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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第七章【大祭と叡智の鏡】

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第二百七十九話「もう始まるぞ」

 翌日、プラティクスの町は早朝から熱狂の炎を吹き上げていた。

 観光客らしい人々が通りを埋め尽くし、彼らは一様に町の中心に足を向けている。

 そんな彼らの気を惹こうと露天商たちが声を張り上げ、至る所で歓声が巻き起こる。


「流石はお祭り本番ね。昨日よりも人が多いんじゃない?」

「皆さん迷わずこちらに向かってますねぇ」


 ララたちも早くから教会を発ち、人の流れに従って町を歩いていた。

 途中、朝食として露店で購入した軽食を片手に、彼女たちは人混みにもまれながら、目的地へと向かう。


「今日からあそこでやってるんだよね」


 ララが視線を上げて言う。

 目の向かう先にあるのは、昨日も足を運んだ巨大な建造物。

 町のシンボルでもある闘技場だ。


「ああ。あそこで今日から三日掛けて最強を決めるのさ」


 イールが頷く。

 彼女もまた、祭りの熱気に当てられて朝から興奮気味のようだった。


「ちゃんと、安全にも気を使ってるんですよね」

「そのはずだぞ。常駐の治癒術師くらいはいるだろ」


 はらはらと落ち着かないロミは、その言葉を聞いて胸をなで下ろす。

 あまり荒事を好まない彼女にとっては、気持ちの高ぶりよりも心配のほうが勝るらしい。


「最強を決める大会かぁ。なんか今年は粒揃いらしいし」

「そういやそんなことも言ってたな」

「【黒鉄】に【剣聖】、他にも何人も! 聞いただけでも期待に胸が膨らみますね!」

「私はあんまりピンとこないんだけどねー」


 わくわくと目を輝かせるロミとは対照的に、ララは唇を尖らせてふてくされる。

 どうやらこの世界では、ある一定の実力を持つ者には二つ名送られる風習があるらしく、昨日ジェイクが得意げに羅列したそれらは、その中でも有名な者達に与えられている名前らしかった。


