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剣と魔法とナノマシン~最強SFチート娘のファンタジー漫遊譚~  作者: ベニサンゴ
第七章【大祭と叡智の鏡】

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第二百七十話「ロミがいてくれて良かったわ!」

 マーポリ村での物資補給を終えた三人は、荷物を鞄に詰めて村を発つ。

 踏み固められた土道を歩くこと一時間と少し、イール達はララに促されて森の中へと道を逸れる。


「この奥までサクラが移動させてくれてる筈なんだけど……」

「あの車、サクラも運転できるんだな」

「このあたりにあの車が入れそうな場所はないんですけど」

 

 ララはキョロキョロと辺りを見回しながら、道なき道を突き進む。

 彼女がなぎ倒した藪の跡を、二人も渋い表情を浮かべたまま追いかける。

 そうしていると、唐突にララが顔を上げた。


「お、いたいた。サクラー」


 彼女はそう言って、虚空に向かって手を振る。

 思わず顔を見合わせるイール達の前で、空間がぽよんと歪む。


「うわっ、光学迷彩か」

「初見じゃなくてもびっくりしますね」


 思ったよりも近い場所の空間がゆがみ、濃緑に塗装されたトラックが姿を現す。

 その中からぴょんと飛び出してきたサクラは、ララの下へとやってくる。


『指示通り待っていましたよー。道も偽装しているので、ばれていないと思います』

「ありがとう。流石ね」


 むんと誇らしげな声で言うサクラのすべすべとした銀色の表面を撫で、ララが労う。

 トラックの全機能を扱うのはララにしかできないが、ある程度の権限はサクラにも付与されているため、このようなこともできるのだ。


「なあ、ララ」

「どうしたの?」


 ロッドを落ち着かせながらイールがララに声を掛ける。


「そのトラック、プラティクスに入るときはどうするんだ?」

「……あ」

「お前、まさか何にも……」

「こここ、今回と同じようにどこかに隠しておけばいいわよね!」

「あの、ララさん。プラティクスの周囲は見晴らしの良い穀倉地帯なので、隠せるような森はここが最後かと」

「うそ!? ――どうしよ」


 地図を広げてロミが追い打ちを掛ける。

 何も考えていなかったララは、さっと表情を青ざめて二人を見る。


「……ここに置いていくしかないだろ」

「うぅ。せっかく取り戻した私のファクトリーが」


 イールの意見を聞いてなお、ララは未練がましくトラックの大きなタイヤに縋り付く。

 サクラの本体を除けば、彼女がここへ墜ちてきて初めて取り戻した大事な船体である。

 その執着振りも仕方がないと言えば仕方がない。

 とはいえ、だからといってこのように目立つ出で立ちのままプラティクスの町に突入するというのも、いらぬ注目を集めてしまう恐れがある。


「諦めな。どうせ荷物はロッドが背負ってくれるんだ」

「ですね。自分の荷物は自分で持てますし」

「そんなぁ」


 ねっとりと絡みつくようにしてトラックにしがみついていたララだったが、二人になだめすかされ、泣く泣く諦める。


「ごめん、サクラ。しばらくお留守番よろしく……」

『任せてください。ちょっとした休暇だと思ってゆっくりしますよ』

「そう思い切り良く頷かれると、それはそれで傷つくわね」


 そんなわけで、ララ達は急遽トラックを森の中に隠し、徒歩の旅へと戻った。


「うぅ、また歩きか。エンジン音がなくて寂しいわ」

「今までずっと歩きだったろ。あたしだってロッドに乗れないのは面倒なんだ」


 唇を尖らせ愚痴を漏らすララの白い髪に、イールがぽこんと拳を落とす。

 元々、ララと出会う以前はロッドに乗って各地を旅していた彼女は、ララ達が徒歩ということもあり自分もそれに合わせていた。

 ずっと荷物しか背負えず、ようやく主人を背に乗せることができていたロッドも、心なしか寂しそうである。


「そういえばララ。竜闘祭には参加するのか?」

「え? いや、しないけど」


 突然振られた質問に、ララはきょとんとしながら首をふる。

 するとイールは意外そうな顔をして鳶色の目を丸くした。


「なんだ、マーポリ村であれだけ食いついてたからてっきり参加するもんかと思ってたよ」

「嫌よ面倒臭い。どうせトーナメント戦とかなんでしょ? 時間が掛かる割におもしろく無さそう」

「ララさん、好戦的なのか面倒くさがりなのかよくわかんないですね」

「スポーツは好きよ。身体動かすのも好き。でもまどろっこしいのは嫌。竜闘祭に興味を惹かれたのは、観戦するのがおもしろそうだなって思っただけよ」


 ララはそういって肩をすくめる。

 彼女は身体を動かすことこそよく好むが、血みどろの争いが観たいわけでも悲鳴を聞いて愉悦に浸りたい訳でもない。

