ティラはぽっと頬を朱に染めると俯いて、もじもじと指を絡ませた。


「私は、その、みなさんが楽しめるようにと思って」

「ええ。これを見ただけでも、よく分かるわ」


 ララの優しい声を聞いて、ティラは耳の先まで赤く染める。

 その様子を、三人はそっと目を細めて見ていた。


「こ、こほんっ! それじゃあ他の場所も回りましょうか。見ていただきたい所がまだたくさんあるんですよ」


 誤魔化すように一つ咳払いをして、ティラは気を取り直す。

 彼女はララの手を握ると、早速歩き出した。

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