「高ランクの傭兵とか、学院の有名な魔法使いとか。普段の職業はそれぞれだけど、全員が一軍に勝る戦闘力を持ってるらしいぞ」

「うわ、怖いわねそれ……。個人で戦争の勝敗に左右できる力持ってるなんて……」

「お前が言うんじゃない」


 眉を顰めて口を手で覆うララ。

 彼女こそそんな歴々とも真っ正面から立ち向かえるだけの力を持つ者なのだが、生憎そのことを知っている者がごく少数に限られているため、二つ名は持ち合わせていない。


「ララもギルドで名をあげれば、そのうち二つ名が貰えるさ」


 半ば確信を持った口調で、イールが言う。


「いやぁ、どうでしょ。イールでも持ってないんでしょう? 私はちょっと」

「お前は過小評価がすぎるな……」


 一回、何かしらで実力を自覚させた方がいいかも知れない。とイールは半分本気で検討する。

 ララはその身に一軍どころか国すら相手取れるほどの力を秘めている。

 だというのに、当の本人にその自覚が薄いのが玉に傷だった。


「ともかく! 今日は思いっきり楽しまないと! 待ち合わせ場所は覚えてる?」

「闘技場の前ですよね。とはいえ人が多すぎて探すのも大変ですが……」

「いたぞ」

「はやっ!?」


 周囲の人混みから、文字通り頭一つ突き抜けているイール。

 彼女がキョロキョロと周囲を見渡し、いち早く目的の人物を見つけだす。

 とはいえその人物は決して地味ではなく、むしろ周囲の群衆に塗りつぶされないだけの不思議な色を持っていた。

 彼女でなくとも、その姿を探し出すのは容易だったのだろう。


「おーい!」

「お待たせー」

「おはようございます」


 三人が口々に声をかけ、その人物へと歩み寄る。

 つば広の帽子を被り、おどおどと身を震わせていた少女は、その声を耳にとらえてぱっとエメラルドの瞳を見開いた。


「お、おはようございますっ! 今日はよろしくお願いしますね」

「おはよ、ティラ」


 ティラははにかむララにつられるようにして、口に弧を浮かべる。

 昨日は市長らしい煌びやかな正装に身を包んでいた彼女も、今日はシンプルなフリルのあしらわれた軽い雰囲気のワンピースという装いである。

 小さな赤い肩掛けのポーチも持ち、一見したところ良家のご令嬢といった表現がよく似合う。


「お三方、本日はよろしくお願いします」

「うわっ。び、びっくりしたぁ……」


 突然人混みの中から話しかけられ、ララが飛び上がる。

 あわてて振り向けば、鎧を脱いで観光客の中にとけ込んだ浅黒い肌の男が立っていた。


「ジェイクも随分な格好してるのね。一応護衛なんじゃないの?」


 ティラの身の回りの警護を司る彼は、ララに不敵な笑みを返す。


「折角お嬢様がお忍びで楽しまれるというのに、私が鎧姿でいたらそれこそ目立ってしまうだろう? 心配せずとも、この服は特注の頑丈な鉄板が縫いつけられている」

「また変な服もあるものね……」

「とはいえ、有事の際にはあなた方にも期待している。そのために頼んだのだからな」

「はいはい。分かってるわよ」


 くれぐれくもよろしく、と鬼気迫る様子で念を押す近衛隊長に、ララも素直に頷く。

 普段から常駐させている警戒の為のナノマシンも十全に配備しているし、そうそう危機的な状況に陥る心配はない。


「というわけで今日は俺の存在は忘れてくれ。あくまで女性のみの、楽しいお祭りにしてくれるとこちらとしても助かる」

「ジェイク。本当にありがとうございます」

「いいのですよ。たまには息抜きをしなければ」


 ティラが帽子を胸に当ててジェイクに感謝する。

 ララと同じ白い髪が朝日を浴びて銀色に輝く。

 それを見て、ジェイクは目を細めた。


「では、俺は姿を消すとしよう。良い祭りを」


 そう言い残し、彼はふっと人混みの中へと消えていく。

 気が付いたときにはその姿は掻き消え、視線では追えなくなってしまう。


「それじゃ、とりあえず試合でも見ましょうか」


 四人となったララたちは、ひとまず闘技場の中へと入ることとする。

 まずはこの竜闘祭の目玉でもある試合を見なければ始まらないだろうと、全員の意志が重なった。


「市長用の特別席みたいなのはないのかしら」


 闘技場内部の、観客席まで続く階段を上りながらララがティラに尋ねる。


「ありますよ。でも、今回は断ったんです」

「それは、お忍びだから?」


 ティラがはにかみながら頷く。


「はい。それと、市民や観光客の皆さんと一緒に見てみたいとも思ったので」


 特別席には、当然相応の地位を持つ者しか立ち入ることが許されない。

 それはたとえば市議会員など、ティラからしてみれば見知った顔ばかりである。

 今回はそれとは違い、一般席で見知らぬ人々と共に熱気を分かち合う。

 それは彼女がかねてから強く望んでいたものだった。


「市政を執る者としても、一個人としても、この町のことを知っておきたいと思うんです」

「はぁ、立派ねぇ」


 胸を張ってそう言い切る少女に、ララは尊敬の目を向ける。

 まだ幼い、少女と言って良い彼女は、しかしその内部にはすでに施政者としての尊厳があった。


「それじゃあ急がないとな」

「そうですね。早くしないと」


 二人の話を聞いて、後ろを歩いていたイール達が背中を押す。


「ふえ、なんで?」


 突然のことに驚くララに、イールがあからさまにため息をつく。


「そりゃあ、これだけの人がいるんだぞ? 早くしないと席が埋まっちまう」

「というより、もう粗方埋まっちゃってる可能性も」

「忘れてた! 急ぎましょ」

「え? はいっ!」


 二人の言葉に、ララもはっとする。

 ピンときていないティラの手を取って、階段を駆け上る。

 小さな出口を飛び出せば、空が途端に広がって現れる。


「ふわぁ……!」


 なだらかな段差に腰掛ける人々は、集まり混じり合ってまるで巨大なモザイク画のようになって彼女たちを出迎える。

 いつもは少し離れた場所からしか見えなかった熱気の渦中に立ったことを、ティラはようやく自覚した。


「お、あそこが空いてるぞ」

「行きましょう!」


 視点の高いイールが、目敏く空席を見つける。

 四人は小走りでそこにたどり着き、なんとか腰を落ち着けることができた。


「すごい人ですね……。確かに毎年これくらいの人を見ていましたが」


 白い頬を赤くしてティラは興奮気味に言う。

 早速、こうして三人と共に祭りを巡る意義があったようだった。


「毎年これだけの人が来るのね。流石大都市……」

「町の他の場所でもいろんな催しがあるんですよね。どこから回るか考えないと」


 膨大な人が訪れる竜闘祭の目玉は、闘技場で行われる、祭りの名を冠した試合である。

 しかしそれと同時に広大な町のあちこちで様々な催しがあり、彼女たちはそれらも楽しむ心づもりだった。


「ギリギリだったみたいだな。もう始まるぞ」


 興奮の前触れに胸を高まらせていると、イールが口を開く。

 そして、万人の観衆がひしめく中で、闘技場にファンファーレが鳴り響いた。

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