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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第七章【大祭と叡智の鏡】

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第二百七十一話「貰ってきました!」

「ロミ様の頼みということならば、断る理由などありません。どうぞ、お入りくださいな」


 頬に皺を重ねた老齢の神官は、そう言ってララ達を教会の中へと招き入れた。

 ロミが顔を見せ、名乗った時はあんぐりと口を開け驚愕していた彼女は、始終腰を低くして、突然の来訪にもかかわらず快く三人を教会の奥にある宿舎へと促す。


「……ロミって結構偉い人だったりするのかな?」


 目を丸くして事の流れを見ていたララは、こそこそと手を口に寄せてイールに話しかける。

 イールもまた、彼女と同様に驚いているらしく、眉を寄せた。


「冷静に考えたら、ヤルダの神殿長の弟子っていうのはかなりの実力者だよな。普段があんなだからうっかりしてた」

「そっか、ヤルダって辺境一の神殿なんだもんね。レイラの地位が相当なら、その弟子のロミも相応よねぇ」


 今更ながらにロミの名の重さを知った二人は、改めてしげしげと目の前を歩く金髪の少女を見つめる。

 当の本人は老女と話すのに夢中で、背後の様子に気付くこともなかった。


「この部屋が、いつもこの教会に立ち寄られる武装神官様がお泊まりになるお部屋です。四人部屋となっておりますので、どうぞご自由に」


 ララ達が老女に先導されて辿り着いたのは、宿舎の隅にある部屋だった。

 扉を開けて中に足を踏み入れると、眼前に開かれた窓から差し込む光に埃が舞い上がる。

 両脇には二段重ねのベッドが聳え、真ん中に小さなテーブルがぽつんと置かれている。


「良い部屋じゃない」

「普通にそこらの宿を借りるよりも上等だな」


 部屋の中に視線を這わせながら、ララ達は素直な感想を漏らす。

 簡素とはいえ隅々まで手入れが行き届いた部屋は、三人が過ごすには十分な広さと設備を備えている。

 ロミも満足げに頷き、傍らの老女に礼を言う。


「ありがとうございます。助かりました」

「とんでもない。友を助けよとは主の教え。そのために私たちは日々を過ごしているのですから」


 そう言って老婆は朗らかな笑みを浮かべる。


「部屋の鍵はこちらです。いつでも教会は開いていますので、ご自由にお使いください」

「ありがとう。教会に泊めて貰えるなんて、少しわくわくするわね」

「ふふふ。そう言って頂けると、こちらも胸が弾みます」


 神官はララに笑い掛け、頷く。

 そして彼女は日々の勤めに戻るため、その場を後にした。


「良かったな。助かったよ」

「快く貸して頂けてほっとしましたね」


 ベッドの縁に腰掛け、三人は息をつく。

 これでひとまず、夜を寒空の下で凍えて過ごす心配はなくなった。


「どうする? 夕食まではまだ時間があるが」

「わたしはレイラ様とお話ししないといけないので」


 窓の外に浮かぶ太陽を見てイールが言う。

 ロミはこのままこの部屋でレイラと通信を図ると言って、早速準備を始める。


「ロミの服も、かなり便利そうよね」


 服のポケットから様々な道具を取り出す彼女を見て、ララが言う。

 ロミの体格と比べてもかなり余裕のある大きさの白い神官服は、その裏表を問わず沢山のポケットが縫い付けられている。

 そこに入っているのは、彼女が旅で用いるあらゆる道具類だ。

 神官服に十分な収納力があるため、ロミは別な鞄などを持たずに杖一つで旅ができる。


「結構重いんですけどね。無くす心配はないとはいえ、どこにしまったか忘れることは良くありますし」

「まあ、それだけ色々入ってたらな……」


 魔石と白いチョークを取り出しながらロミが苦笑する。

 その後も様々な魔法触媒などを取りだしては床に並べ、彼女は魔方陣を完成させた。

 ロミが遠く離れたヤルダにいるレイラと話すため、様々な妨害や盗聴を防止するために組み上げられた大がかりな魔法結界である。


「これ、私たちはいて良いものなの?」

「それはまあ、報告する事ってララさん達と過ごした時の出来事ですし。それに二人ともレイラ様とも面識はありますし」