 その当たりのところをどうにも勘違いしているようだ、とララはロミを見る。


「それこそ、イールの方が出場したいんじゃないの?」

「あたしか? あたしだって嫌だよ。面倒臭い」


 ララの言葉に、イールはひらひらと手を振って否定する。

 傭兵という職業柄、彼女も好戦的な性格に誤解されることは多々あるらしく、その顔には煩わしいという感情がありありと浮かんでいる。


「こんな腕してると嫌でも注目集めちまうしな。基本的にはひっそりと日陰で暮らしていきたいんだよ」

「ええ……」

「そうだったんですか……」

「なんだよ二人してその顔は」


 そんな風には見えない、と言外に表す二人をイールが睨み付ける。

 そういえば昔はお淑やかだとテトルが言っていたな、等とララはいつかのことを思い出した。


「お、森を抜けるな」


 三人が森の中の道を歩くこと数十分。

 それほど広くもない森は次第に木々を疎らにし、差し込む陽光が溢れ始める。

 そして唐突に視界は開け、広大な丘陵地帯が姿を現す。


「ひゃー、広いわね! ここ一面畑なの?」

「みたいですね。となるとプラティクスももう少しですか」


 マーポリ村とプラティクスは、それほど距離を隔てていないらしく、彼女達の歩く速度なら一日もかからずたどり着けそうだった。

 丘一面をパッチワークのように覆う様々な畑を眺めつつ、彼女達はその間を縫って続く道を歩く。

 進むごとに道は固くしっかりと踏み固められたものに変化していき、いつしかそれはしっかりと整備された石畳へと姿を変える。

 疎らだった旅人達の姿も頻繁に目に付くようになり、彼女達は否が応でも大都市の接近を肌で感じ取っていた。


「あれがプラティクスかな」


 そう言ってイールが前方を指し示す。

 その先に見えるのは、丘の上を平たく覆う影だ。

 ララがじっくりと目を凝らせば、それが強固な防壁であることが分かる。


「へえ、プラティクスも防壁で囲まれてるのね」

「魔獣の被害を考えると、ある程度の大きさの町は防壁を持ってるさ。アルトレットみたいな例もあるけどな」

「まあ、大抵は防壁の外側まで家がはみ出してしまうんですけどね」


 彼女達が進むごとに、影の輪郭はより鮮明に、より詳細に分かるようになってくる。

 ロミの言葉通り、防壁の外にも人家らしき屋根が並び、細い煙も何本か立ち上っていた。


「道を歩く人も、屈強な人が増えた感じがするわね」

「やっぱり竜闘祭があるからでしょうね」


 すれ違う筋骨隆々の男たちを見ながらララがいう。

 巨大な鉄塊のような武器を背負い、がっちりとした重そうな鎧を着込みながら歩く姿は流石としか言いようがない。

 昼下がりとはいえ、こうも澄み渡る晴天の下をそんな重装で歩くなど、ララには到底考えられない行動である。


「どれくらいの人数が参加するんだろうなぁ」

「もしかしたら、最初は生き残りをかけた集団戦だったりするのかもね」


 町が近づくほどに肌に伝わる熱気を敏感に感じ取り、ララ達の声色も弾み始める。

 気が付けば防壁ははっきりと視認できるほど近づき、その見上げん程の大きさに三人は圧倒される。


「これは中々――」

「ヤルダに勝るとも劣らない立派な壁ですね」

「絶壁ね、絶壁」


 黒光りする、鋼鉄の壁。

 分厚く、背の高いそれを見上げ、感嘆の息を漏らす。

 街道の先に穿たれた大門は大きく開け放たれ、洪水のような人の往来で埋め尽くされている。


「……これ、今夜の宿あるかしら」

「あー、どうだろうな」


 ララの言葉に、イールが顔を顰める。

 確かにこれほどの盛況となれば、宿の空きがあるかも怪しい。

 安い宿を探せばあるかもしれないが、質や防犯上の問題が無視できなくなってくる。


「どうしたもんか」

「どうしましょっか」


 二人は額に手を当て眉を寄せる。

 これから探すとしても、すでに夕闇はそこまでやって来ている。

 どう考えても時間がなかった。


「それじゃあ、キア・クルミナ教の教会に行きますか?」

「え?」


 そんな二人に、ロミが声を掛ける。

 意外な言葉に二人が驚き彼女を見ると、ロミは目を細めて頷いた。


「教会なら立ち寄る武装神官用に多少の寝床は用意してありますし」

「それ、あたしらが泊まってもいいのか?」

「わたしの同行者ということで話してみます。多少の寄進を頂くかも知れませんが」

「それで宿が確保できるなら安いもんだ。ありがとう」

「ロミがいてくれて良かったわ!」


 ぽよんと胸を叩くロミの手を、イールとララが代わる代わる握りしめる。


「それじゃ、町の中に入りましょうか」

「いえーい!」


 宿の憂いも吹き飛び、すっかり調子を取り戻したララ達は、意気揚々と足並みを揃えて大門を潜るのだった。

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