 冷静に考えてみれば、当然のことだ。

 ロミが報告する内容は、四六時中常に行動を共にしているララ達も知るところであるし、レイラとはヤルダに滞在した時だけでなく、アルトレットでも顔を合わせている。

 そもそも、いざとなれば遠話の首飾りでララやイールも直に話ができる。


「ただ術の強度にも影響するので、できるだけ静かにしていただけると」

「りょーかいりょーかい」

「それじゃあたしらは荷物の整理でもしておくか」


 そうして、ロミは陣の中に入って魔法を発動し、その間にララ達は自分たちの鞄を開いて荷物の整理にいそしむ。


「……あの魔方陣、ほんとに効果あるのね」


 ちらりとロミの様子を盗み見て、感心した様子でララが言う。

 それを聞いてイールも彼女の方へと視線を向けた。

 青白い光の壁が、陣の外縁に沿ってロミを取り囲んでいる。

 よく見ればロミの口は忙しなく動いているが、その声が陣を通り越してララ達の耳に届くことはない。

 四人部屋とはいえ、決して広くはない室内で、まったく声がしないまま話している様子を見るというのは、中々に奇妙な光景だった。


「――お待たせしました」


 二人が見とれていると、話が終わったのかロミが陣の中から出てくる。

 彼女の後ろ足の爪先が陣から出れば、床に描かれていた白い塗料と魔法触媒は塵となって消える。


「うわ、それ消えるんだ」

「魔力を使い果たしたので、形が保てなくなるんですよ。ちなみに傍受されていたりすると、その塵が盗聴者の所まで飛んでいきます」

「結構高性能な術なんだなぁ」


 こともなげに言ってみせるロミに、イールが感心して言う。

 右腕にほぼ全ての魔力を喰われている彼女では、到底足りない魔力量が、今の数分で消費されているのだろう。


「遠話の首飾りを使わないのは、防犯上の問題だっけ?」


 いつかロミから聞かされた事を思い出し、ララが言う。


「はい。遠話の首飾りは事前の準備や大量の魔力消費が必要でない分、どうしても防御術式が省略されていて、傍受の危険性がありますから」

「通信の傍受ねぇ。されたところで私たちの旅の話なんて聞いてもそんな大した得にもならないと思うけど」

「一応、わたし達はヤルダの評議会からの任も背負ってるんですよ」


 眉を寄せるララに、ロミが目を細めて言う。

 今回、彼女達三人がこのプラティクスにやって来た目的も、本来ならば機密中の機密事項なのである。


「そっか、古代遺失文明の遺跡を探さないといけないんだった」

「忘れてたんじゃないだろうな?」


 あっと声を上げるララ。

 じっとりとした視線を向けるイールから目をそらし、彼女は空笑いをあげた。


「で、その遺跡はどの辺にあるんだ?」

「えっとねー」


 ララは懐から、二枚の紙を取り出す。

 それぞれレイラから託されたものと、精霊オビロンから貰った地図である。

 彼女達は頭を突き合わせ、二つの標を照らし合わせる。

 平原の真ん中に位置する、いびつなコインのような形のプラティクス。

 指し示す印は、その防壁の内側にあった。


「……町の中?」

「みたいですね」


 訝しげな声を上げるイールに、ロミが頷く。

 町の外ではなく中というのは些か予想外だった。


「これ、どのあたりだろ」

「町の地図がないのでなんとも言えませんね……。シスターに貰えないか聞いてみます」


 そう言ってロミが扉を開けて部屋を出る。

 彼女を見送り、ララは再度紙に目を落とした。


「町の中っていうのは、どうなんだろ。探しやすいのかな?」

「どういった感じで隠れてるのかにも依るなぁ。地中深くなのか、建物に紛れてるのか」


 顔を見合わせ、二人は困ったように息を吐く。

 もし何か建物の下に埋まっているのだとすれば、それを掘り起こすのはかなりの困難を要することだろう。


「貰ってきました!」


 それほど間を置かず、ロミが一枚の紙を片手に戻ってくる。

 プラティクスの町の詳細な地図が描かれたそれを二枚の紙の隣に置き、三人は再び頭を突き合わせる。

 そして――


「これは……」

「もしかして……」

「――――闘技場ですね」


 町の中でも一際大きな楕円形の施設。

 今正に、一年を通して最大の盛況を迎えようとしているその場所が、印とピタリと重なった。

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